過去を把握して信頼を勝ち取る

――平野さんは過去のメールの蓄積=仕事の記録と考えているそうですね

一般的に、用件がすんだメールをもう一度使うことはほとんどありません。そのため多くの人はそのまま放置しているか、定期的に削除しているかだと思います。しかしよく考えてみると、過去のメールはこれまでの仕事の記録=貴重なデータベースでもあります。

例えば当社は「以前セミナーに参加した者ですが……」という問い合わせをよくいただきます。なかにはいつのセミナーだったか覚えていない方もいますので、そんなときは氏名やメールアドレスをキーワードに過去のメールを検索します。

そのうえで「昨年の10月に○○様と一緒に参加なさっていますね」とお答えすると、「どうしてすぐにわかるのですか?」と驚く方もいます。こちらが過去のやりとりもきちんと把握していると伝われば、お客様はさらに信頼を寄せてくださいます。過去のメールをデータベースと考えると、このような使い方もできるのです。

――確かに自分のことをよく覚えている人がいると、うれしくなります

その一方で、会ったことがあるにもかかわらず「はじめまして」と言われたきの失望は大きいです(笑) 特にビジネスは大勢の人とかかわるので仕方がないのですが、過去にメールのやりとりをした人と再会するようなときは、当時どんな話をしていたかを振り返っておくことをおすすめします。

仕事の効率化は受信トレイから

――メールをデータベースとして使うときのポイントがあれば教えてください

メール振り分け機能を活用し、受信トレイのほかに複数のフォルダを用意することです。

私はメールマガジンやGoogleアラート、Facebook、mixiの申請など、仕事に関係のないメールは別のフォルダに振り分け、受信トレイのメール数を極力減らすようにしています。さらにセミナー申し込みや資料請求関連のフォルダは担当者にまかせ、自分は必要に応じてチェックすると決めています。

こうしておけば私が1日に対応すべきメールは30~50件程度になり、あとは順番に処理していくだけです。もし振り分け機能を使っていなければ、毎日100件近くのメールが受信トレイに殺到していることでしょう。

また未読のアイコンがあるとどうしても気になってしまうので、メールマガジンなどは思い切って「すべて既読」にするのも一つの手です。

受信トレイにさまざまな用件のメールが混在していると、判別に時間をとられてしまいます。「どうも仕事の効率が悪い」と感じているのなら、まずは自分の受信トレイがどんな状態になっているか確認してみてはどうでしょうか。

――メールの振り分けはできるだけ細かく設定したほうがいいのでしょうか?

使いやすさは人それぞれなので一概には言えませんが、私自身はあまり凝りすぎないように心がけています。

検索性が高いメールソフトなら、特定のアドレスやキーワードで検索するだけでフォルダをつくったときと同じ状態になります。何事もほどほどがいいのではないでしょうか。

下書きフォルダってどう使う?

たいていのメールソフトには「下書き」フォルダがありますが、これをうまく使う方法はありますか?

私は会社の住所や電話番号、ホームページのURLメールアドレスなどを書いて下書きフォルダに入れています。お客様から問い合わせを受けたときに参照したり、メールマガジンを書くときにコピーアンドペーストして使ったりします。 自分の本を紹介してくれた方のリストもあります。追加があるごとに編集者に報告するのですが、あらかじめメールに書いておくとワードやテキストメモを開く手間がはぶけます。

もちろん時間をかけて書きたいメールを保存しておくこともありますし、「本日メールマガジンを配信しました」というメールを下書きフォルダに入れ、翌日の朝に送信することもあります。夜中にメールのやりとりをすると迷惑になる場合も下書きフォルダに入れ、適当な時間まで待ちます。

トラブルを未然に防ぐメールメモ

――平野さんは社内で指示を出すときもメールを使うそうですね

例えば「この小包を郵送しておいて」と指示したのに、部下が処理していなかったとします。そんなときに「言った」「言わない」で争っても仕方がありません。そこで私は口頭で指示するだけでなく、必ずメールを送るようにしています。送り先住所や指定日時などを書いてメールしておけば、私がいつ指示したかの記録になりますし、部下も仕事がしやすいでしょう。

また電話で取引先と話している間にアポイントが決まったら、必ず確認メールを送ります。大事な日時を聞き間違えていないとも限りませんので、ひと手間かけて了承を得ておくのです。

このようにメールを連絡メモがわりにすると、トラブルの発生を予防することができます。

――メールでひんぱんにやりとりすることに批判的な人もいますが、平野さんはどうお考えですか

通信手段や交通網の発展により、一人の人間が一生のうちに会う人の数は格段に増えました。そんな時代に生きる私たちには、やはりメールが必要不可欠だと思います。もちろん直接対面することの大切さはいつになっても変わりません。とはいえメールが人間関係を希薄にすると考えるのは少々極端ではないでしょうか。メールもほかのツールと同様、使い方次第で人とのつながりを深めてくれるものだと思います。



INTERVIEWER PROFILE : 早川洋平 / KIQTAS(キクタス)
元中国新聞記者。2008年に始めたネットラジオ番組「人生を変える 一冊」をきっかけに起業。 現在は、企業や教育機関、公共機関などに音声(ポッドキャスト)を活用したサービスを提供している。インタビュアーとしても精力的に活動、渡邉美樹さん、茂木健一郎さんらこれまでにインタビューした人物は1,000人を超える