人間には自分を写す鏡が必要
――小飼さんはデジタルメモの特性は何だと思いますか?
忘れるためのメモであれば断然デジタルがいいでしょう。紙のメモと違ってかさばらないし腐りません。
それにデジタルメモは忘れやすいから後で読み返しますよね。その時に「こんなこと言ってたんだ」と思えれば勝ちです。なぜならそこでようやく自分にフィードバックが生じたから。つまり時が経って「自分」が「他人」になったということ。それがまた新たな創造を促すのです。
――自分を客観視しなければ創造はできないということでしょうか
人間には自分の姿が映る鏡が必要なんです。それは心だけではできません。できる人間がいるとすれば、おそらく釈迦ぐらいでしょう。
それに人がデジタルメモに書いた内容を忘れても、端末にはしっかりデータが残っている。だからどんどんデータが積み上がっていきます。
昔は積み上がった情報から必要なものを探すには相当な時間がかかりましたが、今は簡単に検索できる。だから私はデジタルで書いて忘れろと言っているのです。
――確かに検索エンジンは、いまやわたしたちの生活になくてはならないものになっている気がします
YahooやGoogleといった検索エンジンが登場したことによって、誰でも安心して忘れられるようになりました。「あとでググりゃいいじゃん」という言葉は嘆かわしいことのようですが、世の中の進歩とは、特殊な才能を持つ人しかできなかったことが誰でもできるようになること。苦労した人から見れば面白くないかもしれませんが、世の中の進歩は素直に受け入れたほうがいい。普通の人であればなおのこと、その恩恵にあずかるべきです。
デジタルの新局面に立ち会う
小飼さんもお持ちのiPadは、タッチパネルを活用した面白いツールですね
iPadやiPhoneが普及したのは、「人と機械の間に何もなくなった」からだと思います。本来人間が使うにはペンやキーボードは邪魔だったのですが、技術が発達してやっとそれらが取り払われたということでしょう。ようやく人体の動きや人間の気持ちに沿った機械がつくれるようになったのです。
例えばiPadには、向かい合った相手と筆談ができるアプリ『筆談パット』があります。自分が指で書いた文字が反転して相手にも見えるのです。たわいないことかもしれませんが、「こういうのがあったらいいな」という気持ちをそのまま実現してくれたような面白さがあります。
このほか、話者の音声を認識してGoogleで検索してくれるアプリ『Google Mobile App』もありますし、題名を忘れてしまった歌の一節を歌うと検索してくれるアプリ 『Midomi SoundHound』もあります。音声認識技術もどんどん発達してきています。
――そのうちにデジタル対アナログという概念も薄れてきそうです
最近は『手書きブログ』も人気だそうです。実は手書きを再現することは技術的に難しいし、テキストデータに比べて容量も大きくなってしまう。しかし楽しさはこちらが上。これもまた新たな技術を生み出す原動力になるでしょう。私たちは今まさに、デジタルの新たな局面に立ち会っているのです。
(撮影 : 中村浩二)INTERVIEWER PROFILE : 早川洋平 / KIQTAS(キクタス)
元中国新聞記者。2008年に始めた著者インタビューポッドキャスト「人生を変える 一冊」をきっかけに起業。現在は、企業や教育機関、公共機関などにポッドキャストを中核としたサービスを提供している。インタビュアーとしても精力的に活動、渡邉美樹さん、堀江貴文さん、石田衣良さん、寺島実郎さんらこれまでにインタビューした人物は1,000人を超える。
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