『リストラなう!』のたぬきちに聞く!

リストラなう──Twitterで日常的に使われるフレーズでうまく中和されているような気もするが、それでもやはり強烈なタイトルだ。大手出版社で始まったリストラ模様を、"リストラを受け入れた"当事者の目線で綴るブログ「たぬきちの『リストラなう』日記」は、2010年3月の開始当初より話題を呼んだ。同年5月いっぱいで退職するまでの間、社員の動揺や牽制し合う様子、自身の給与や退職金などを赤裸々に語り続けた。共感も反感もないまぜになった読者コメントに、こんどはブログ主"たぬきち"がエントリーで返す。そのやりとりがブログの面白さを加速度的に押し上げていった。『リストラなう!』(新潮社)は、このブログで起きた事柄を記した一冊だ。すでに20年来勤めた会社を退職したたぬきち氏に、ブログのこと、これからのこと、問いかけてみた。

たぬきちの『リストラなう』日記」のブログ主であり、『リストラなう!』の著者であるたぬきち氏(同書のペンネームは綿貫智人)

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──ブログ上では「たぬきち」のハンドルネームで書かれていましたが、本書の著者名は「綿貫智人」となっていますね

リストラなう!』(綿貫智人 著/ 新潮社 刊)

この本には、私のブログエントリーだけでなく、読んでくださった方々から寄せられたたくさんのコメントも掲載されているので。

──奥付のプロフィール欄には「綿貫智人とは『たぬきちと人々の輪』という意味の架空の名前」であり、本書は「結合著作物です」とあります

はい。私のような人間がブログの更新を続けられたのも、こうして1冊の本としてまとめられたのも、エントリーを読んでくれて、コメントを寄せてくれた方がいてくれたからこそ。私の力ではとうてい成し遂げることができなかったと思っています。私個人に対してはこれまで同様、どうぞ「たぬきち」と呼んでください(笑)

──それにしても、ぶ厚く、読み応えのある本になりました

それはもう、新潮社のご担当各位が頑張ってくださった結果です。装丁にしろ、レイアウトにしろ、いろいろ考えて労を惜しまず作ってくださったので。膨大なコメントをチェックするだけでも大変だったことでしょう。ホント、感謝してます。

──ブログは、会社のリストラ騒動を機に始めたわけではないそうですね

ええ、もともとブログは立ち上げていました。とはいえ、いわゆる身辺雑記的な内容で、平和なものでした。

ただ、今年の3月、会社で早期退職優遇措置が始まったんです。要するにリストラです。対象は、編集を含む全部署の50歳以上と、営業・管理部門の40歳以上。私は営業にいて、もろに対象となったわけです。

これはトピックとして、ネタとして面白い……と言うと語弊がありますけど、リストラが進むさまを内部から、それも対象者の目線で描いていくことで、何か意味のある発信ができるんじゃないかなと考えたんです。そこで、ブログのタイトルを"たぬきちの「リストラなう」日記"と変更して、リストラの渦中にあるたぬきちが実際に体験した出来事や思いを綴る内容にシフトしました

──程なくコメント欄に賛否両論が入り乱れて、ブログは加速度的に盛り上がっていきました。ブログ上で会社名などは伏せていたわけですが、簡単に暴かれて公然の秘密のようになったり、たぬきちさんの個人情報もリークされるようにして出回ったりもしました

2ちゃんねるやTwitterでもけっこう話題にしていただきましたからね。でも、関心を持つきっかけや、私のブログにアクセスする入り口が、別に2ちゃんで見たネガティブ意見でも全然かまわない。むしろ大歓迎。そういう意識でいました。

昨今の経済状況を鑑みれば、どんな企業においても経営戦略上リストラを選択する可能性がある。しかし、出版業界ではこれまで、それほど積極的に取り組まれていなかった。他の業界・業種では当たり前のように行なわれてきたことで、むしろ株主からは評価され、株価が上がったり業績が上向いたりするような出来事なのに。

出版業界、それもそれなりに歴史のある総合出版社が初めてリストラに取り組むという場面に当事者として立ち会えるわけですから、そこでの経験をブログに残していくことは、一定の意義があるんじゃないかな、と。とはいえ、更新を続けている最中はいろいろ葛藤もあり、壁にぶつかることの連続でしたけど。

そこで支えになったのは、やはり読者のみなさんからのコメントですね。本当にたくさんのコメントをいただきました。内容が肯定的だろうと否定的だろうと、私としては反応を返してもらえたことが嬉しかったし、ブログを更新するモチベーションになりました。……続きを読む