世界にはたくさんの観光地があるが、一口に観光地といっても様々な趣がある。世界遺産などの歴史的建造物や美術館巡り、山登りやスキーなどのアクティビティ、のんびり温泉……。しかしここブルゴーニュに至っては、そのほとんどがワイン目的でやってくる観光客であろう。世界屈指のワイン処であることは周知の事実なのである。そんなブルゴーニュでは昨今、ワイナリーがレストランやホテルを経営したりという動きが盛んらしい。こういったホテルやレストランを利用し、ワインのテイスティングはもちろんのこと、周辺の畑を巡ったり、はたまた収穫を手伝ったりする「エノツーリズム」が定着しつつある。今回はエノツーリズムに最適な施設や周辺の観光スポット、観光者も気軽に参加できるワインスクールなどを紹介していく。
ワインツアーの起点となるボーヌ
ここブルゴーニュは、ワイン街道の北の入り口であるディジョン以外は都市と呼べるほどの大きな町はない。この地を見てまわるのならコート・ド・ボーヌの中心であるボーヌの町を起点にするといいだろう。人口2万3,000人と小さな町で、高級ブティックはないがワインショップやオシャレなレストランが軒を連ね、町の中だけなら十分歩いて回れる。4月から10月までの間なら、周辺をぐるりと1周できるミニバス(Visiotrain=ヴィジオトラン)も走っている。車があれば南北に長いコート・ドールのほぼ真ん中なので、北のコート・ド・ニュイ地区も南のコート・ド・ボーヌ地区も自在に移動ができるし、なければ日帰りバスツアーを利用すればいい。
ワインオークションが開催されるオスピス・ド・ボーヌ
そのボーヌの町の中心に荘厳と構える殿が目に入る。ブルゴーニュワイン好きにはおそらく知らぬ者はいない建物である。例え知らなくても、「あれは何? 」と指差して聞いてしまうほど立派な佇まいである。
1443年、その「オテル・デュー」は建設された。「オスピス・ド・ボーヌ」といった方が俄然通りがいいこの建物は、1971年まで実際に病院として機能していた。道路に面した側はグレー瓦屋根で見た目は厳かなゴシック様式。一歩入った中庭をぐるりと囲む色彩鮮やかなフランドル様式の建物のコントラストは見事である。
この建物自体もロジェ・ヴァン・デール・ヴェイデンの描いた「最後の審判」もすばらしいが、ここを有名にしているのはなんといっても11月の第3日曜日に行われるワインオークションだろう。
民間から寄付された畑で採れたブドウからワインを造って樽単位(228L)でオークションにかけるといったもので、得られた収入はボーヌの市立病院の運営資金となっている(現在、病院機能は別の場所に移転している)。そうして競り落とされたワインは瓶詰めされ、競り落とした人や企業の名前を記したエチケット(ラベル)を貼って売り出すことができる。ただし、記された名前、畑名、ヴィンテージが違おうが、貼られるエチケットのデザインは統一されていて、すでに「オスピス・ド・ボーヌブランド」としての地位が確立されている感がある。当然のことながら市場に出回る値段はお高めである。それでも日本で手に入れるよりははるかに安価であるので、見つけたら購入してみるのもいいかもしれない。
以前、何度か説明したかと思うが、造り手の名前に、ボルドーでは"シャトー"が付き(例: シャトー・マルゴー)、ブルゴーニュでは"ドメーヌ"が付く(例: ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)ことが多い。実際ボルドーの造り手を訪ねると、その名の通り立派な門構えの奥に荘厳な造形美のシャトー(城)がデンと構えている。が、実はブルゴーニュにも"シャトー"と名の付くワイナリーが存在し、そこには確かに城がある。そこで、観光名所にもなっている2つのシャトーをご紹介しよう。
期間限定でレストランにもなるシャトー
まず1つ目はボーヌの町から南に下ること4km、ポマールの村にあるその名も「シャトー・ド・ポマール」。この地はピノ・ノワール種から赤ワインのみがAOC(原産地統制名称)を名乗れる村である。偉大なるブルゴーニュの赤ワインの中で、日本ではわりかし地味な存在に思えるポマールであるが、アメリカ人には熱烈なファンが多いという。なんでも"ポマール"という響きがアメリカ人にはたいそう受けるらしい。
1726年にシャトーは完成。オーナーは交代していったが、4代目となった今も変わらずシャトーの目の前の畑からワインを造り続けていて、もちろん試飲もできる。そして一般の観光客にも開放するべく、2003年にオーナーとなったモーリス・ジロー氏が7,000万ユーロをかけてシャトーを大改修。18世紀当時実際に使われていたブドウのプレス機や大樽などが展示されたちょっとした博物館をそなえ、中庭にはあのサルヴァドール・ダリの彫刻が2つ鎮座している。
さらに12あるサロンや明るいテラス、広大な庭においては復活祭(イースター=春分の後の満月後すぐの日曜日)から前述のオスピス・ド・ボーヌの競売会(11月第3日曜日)までの間、昼間だけのレストランを開いていたりと"ワインと文化の融合"を図っている。
「栄光の3日間」の舞台に
もう1つは、「ル・シャトー・デュ・クロ・ド・ヴージョ」。ブルゴーニュワイン好きならこの建物自体よりもグランクリュのワイン「クロ・ド・ヴージョ」としての認識度が高いかもしれない。ボーヌの街から北に25kmほどの場所にあり、村としてはニュイ・サン・ジョルジュになる。畑はエシェゾーとミュジニーに隣接する50haほどで、クロ(石垣)で囲まれた中に、実に80以上の所有者がこのグランクリュ「クロ・ド・ヴージョ」になるべくブドウを栽培している。目の前のシャトーは12世紀に建てられた部分と、1551年にシトー派の修道長が建てた部分があり、現在はシュヴァリエ・デュ・タストヴァンの本部にもなっている。
11月第3日曜に開かれるオスピス・ド・ボーヌのワインオークション前夜には、このシャトーで盛大なる晩餐会が開かれる。そしてワインオークション翌日月曜には、ムルソーでの午餐会が開かれる。この3日間を「栄光の3日間」と呼び、ブルゴーニュの秋の一大イベントとして知らしめられているのだ。それだけにここのシャトーの料理には定評があり、結婚式をはじめとする一般の様々なイベントにも活用されている。もちろん、観光客にも開放されていので、74号線を通ってこの大きなシャトーを見かけたら立ち寄ってみるとよい。