速くて合理的な略語

――メカニック時代もよくメモをとっていたのですか

メカニックは整備のために手を動かしている時間が多いので、メモをとることはほとんどありませんでした。そもそも文章を書くことが苦手で、字に自信がない人も多かったと思います。ただし、自分がどの作業を完了させたかを作業票に書きこむ必要があるので、その時は略語で書くことになっていました。

――メカニックをはじめ、製造業ではよく略語を使っているのですか?

他のメーカーに勤めている友人たちに聞いてみたところ、略語を使っているという答えが多かったです。製造現場や工場では短い時間で物事を伝える必要があるので、それにともなって略語が開発されてきたのだと思います。

――当時使っていた略語にはどんなものがありますか

メカニックは自動車点検整備記録簿※にしたがって略語を書いています。

※自動車点検整備記録簿
自動車の点検と整備の結果を記録して、その管理や維持に役立てるためのもの。
参考 : 自動車検査独立行政法人ホームページ

例えば「調整」を漢字で書くと時間がかかるので、「ADJUST(アジャスト)」の頭文字である「A」をとって1文字で書きます。他に「ねじ締め」は「T」、「給油」は「L」と表します。その考え方をビジネスに応用したのが略語メモ術です。

自分で略語をつくる

――略語メモ術とはどのようなものですか?

ミーティングを「MTG」と書くのと同様に、他の事柄もアルファベットに略してしまうのです。

  • 打ち合わせ⇒「UT」
  • 直帰⇒「CK」
  • 外出⇒「GS」
  • 青山⇒「AY」
  • 新宿⇒「SJ」
  • 榊原(さかきばら)さん⇒「SB」
  • 五十嵐(いがらし)さん⇒「IGR」

これらは私が考えた略語ですが、自分の予定や地名はもちろん、画数の多い人名も略語にしています。手帳はどうしても書くスペースが限られてしまうものです。とはいえあまり大きいサイズの手帳は持ちたくない。ならば書き方自体をコンパクトにすればいいと考えたわけです。それにアルファベットなら自分の字に自信がない、書くのが面倒だという人でも気負わずにすむのではないでしょうか。

――わかりやすい略語をつくるポイントはありますか? また、略語に慣れるまでは符号表を持つべきでしょうか

私はシンプルに頭文字をとって略語をつくることにしています。鈴木さんなら「SZK」、島田さんなら「SMD」というように。それで大体はわかるのではないかと思います。もちろん慣れるまでは「CK(直帰)」のように略語の近くに解説を書いてもいいでしょう。符号表をつくるとなると面倒ですし、いきなりすべてを略語にする必要はありません。まずは書く回数や画数が多い文字から始めればいいと思います。

略語に慣れるために、文字を少しずつ縮めていく方法もあります。私は家族や友人の誕生日を手帳に書いているのですが、何度も「誕生日」と書くのは大変なので、「BIRTH DAY」と英語にしました。それからだんだん「BIRTH D」になり、最終的には「BD」でもわかるようになりました。参考にしてみてください。

略語メモのメリット

――原さんはいまやスケジュールもほとんど略語だけで書いているそうですね

そうなんです。例えば

UT×SB @SJ/13

が何を意味しているかわかりますか? これは榊原さんと打ち合わせをするという意味です。その次の@マーク以下は場所と時間を表しています。この場合は新宿で13時ということです。

UT(打ち合わせ)×SB(榊原さん) @SJ(新宿にて)/13(時)

さすがに略語をすき間なく並べるとわかりにくいので、自分の予定と人名のあいだには「×」を書き、「@」の次に場所、「/」の次は時間と決めています。このように書く順番もパターン化しておくと便利だと思います。

原さんのある一週間のスケジュール。メカニック時代から愛用のドライバーを押さえに、撮影させてもらった

おそらく予備知識のない人が UT×SB @SJ/13 と書かれているのを見ても理解できないでしょう。略語は速く書けるのと同時に情報を保護する役割も果たしてくれるのです。

――スケジュールの他に略語メモを使う場面はありますか?

セミナーで話を聞くときも略語でメモをとります。ただし一字一句を書きとめようとは考えず、キーワードだけを拾うようにしています。「てにをは」をきちんと書く必要もありません。あとはそれをつなげるだけなので、レジュメを簡単につくることができます。セミナーに参加できなかった友人に渡せば喜ばれますし、略語メモを文章に直す作業は、自分の思考力を養う訓練にもなると思います。

――略語メモはどんな人に向いているでしょうか

アポイントをとって動き回ることが多い営業の人におすすめします。私も仕事で外出する機会が増えたので、略語を使う頻度が高くなりました。 顧客の重要な情報を取り扱うことが多いコンサルタントにも向いていると思います。万一に備えて、自分にしかわからない略語で書いておけば情報保護に役立つのではないでしょうか。あるいは奥さんに知られたらまずいことを略語にしてもいいですしね(笑)

――優秀なメカニックの考え方はビジネスの場でも参考になります

メカニックというと「物づくり」や「職人」のイメージが強いかもしれませんが、彼らは車を通して合理的な考え方を学んでいるし、問題を解決する速さもかなりのものです。私は他業種に転職しましたが、メカニック時代の経験はビジネスに十分通用すると感じています。今は執筆業にも携わっているので、彼らの素晴らしさを発信していければと思っています。

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次回は、「なぜ5回メモ術」についてうかがいます。

INTERVIEWER PROFILE : 早川洋平 / KIQTAS(キクタス)
中国新聞社記者、全国紙系編集プロダクションのライターを経て入社した企画会社で2008年、良書の著者へのインタビュー音声を無料で配信するポッドキャスト番組「人生を変える 一冊」をスタート。配信後2カ月でiTunes store podcastビジネスランキングで21日間連続1位を獲得、月間20万DLの人気番組に成長する。独立起業した現在は、インタビューやライティングに加え、ポッドキャストを軸にしたコンサルティング、コンテンツプロデュースなどを行っている。
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