──12時間生放送を通じて得られたものは?

横澤 マーケティング面で言うと、ニコニコ生放送のユニークユーザー数は直近の3カ月で月間10万人ずつ増えていて、いまは30万人から40万人のパイになってきています。今回の生放送で、局地的な集客能力はかなり上がっているというデータはとれました。12時間という長時間ではありますが、のべ視聴者数は約25万人。我々が何かを仕掛けたときの瞬間風速はかなり大きくなっています。

──集客面以外で得られたものは?

横澤 対話性をどこまで広げられるかという点ですね。出演者が(ユーザーの)コメントを拾う・拾わないという話がありますが、たくさんのゲストに出てもらったことで──「出演者を教育」と言ったら失礼ですが──ニコニコ動画の仕組みを理解していただけました。いかに運営側がコメントを拾う文化を理解していても、出演者が理解していないと、それは番組として成り立たないわけです。コメントを拾うと何が起きて、どういうことに触れたらどう盛り上がるのかを知ってもらわないと、運営側が考えていることがユーザーさんにも伝わらない。それが大勢の集客の中で出演者の方にわかっていただけたことはとても大きな収穫でした。

──運営スタッフが得たものは

横澤 スタッフ側ですと、「12時間をこなせた」ということ。企画開始から3週間程度で形にできたことは奇跡なんです。テレビの24時間番組なら300~400人ほど関わっていると思いますが、CELLでは50人くらい。約1/6のリソースでここまで組み上げたことは、自分たちでも驚きでした。オマージュとして企画した「110kmの自転車の旅」などもすべて成功したことは、我々の自信になったし、本当に集大成になりましたね。年間300本を生放送し、来年は450本くらいになります。ほかの会社ではありえないでしょう。いまのWeb業界でここまでコンテンツを考えて作り上げる会社はないと思っています。

──ニコニコ生放送の番組を制作するうえで大事にしていることは?

横澤 今、ニコニコ動画には「生放送で心がけていきたい」と考えるふたつのコンセプトがあります。ひとつは、「感情を持っているメディアでありたい」ということ。もうひとつは「季節感を出していく」ということ。情報を与えるという無機質な部分でしかないネットを、いかに感情的なメディアとして成立させるか。たまにはミスをする、良いこともする、いたずらもする……ニコニコ生放送ではそうした感情があるという番組作りを行なっています。アナログの良さの季節感というものも出していきたいんです。季節ごとの小さな企画、七夕や花火でもいいから生放送を通じて季節を感じてもらいたい。パソコンの前にずっと座っていたとしても、外に出て行かないのだとしても、花火を鑑賞している感覚だったり、「ああ、今日は七夕なんだ、番組の中で願いごとを書いてみようかな」とか。日本の古き良き文化や季節感というものをニコニコ生放送で伝えていければ、感情を持って生活に入っていけるメディアになれるんじゃないでしょうか。我々はそうした考えで生放送に取り組んでいます。

──CELLでは生放送番組を安定して運営するノウハウが蓄積されているようですが、あえて課題を挙げるとすると?

横澤 あえて課題と言うと、次の12時間をやるとしたら、これを超えられるのかという課題ですかね(笑)。今後は、ユーザー生放送と本放送を結びつけて行く仕組みを作っていこうと考えています。本放送からユーザー生放送に突撃していって意見を聞く仕組みなど大いに考えられます。

 ユーザー生放送のほうがおもしろいときがあります。12時間ライブで自転車(110km走破企画)をやりましたが、その裏でユーザーが自転車をこいで、追っかけて中継をやっている放送がすごく面白かったです。そういうのに負けないようにやらないといけない。我々では発想できないところがあります。なにも喋らずに食事を続ける放送とか、我々では考えられませんが、そういうことなのだと思います。ホリエモンとひろゆきがワインとピザでトークするように(テレビとも違う)"普通ではない発想"をしていかないと。タレントさんに出てもらうのもひとつの手ですが、そういうところじゃない発想で面白いものを作らないといけないという大きな課題はあります。負けそうですもんね、その発想には。

──12時間ライブのように魅力的な放送も、放送時間に合わせられないユーザーは多いと思います。数々の番組ラインナップを持つニコニコ生放送ですが、アーカイブを提供する予定は?

横澤 ネットの特性をいかして認知度を上げるという政策はやっていかなければいけません。アーカイブをするかどうかは置いておいて、課題としては持っています。たしかに、その時間にいないと生放送を見られないわけで……。アーカイブにはやり方も特性もあるので、ライブの特性をいかしながら検討していきたいと思います。

──24時間企画への期待もありそうです

横澤 「この季節にはこういう企画をやるだろう」という期待感がユーザーさんにはあります。「24時間をやる」とは簡単には言えませんが、ここまで大成功したものをやらないわけにはいかないので、ユーザーさんの期待に応えていきたいですね。