体操との出会い、そして"体操のお兄さん"に

――少し歌から離れて、佐藤さん自身のことをお伺いしたいのですが、最初に「体操のお兄さん」としてデビューした『おかあさんといっしょ』のオーディションを受けようと思ったきっかけは何だったのですか?

「オーディションを受けるきっかけは、そのときに付き合っていた彼女が、今のかみさんなんですけど(笑)、ちょうどその頃、テレビ体操で"体操のお姉さん"をやっていたんですよ。僕は当時、自分の父親が病気で倒れたので、家業の焼き鳥屋を手伝っていたのですが、そんなときに彼女が、『NHKで体操のお兄さんのオーディションがあるみたいよ』って教えてくれたんです。『ひろみちくんやってみれば』って。焼き鳥屋をやっていたら、オーディションを受ける機会なんて、もう一生ないだろうって思ったので、とりあえず書類だけでもと思って提出してもらったのが最初ですね」

――もともと、そういった仕事に興味はあったのですか?

「まったくなかったですね。大学を卒業して、世田谷区の教育委員会で1年間務めて、2年目は、フリーのインストラクターの仕事を掛け持ちでやっていたのですが、そんなときに父が倒れてしまったんですよ。実は僕は三代目になるのですが、代々続いている家業ということもあり、それまでの仕事も辞めて、真剣に家業を継ごうと思っていたところだったので、その頃は完璧に『焼き鳥屋のお兄さん』といった気分でしたね(笑)」

――体操に対する未練などはなかったのですか?

「全然なかったですね。小さいころから焼き鳥一本で、僕のことを大学まで進学させてくれた父と母の姿を見ていたので、焼き鳥屋をやっていれば、ちゃんと家庭も持てると思っていましたし。だから、もしそのオーディションがなかったら、今ごろは三代目として新宿で焼き鳥屋をやっているでしょうね」

――そんなときにオーディションに受かったわけですね

「そうなんですよ。ちょうど受かったときは、母と二人で焼き鳥屋を切り盛りをしていたので、まずは母に相談してみたところ、『こんなチャンスはまずないんだから、とりあえずやってみれば』って背中を押してくれました」

――オーディションに受かったときはどれくらい続けようと思っていましたか?

「『おかあさんといっしょ』の"体操のお兄さん"って実は契約社員なんですよ。芸能人でもなんでもなくて、1年契約なんですね。それで、1年が終わったら翌年に更新するかどうかという話になるのですが、それが12年も続いてしまいました(笑)」

――ちなみに佐藤さんが体操を始めたきっかけは何だったんですか?

「子どものころって、やっぱり男の子だったらヒーローものに憧れるじゃないですか。それでヒーローって、クルクルクルって回って敵をやっつけるでしょ? それを観ていてカッコいいなって思っていたんですよ。そうしたら、テレビで体操の選手がヒーローと同じようにクルクルって回っているじゃないですか。それを観て、『あ、俺も体操の選手になろう』って思ったんですよ。これで俺もヒーローになれるって(笑)」

――実際に体操を始めたのはいつごろですか?

「小学校のころ、学校の体育の延長のような"体操クラブ"に入っていたりもしたのですが、本格的に始めたのは、実は遅くて、高校に入ってからなんですよ。それまでは本当に学校の体育の延長みたいな感じで、遊び半分でやっていただけですね。でも運動神経だけは超良かったので(笑)、小学生のころから、誰にも教わらずに、砂場でバク転とかはできましたよ」

――本格的に開始したのは高校1年生ということですね

「そうなんですよ。ただ、高校1年生のときに、首の怪我をしてしまって、それでもう基本的にはドクターストップだったのですが、何とか高校3年間はやりとげて、一応東京都の種目別の吊り輪で6位に入賞したんですね。その賞状を貰った段階で、体操に対する未練がなくなって、『器械体操』はやめてしまいました」

――首を怪我したというのは?

「頭から落ちて頚椎、首の骨がずれちゃったんですよ。今でもワイヤーでとめてあるんですけどね。その怪我の影響で、もう2回宙返りとかは怖くてできなくなってしまったんですよ。その代わりに捻りワザなどを練習していたのですが、やはり2回宙返りができないようでは、オリンピックの選手なんか絶対になれませんから……。それでもう器械体操はあきらめました」

――その後、大学(日本体育大学)に進まれてからは?

「競技ではない体操があるんですよ。マスゲームや組体操のような、いわゆる見せる体操。それを4年間やりました。この経験が"体操のお兄さん"としてはすごく活きていると思います」

――「見せる」という点は「器械体操」でも重要だと思うのですが、どういったところにちがいがあるのでしょうか?

「競技の体操は、難度が高いと点数が上がってくるわけですよ。一方、マスゲームなどは、いかに簡単なことを派手に見せるかが重要になってくるんですね。もちろん多少難しいことをやったほうが盛り上がりますが、基本的に難度は関係ないんですよ。あと、踊り方もちがいますね。器械体操はひとつひとつの動きをカチカチカチってきめていくのですが、競技でない体操は、滑らかに踊る。このあたりの動き方にもちがいがあります」

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