六本木の街が桜色に染まる前にアートに染まった。アートの発信源として注目を集める六本木が、街を挙げて一夜限りのアートの祭典『六本木アートナイト』を28日から29日にかけて開催した。

同イベントは、東京都、東京都歴史文化財団、六本木アートナイト実行委員会(国立新美術館、サントリー美術館、東京ミッドタウン、森美術館、森ビル、六本木商店街振興組合)の共同主催事業として行なわれたもの。桜がほころびかけているものの、寒の戻りか、真冬のような寒さになった28日夕方のオープニングだったが、観客で埋め尽くされた六本木ヒルズアリーナは、人々の熱気が寒さを吹き飛ばすほどとなった。

オープニング・セレモニーの司会を務めたテレビ朝日大下容子アナウンサーとともに、アーティストのヤノベケンジ氏がステージに上がると、本イベントの目玉と言える『ジャイアント・トラやんの大冒険』が紹介され、数々のパフォーマンスが披露された。

観客とともにジャイアント・トラやんを呼び覚した作者のヤノベケンジ氏と司会の大下アナ。手前の黄色いスーツが、元祖『トラやん』

けやき坂脇に登場したジャイアント・トラやんは、なんと7.2mの巨体を自走式の台車に乗って、アリーナまでスロープを移動した

キューピーのような顔立ちに、重厚なシルバーのパイロットスーツのようなものを纏ったジャイアント・トラやんは、体長7.2mという超ビックな動く巨大機械彫刻だ。2004年に森美術館で行なわれた「六本木クロッシング」ではじめてお目見えしたトラやんは、ヤノベ氏のお父さんが定年を機に始めた腹話術人形をヒントに制作したもの。それから紆余曲折、さまざまな出会いを経て、六本木ヒルズに再び降臨したジャイアント・トラやんは、観客のかけ声で息を吹き返した。手を振って踊ったり、お気に入りの歌「森へ行きましょう」(会場が森ビルだけに?)を歌うなど終始、上機嫌。そしてついに口から5、6mはあろうかという火柱を吹き放つと、アリーナは割れんばかりの歓声に包まれた。

火を吹く、超ゴキゲンのジャイアント・トラやんの雄姿

ヤノベケンジのトラやんと12人編成のブラスアンサンブル、チャンチキトルネエドによるジョイント・ライブパフォーマン スが実現

その後、六本木ヒルズ、国立新美術館、東京ミッドタウン、サントリー美術館の4カ所を中心に、六本木の街はアートでいっぱいになった。各会場や六本木の街中には、日比野克彦氏のディレクションによる多数のコンテナを使ったアーティストごとに作品を展示する『アートキューブ』が出現、六本木の街そのものが美術館と化した。また、文化庁メディア芸術祭で功労賞を受賞した中谷芙二子氏による『霧の庭 : 毛利庭園(♯47662)』が行なわれたテレビ朝日前の毛利庭園や、平野治朗氏による1,000人もの人々が光る風船を手に夜の六本木をパレードする『《GINGA》@六本木』のゴールとなった東京ミッドタウン芝生広場は、桜とともにアートが幻想的な春の宵を演出していた。

■「霧の庭 : 毛利庭園(♯47662)」(中谷芙二子)

もうもうと滝のように霧が吹き出す時もあれば、静かに霧が水面を滑るように進む時も。千変万化に表情を変える幻想的な世界が現出

池の畔にはすでに花をつけた桜もあり、霧ととも庭園が風情ある表情に。

■「《GINGA》@六本木」(平野治朗)

国立新美術館をスタートし、六本木ヒルズを回って、東京ミッドタウンにやってきたパレードの一行は、桜並木を進みゴールの芝生広場に

無数の光る風船が芝生広場を埋め尽くした。向こうに見える東京タワーも作品に参加しているよう

■その他にも……

六本木エリア内にはアート作品を収めた多数のコンテナが出現した。そのうち14の作品にはアートディレクターの日比野克彦氏による「キューブからの指令」が。「アーティストファイル2009」が開催されている国立新美術館(写真)にも「3つのアートキューブ」が出展された

「ROPPONGI MOSTER!」岸ナイル

六本木通りに面した場所に設置されたアートキューブ作品

「春風のいたずら 2009」浜野雄輝

東京ミッドタウンに設置されたアートキューブ作品。日比野氏からの指令は「やさいがめくっているのは?」

「礼拝」「分裂♯3」大平實

「3つのアートキューブ」には、大平氏の他、石川直樹氏、村井進吾氏の作品が展示されていた

「in to the blue」藤原隆洋

六本木ヒルズ内のウェスウォークに出現した回転式巨大バルーン。最大直径8.5mもあり、中心の真下に入ると吸い込まれていくような錯覚に

「カラーフィールド」高橋匡太

六本木ヒルズの玄関口、66プラザに高橋氏の大規模なライト・インスタレーションが出現。人々で賑わう広場が光の庭に