いにしえの世界を感じさせる山道へ

発心門王子を出発して1時間あまり、「水呑王子」から古道は山中の道となった。杉林の中へ入っていくと、陽射しが遮られて、すっと空気が冷たくなる。足元にはやや不揃いな石畳の道。いかにも古道の名前が似つかわしい。まっすぐ空へと伸びる木々のシルエットには、どこか荘厳な凛々しさが感じられた。

道端にはいろいろなお地蔵さんがあり、歯痛の地蔵も(写真左)。水呑王子にある地蔵(写真上)は腰痛に効くとのこと

道には石が敷かれていたり、柔らかな土だったり、木々の根が浮かび上がっていたりと、その場所その場所で変化に富んでいる。地面や木の切り株には、コケ類も目立つ。しっとりと水分を含んだコケの中には、小さな花を咲かせている草もある。足元の世界もなかなか魅力的だった。

20分ほど歩くと、再び舗装道へと出た。村を抜けて「伏拝(ふしおがみ)王子」に到着。ここで手づくりの弁当をいただく。ここからは、以前熊野本宮大社があった大斎原(おおゆのはら)がかすかに眺められるため、「やっとここまで来た」という感激で人々が伏し拝んだという。なお、大斎原には1889(明治22)年まで社殿があったが、大洪水の被害にあったため、現在の場所に移された。

地元の食材を使った弁当は、体に染み込むようなおいしさだった

伏拝王子からは、再び山道が続く。途中、三軒茶屋で小辺路(こへち)呼ばれる高野山からの古道と合流。残りは約2キロの道のりとなった。少し歩くと古道からそれる寄り道があり、展望台へと続いていた。大斎原にある大鳥居がはっきりと見えた。2000年に設置されたこの大鳥居は、高さ34メートル、最大幅42メートルという日本一巨大なものだ。

(左) 伏拝王子からは、さらに山道が続く。目的地まではもう少し(上) 展望台から眺めた大鳥居。大斎原は熊野川、音無川、岩田川の3つの川の合流点にある

展望台から戻り、下り坂をひたすら進むと、団地へと出た。すぐ先に「祓所(はらいど)王子」がある。これが最後の「王子」である。参詣人がここで禊(みそぎ)をし、お祓いをして身を清めたため、この名前がつけられたという。「祓所王子」を過ぎると、本宮大社の裏鳥居が現れた。

本宮大社へと下る最後の道。いにしえの人々の記憶が石畳に染み込んでいるようだ