Sarah Thompson氏

ボストン美術館が2005年から取り組んでいる浮世絵コレクションの収蔵品デジタル・カタログ化プロジェクト(JPADP)。この取り組みについて8日、慶應義塾大学三田キャンパスにて同館キュレーターのSarah Thompson氏が講演した。同氏は江戸東京博物館にて開催中の『ボストン美術館 浮世絵名品展』(10月7日~11月30日)開催に併せて来日した。なお同展は、版画132点、肉筆5点、下絵画稿類12点、版本10点(会場により、展示替あり)で構成され、その大多数が日本初公開となっている。

ボストン美術館では浮世絵を約4万3,000点(浮世絵は数枚で1枚の絵を構成している場合があり、それを1点で計算した場合)収蔵している。同館の浮世絵コレクションは、平安時代の仏画から平成の創作版画まで約15,000枚に上るビゲロー・コレクション(大部分は江戸時代の浮世絵版画)を筆頭に、寄贈の条件として展示を禁止されているスポルディング・コレクション(江戸時代の浮世絵版画約6,600枚)、明治時代の浮世絵版画約1,600枚を誇るシャーフ・コレクション、重複品など何らかの理由で登録されなかった"The Bales(俵)"と呼ばれる浮世絵(約25,000枚)で構成される。

ビゲロー・コレクション

スポルディング・コレクション

The Bales

シャーフ・コレクション

プロジェクトの目的としては(1)所蔵日本版画を全点登録し、登録番号と所在場所をデータ・ベースに入れること、(2)全点をデジタル化してWebサイトで掲載すること、(3)本物を丁寧に保管すること、(4)正しくて詳しい情報をデータ・ベースに入れて目録を作ること-を挙げている。「光を当たったり、空気に触れたりすると浮世絵が劣化してしまうことから、門外不出の浮世絵も多かった。また、スポルディング・コレクションやThe Balesは今まで公開される場もなかったことから、同プロジェクトを開始することになった」(Sarah Thompson氏)。

同プロジェクトの実行にあたっては、第一期(2005年1月~2007年1月)と第二期(2008年6月~2011年1月)に分けて寄付を募った。そうしたところ、第一期はアメリカの財団(匿名)と日本の会社(現在のところ匿名)から寄付を得ることができたという。その代わり、同館は2年間のうちに、スポルディング・コレクションとTheBalesを始め浮世絵2万点をデジタル化することが条件として課された。また第二期の提供は、第一期と同じアメリカの財団(匿名)とState Street Bank(ステート・ストリート銀行)が行うことになった。第一期と第二期とを合わせ、総寄付金額は「およそ100万ドル程度」(Sarah Thompson氏)。

目録作成にあたっては、登録番号や所在場所にはじまり、画家名、時代、素材、作品名、制作年代、版元、主な出版物など詳細に登録できるようになっている。現在、所在場所が分かる版画は4万8,498枚、またWebサイトで掲載されたデジタル・イメージは2万6,489点に上る。

所蔵日本版画をスキャンする様子

データベースでは登録番号や所在場所など詳細に登録することができる

第二期に突入した現在、版画プロジェクトの完成は2011年を目処としている。日本では現在、『ボストン美術館 浮世絵名品展』が開催されているが、2010年、2012年にも日本展が企画されているとのこと。また展示が禁止されているスポルディング・コレクションに関する本も日本で出版される予定となっている。「今後は、ボストン美術館のWebサイトの検索機能をより使いやすくすること、そして他の美術館のWebサイトと一緒に検索できる横断検索を充実されることが課題だ」(Sarah Thompson氏)。

ボストン美術館公式サイトのトップページ

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画家名やキーワードなどで検索ができる。画面は鯰で検索した場合

写楽で検索すると99点ヒットした

デジタル・イメージと詳細な情報が掲載される

拡大画像も見ることができる

なおWebサイト上のデジタル・イメージは個人用や教育用であれば、ダウンロードして使用することは可能。ただし、出版の場合はボストン美術館にWebサイトから注文する必要があるとしている。