ヨーロッパの代表的な貴族として知られるハプスブルク家に伝わるコレクションを多数収蔵しているウィーン美術史美術館。その膨大なコレクションの中から、「静物画」というテーマに沿って厳選した75点が展示される「ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展」が現在国立新美術館にて開催されている。開催期間は9月15日まで。
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ウィーン美術史美術館の豪華な内観写真が観客を出迎える |
静物画の成り立ちとその後の展開をテーマにした同展は日本では初めて。ウィーン美術史美術館の副館長であり絵画部長でもあるカール・シュッツ博士は「16世紀から17世紀にかけて、画家たちは宗教画や風俗画という束縛から抜け出して、オブジェそのものの美しさや生命感、躍動感などを絵画のテーマとして描き始めました。長い時間をかけて熟成されていった静物画の成立過程を時代を追うように楽しめるのが今回の展覧会のテーマといえるでしょう」と語る。
鑑賞をより分かりやすくするために展示は次の4章に分けてある。第一章は「市場・台所・虚栄の静物」、第二章は「狩猟・果実・豪華な品々・花の静物」、第三章は「宗教・季節・自然と静物」、第四章は「風俗・肖像と静物」。章ごとに見どころを紹介していこう。
第一章にはフレデリク・ファン・ファルケンボルフ一世の工房「花市場:春」(1610年頃)、アントニオ・デ・ペレダ・イ・サルガド「静物:虚栄(ヴァニタス)」(1634年頃)などが展示されている。「静物:虚栄(ヴァニタス)」では世界を支配したスペイン皇帝カール五世の肖像を地球儀の上でかざす天使と火の消えたロウソクやドクロなどとの対比により、ひとときの栄華といずれは訪れる死を暗示して現世のはかなさを見事に表現している。
第二章の見どころは「花のブリューゲル」と称されたヤン・ブリューゲル(父)「青い花瓶の花束」(1608年頃)。同作品は、季節に関係なく埋め尽くされた豪華な花々はブリューゲルの最高傑作と言われている。カール・シュッツ博士と共に展覧会監修を務める木島俊介・共立女子大学教授は「この時代の絵の具は色数も少なく乾きも遅い。現代の私たちには想像もできないほどの忍耐と努力によって一枚の絵が生み出されている」と解説する。
また、第三章ではネーデルランドの画家に帰属「春(愛)」(1600年頃)がある。楽器、詩人、恋人たちと共に春を擬人化したリュート奏者が軽やかに描かれている。そして第四章では、日本初公開のディエゴ・ベラスケス「薔薇色の衣裳のマルガリータ王女」(1653-54年頃)がひと際目立つ。マルガリータ・テレサは神聖ローマ帝国皇帝のレオポルド一世との婚姻が決められており、ベラスケスは皇帝とのお見合い用に5枚の肖像画を描いたという。本作品はその最初の一枚にあたる。
展示作品には、このほかにもだまし絵の手法で描かれたヨーハネス・レーマンス周辺の画家「狩猟用具」(1660年頃)などもある。だまし絵が静物画と異なる点は「だまし絵のモチーフは現実の用具と寸分たがわぬサイズで描かれていること」(カール・シュッツ博士談)だという。17世紀の画家たちが仕組んだ現物と見まがうほどの精緻な筆致にだまされてみるのも面白い。
展示会場内特設ショップでは展覧会期間限定の各種グッズが販売されている。高級老舗ショコラティエ「デルレイ」より展覧会を記念した限定コンフィチュールが販売中。ライチ・ローズジェリー、アロマチックラズベリー、オレンジマーマレードの3つの味で価格はいずれも840円。オリジナルTシャツは2種類。ヤン・ブリューゲル(父)「青い花瓶の花束」をモチーフにしたデザインは女性サイズM, Lがあり、茶・白の2色で一着3,400円。ブリューゲル、ベラスケス、デ・ヘーム等の作品をモチーフにしたデザインは、男女兼用サイズS, M, Lがあり、グレー、デニムの2色で一着2,900円。
ウィーンの名物料理を楽しめる特別コースメニュー
同館3階のレストラン「ブラッスリー ポール・ボキューズ ミュゼ」ではウィーンの名物料理を楽しめる特別コースメニューを用意している。メニューはウィーンの名物料理「グーラッシュ風」冷たいスープ仕立て、ウィーン風カツレツ「ヴィーナー・シュニュツェル」をイメージした仔牛のエスカロップ「ウィーン風」サラダ添え、ウィーンの伝統的なデザートのガトーショコラ「ザッハトルテ」、コーヒー。展覧会チケットの半券を提示すると5,750円。注文は終日受け付けている。
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また、静物画についてより詳しい講演会が同館3F講堂にて催される。7月19日(土)14:00~16:00「静物画の深い魅力『静止する時間・回帰する時間』」木島俊介・共立女子大学教授。8月16日(土)14:00~16:00「知られざる静物画の魅力」宮下規久朗・神戸大学大学院准教授。いずれも先着250人で聴講は無料。
開館時間は10時~18時。毎週火曜日休館。なお、金曜日は10時~20時(入館は閉館30分前まで)。入場料は一般1,500円、大学生1,200円、高校生700円。中学生以下は無料。7月19日、8月16日は高校生無料招待日。
(c) Kunsthistorisches Museum Wien, Gemaeldegalerie, Vienna