最近、犬と一緒に宿泊できるホテルやドッグカフェなどが増えてきた。一方、家族の一員である愛犬と色々な所で出かけたいのはやまやまだが、愛犬が他の犬を攻撃してしまうのではないかと、周りへの迷惑を気にして連れて行けない飼い主が多いのではないだろうか。ペットショップで販売される犬は、生後すぐに家族と離される上にワクチンが終わるまで他の犬と接触することがないので、他の犬が苦手で臆病になるのは当然のこと。"犬見知り"をしないよう、まずは「社会化」が必要となるというのだ。

そうした中、「犬の幼稚園」と看板を掲げ、他の犬や人と仲良くできるように社会化させるサービスが増えている。愛犬専門総合レジャービル「ドッグアミューズメント迎賓館」(大阪市北区)内に3月開園した「いぬの幼稚園『さくら学園』」もそのひとつだ。

「いぬの幼稚園『さくら学園』。毎日3~5匹が通園し、友達を作りながら楽しく人間と暮らすルールを学んでいる

同園は愛犬専門総合レジャービル「ドッグアミューズメント迎賓館」(大阪市北区)内にある

「仕事が忙しくてしつける時間がない」「しつけ方が分からない」など様々な悩みを抱えている飼い主の声に支えられる形で開園した犬の幼稚園。ワクチン終了から10カ月以内の子犬が対象だ。心と身体の発達の基礎となる大切な時期を、いろいろな環境に触れながら過ごすことができるという。「愛犬とは15~20年という時間を一緒に暮らしていく事を理解してほしい。その長いドックライフは、1歳までの期間で全てが決まると言っても過言ではない」と谷山政明園長は話す。

犬の幼稚園を訪れて、まずびっくりしたのは谷山園長を含む3人のスタッフ以外に、犬が先生を務めていること。ラブラドール・レトリーバーのクロロ先生(オス3歳)は、小型犬にも優しく接する大きな存在。また、フレンチ・ブルドッグのムンク先生(メス2歳)は、鼻ぺちゃな顔を怖がる犬に慣れてもらおうと癒し系の性格を発揮している。犬同士で生活する中で「色々な犬がいることを知り、わがままは通用しないなど犬として大切なことを思い出す」(谷山園長)という。

園児も犬なら、先生も犬?!犬同士が上手にコミュニケーションを取るように、クロロ先生(左)とムンク先生(右)が活躍する

同園は学校の1教室ほどの広さに、園児数は毎日3~5匹なので広々とした雰囲気。毎朝10:00頃になると飼い主と一緒に子犬たちが、お馴染みの黄色い園児バック持って登園してくる。到着すると早速、犬同士の朝のあいさつが繰り広げられる。犬の世界は縦社会のため、年上の犬が先に年下の犬のおしりを嗅ぐという上手なあいさつをするのも練習なのだという。

幼稚園バッグといえばこれ! 中にブラシや連絡帳を入れて登園する。毎朝、飼い主がバッグを手にすると、「友達がいる幼稚園に行ける! 」というように喜ぶ犬もいるという

同士の仲もあいさつから。年上の犬が先に年下の犬のおしりを嗅ぐのが、縦社会の犬の世界のマナーだという

11:00からは「お遊び練習」がスタート。他の犬と触れ合うことで犬嫌いを防止するのが目的で、遊びながら強く噛んではいけない事も学ぶ。また、おもちゃや水飲み場も少ない数にすることで、譲り合いの精神を養うのだとか。友達を作りながら楽しく「社会性」を学んでいく様子は、人間の園児と変わりないようだ。

"犬見知り"を防止するため、大型犬のクロロ先生に小型犬も優しく遊んでもらう。気の合う友達もできて楽しそう

人に吠えたり攻撃しないようにする「ボディタッチの練習」。もうすっかり急所さらけ出して甘える子犬の姿は飼い主でなくても可愛くて堪らない

お昼になると「ランチタイム」、食後には「お昼寝タイム」もあり、人間の幼稚園さながら。ただし、昼寝といってもただ寝かせるのではなく、持ち運び可能なクレート(ケージ)の中で、安心して留守番できるように自立心を育てる「クレート・トレーニング」の一環だ。最初は寂しくて鳴いてしまうというが、スタッフが様子を見ながら時には指導をする。

しつけの練習で名前を呼ばれると、スタッフの手にタッチをする。褒められて嬉しそう

14:00になると「しつけの練習」として、アイコンタクトから呼び戻し、お座り、伏せ、待て、一緒に歩く練習などをきちんと覚えさせる。「ほめて伸ばすのが基本。6~7割はほめて、怒るのは1割ほど」(谷山園長)という。練習中には、ラジカセから赤ちゃんの鳴き声や雷の音など思わず驚いてしまう音も流している。これも適応能力の不足から起きる多くの問題行動を回避するように、生活音など色々な刺激に慣れさせるという意味を持つ。

続いて「お手入れタイム」。15:00からはグルーミングが行われる。ブラシを見ると犬が逃げてしまうなど、「ブラッシング」は飼い主の悩みの上位。耳や鼻、内股など急所を触られるのが嫌いな子犬に、少しずつお手入れは良いことだというイメージを教える。歯磨きを終えてもスタッフに「もっと」というようにおねだりをしたり、耳掃除ではうっとりした表情を浮かべ、飼い主も喜ぶに違いないと納得。耳垢などから健康チェックも欠かせない。

「お手入れタイム」では触られるのが1番嫌な鼻や耳を含めボディタッチに慣れながら、ブラッシングや歯磨き、耳掃除できれいになるのは気持ちが良いものだと体感する練習。スタッフも耳垢などを見て、子犬の体調をチェック。そんなことは露知らず、子犬はうっとりした表情で幸せそう

残りの時間は1日の復習を兼ねて遊びながら、飼い主の迎えを待つ。スタッフは幼稚園での1日は連絡帳に飼い主へその日の健康状態や練習の様子などを記入する。迎えに来た際に手渡すのに併せて飼い主へアドバイスを行い "宿題"が出されることも。次回には飼い主も家での様子を記入し、同園とのコミュニケーションも充実しているようだ。

幼稚園での1日は連絡帳に飼い主へその日の様子などを記入して渡される。時には家に帰っての"宿題"が出されることも?!飼い主も家での様子を記入し、学園とのコミュニケーションをは充実しているよう。愛犬の良い変化に手書きの絵で嬉しさも溢れている

「ワンちゃん同士で仲良くさせたい」など飼い主が入園時に設定した目標が達成されて卒園となる。新たな目標を設定し、通園を継続する飼い主も多いという。「重要なのは飼い主の生活環境にとって最善の状態にすること。我が子と思って愛情を注ぐ一方で、犬と人間の世界は違うという一線も理解させなくてはいけない。人間が外国の人と付き合うのと一緒で、人も犬もお互いの文化を学んで一緒に楽しく暮らしてくれれば嬉しい」と笑顔で話していた。

同園では最近、飼い主からの要望で犬同士が遊びながら飼い主の迎えを待つ「保育園」のサービスも加わった。園児だけの専用ホテルもあり、「犬は本来群れで生きる動物なので、飼い主が仕事で家を空けるのは寂しいはず。ちょっと出掛ける時など預けるのも、(同園の)慣れた部屋でいつものスタッフが世話するので安心感が好評」(谷山園長)という。

幼稚園の料金は入園料2万1,000円のほか、3カ月の内に8回4万2,000円より。詳細はこちらでチェックしてほしい。そのほか、同園の詳細はWebサイト内の特集ページ「いぬの幼稚園『さくら学園』」で見ることができる。