10月24日、アニメDVD『茄子 スーツケースの渡り鳥』がバップより発売される。これは2003年に公開されたアニメ映画『茄子 アンダルシアの夏』の続編。ヨーロッパの自転車レースを題材に扱い、こだわりの描写で自転車ファンとアニメファン双方の注目を集めた作品が4年ぶりに帰ってくる。生産限定のコレクターズ・エディションが8,190円。通常版が5,040円。

<あらすじ>
国民的英雄の自転車レーサー、マルコ・ロンダニーニが突如自殺した。ぺぺのチームメイト、チョッチは同郷の先輩だったマルコの自殺により、レーサーとしての生活に疑問を感じはじめる。そんな中、ぺぺ、チョッチほかチーム・パオパオビールはジャパンカップが開催される日本・宇都宮に向かう。来年でチームがなくなるパオパオビールだが、初来日で地元の応援もあり、チームはレースを前に意気が上がる。しかしレース前日、チョッチは苦しいレース生活から来年で引退することをぺぺに告白する。果たしてレースの行方は? 熱戦の火蓋が切って落とされる!

かつて故郷のスペイン・アンダルシアで劇的な走りを見せたペペ(声: 大泉洋)。本作ではチームの中核として活躍し、コミカルな一面も見せる。ちょっとルパン三世に似てきた?
(c)2007黒田硫黄・講談社/「茄子 スーツケースの渡り鳥」製作委員会

発売直後の10月28日に宇都宮で行われる、ジャパンカップのコースがアニメ上でもそのまま再現された。日本の美しい秋の山道をバックに壮絶なレースが展開する
(c)2007黒田硫黄・講談社/「茄子 スーツケースの渡り鳥」製作委員会

原作は黒田硫黄氏の連作マンガ『茄子』の一遍「スーツケースの渡り鳥」。監督は前作『茄子 アンダルシアの夏』を手がけた高坂希太郎(こうさか きたろう)が続投し、制作も『DEATH NOTE』『時をかける少女』で知られるマッドハウスが引き続き手がけた。主人公・ペペの声もTV番組『水曜どうでしょう』などでおなじみのタレント、大泉洋が前作と変わらず担当している。

キャストはこのほかに山寺宏一、大塚明夫、坂本真綾など一線級の声優が脇を固めているが、特筆すべきはペペのチーム監督・アメデオ。なんと『水曜どうでしょう』の藤村ディレクターが抜擢されており、番組さながらの豪快な声の演技を披露している。セリフの量もかなり多く、ゲスト出演とは思えないほどの存在感を放っているので『水曜どうでしょう』ファンはそちらも要注目。

この『茄子 スーツケースの渡り鳥』のDVD発売を記念して20日、東京・テアトル新宿にてオールナイトイベントが行われた。前作『アンダルシアの夏』と新作『スーツケースの渡り鳥』、さらにツール・ド・フランスのドキュメンタリー映画が上映されたほか、高坂監督を迎えたトークショーも開催。ほぼ満席となった場内は客層も幅広く、トークイベントで観客のみなさんに挙手してもらったところ、自転車ファン、アニメファン、『水曜どうでしょう』ファンがほぼ3分の1ずつ客席を占めるという結果に。トークでは制作の裏話から自転車の濃い話題まで飛び出し、場内のファンを喜ばせていた。

高坂監督に聞く『茄子 スーツケースの渡り鳥』

以下では、『茄子 スーツケースの渡り鳥』監督・脚本・キャラクターデザインを担当した高坂監督が、トークショーで語ったコメントを紹介する。

アニメ業界随一の自転車の乗り手として知られる高坂希太郎監督。いまでも月に1,000キロ以上走るとか。スタジオジブリ作品以外に、マッドハウスでは『YAWARA!』『MASTERキートン』など、浦沢直樹作品でも活躍

制作のきっかけ
ちょうど『千と千尋の神隠し』をやっているときに、宮崎駿さんが「このマンガ面白いぞ」って原作を僕に紹介してくれたんです。で、「面白いじゃないですか。宮崎さんこれアニメにしましょうよ」って言ったら「俺はやらない。自転車なんかやったって客が入らない」って言うからですね(笑)、「じゃあ僕がやります」という流れなんです。でもなかなか自転車レースって、不文律があったりとかすぐには理解できないじゃないですか。そういうところでは黒田(硫黄)さんの原作がしっかりしていたし、僕も知識があったので真っ当に作れたという感じですね。アフレコのときも大泉さんは『よくわかんないなあ……』みたいなことは言ってましたね。声優さんだけじゃなくて、スタッフもよく知らないので説明しながら作っていったんです。

大泉さんについて
大泉さんは4年前の『アンダルシアの夏』のときはまだあまり名が知れてなかったんですが、今回はもう超有名になってしまってですね、「やってもらえないんじゃないか?」「ギャラ出せないよ」っていう話があって(笑)。でも大泉さんに以前お会いして、パート2をやるというお話をしたときに「じゃあ、ぜひ」と約束をしたのを覚えててくださって「いやあ、約束しちゃったから」って今回もやっていただけました。

自転車について
僕が使ってるのはカンパニョーロですね。シマノも1台持ってますけど。ペペが使っているのはカンパニョーロです。カンパニョーロはどちらかと言うと(『機動戦士ガンダム』の)ジオン軍のようなデザインで(会場笑)、シマノは連邦軍的なデザインなんですね。今回は、ペペたち以外は全部シマノで統一しました。こんがらがって描くほうも大変ですしね。今回、作画スタッフはかなりスタジオジブリのメンバーも手伝ってくれたんで楽でしたね。スタッフをずいぶん借りてしまったので、いまはスタジオジブリで来年夏公開の『崖の上のポニョ』という作品をやらされてます(会場笑)。宮崎さんも自転車ファンなんで、ツールの時期とかは自転車の話ばっかりですね。いまNHKの取材が来てるんですけど、宮崎さんが自転車の話を始めたらカメラを回すのを止めるという(会場笑)。

会場のファンに
本当に今日はこんな遅い時間に足を運んでいただいてありがとうございます。これを機に自転車に乗られる方がいたらうれしいですし、またレースで声をかけていただけたらそれもうれしいです。今日は本当にありがとうございました。

自転車雑誌『月刊ファンライド』の金城栄一編集長(左)と高坂監督(右)のトークショー

トークショーの終わりにはプレゼント抽選会も開催。関連グッズのほかに、自転車アニメらしくジャージもプレゼントされた

ペペの孤独な戦いを描いた前作とは対照的に、本作は群像劇の要素が強められており、選手やサポーターといった自転車レースを取巻く人たちの様子が活写されている。1本の中編アニメとしての見応えもさることながら、日本ではまだまだ知名度の低い自転車レースの魅力を広く一般に伝える力を持った作品と言えるだろう。

『茄子 スーツケースの渡り鳥』コレクターズエディション。また、前作『茄子 アンダルシアの夏』の通常版DVDが、2,940円とプライスダウンで同時発売
(c)2007黒田硫黄・講談社/「茄子 スーツケースの渡り鳥」製作委員会

コレクターズエディションに同梱されるパオパオビールのサイクルキャップ。このほか特典には、監督インタビューやジャパンカップを特集した映像やBGM集も付属する