1897年、南極探検中の探検家が氷の割れ目に落ちてしまう。その後に起こった「何か」を予感させたまま舞台は2007年に。カタールの米軍基地やエアフォースワンの機内で、ヘリコプターや身の回りの機械が、見たこともない形にその姿を変化させ始めた。奴らの名は「トランスフォーマー」。

「トランスフォーマー」とは、1980年代から日米をまたいでオモチャ、アニメ、ゲームなど多角展開されているSFシリーズだ。ご存じない方に一言で説明すると、その辺にある乗り物やメカが実は宇宙から来た生命体で、変形してロボット型になるというもの。これらをまとめて「トランスフォーマー」と呼んでいるのだが、このトランスフォーマーの中に正義と悪のグループがあって、それぞれ「オートボッツ」(日本では「サイバトロン」という名前だった)と「ディセプティコン」(日本名「デストロン」)という。この正義と悪の戦いが、彼らの故郷の星から地球に舞台を移して繰り広げられていく、というのが基本設定だ。日本製のオモチャがオリジナルだが、アメリカで圧倒的に人気が高く、アニメシリーズは米国主導で13作も作られている。

当然、実写映画化の話も何度かあったが、もともと低年齢の子供向けアニメなので、キャラ設定、ストーリー、セリフのどれをとってもアバウトでぶっ飛んでいて、現実味のカケラもない。実写的リアリティを持たせるのは不可能ではないかと言われていた。これに挑戦したのがスティーブン・スピルバーグ。自らトランスフォーマーの大ファンと称し、制作総指揮に当たった。監督は「アルマゲドン」のマイケル・ベイ。文句なしの超大作だ。

マイケル・ベイ監督

主人公の高校生サム・ウィトウィッキー役は、スピルバーグの次作「インディ・ジョーンズ4」にも出演予定のシャイア・ラブーフという若手俳優。たぶん「インディ・ジョーンズ」ではカッコイイ役で登場するのだろうけど、今回の役は(最初は)相当情けない。女の子をナンパするためクルマを買おうと、先祖の探検家の形見をネットオークションで売りに出したり、父親に車の購入資金を出してもらうため、高校の先生に単位を泣き落としで頼んだり(良い成績がクルマ購入の条件)悪戦苦闘。首尾良くクルマは手に入れたものの、それに乗って無理めの気の強そうな女の子にアタックして玉砕、あげくに屈強な彼氏にスゴまれて退却と良いとこなし。

サム(シャイア・ラプーフ)とミカエラ(ミーガン・フォックス)

その後マイカーの助けを借りて、何とか気の強い彼女を家まで送ることになる。この彼女がヒロインのミカエラ(スピルバーグの娘の名前から取ったそうな)で、実はクルマのメカおたく。クールに振る舞いながらも、サムのクルマに興味津々だったというわけ。ここまでの展開見て「アメリカ版電車男か?」と思ったよ。このオタク心鷲掴みのツンデレストーリーを絡めて、主人公が否応なくトランスフォーマーの戦いに巻き込まれ、その中で成長する姿を描くわけだ。くぅー泣ける!

なんとなーく頼りない風情のサム。作中で脱皮できるのか?

お笑いポイントも多い。大挙して自宅の庭に集合したトランスフォーマーたちを両親の目から必死で隠す主人公だが、大きさが大きさだけにムリだろ? というドタバタには笑った。「日本ネタ」もいくつかあって、トランスフォーマー化したノキアの携帯電話を指さして「まったく日本人はこういう小さいものを作るのがうまい」とつぶやく政府のエージェントに脇から「ノキアはフィンランドよ」とツッコミが入ったりする。トランスフォーマーのオリジンである日本へのリスペクトなのか?

そしてこの映画最大の見どころは、やはりCGによるトランスフォーマーの変形&バトルシーン。あのILM(Industrial Light & Magic)が担当しているが、これがカッコイイ! 引きの絵ではスロー気味に見せて、いきなりどアップで速い動きにチェンジするという演出は、今後この手の映画で流行るんじゃないかな? この演出手法を多用することで、重量感と迫力満点の戦闘シーンがうまく表現されている。また、マイケル・ベイ監督の好みなのか、とにかくトランスフォーマーたちが「でんぐりがえり」をするシーンが多い! ほかにもトランスフォーマーがビルにぶつかりながら落下していくシーンで、ビルの角に当たるたびに"痛そう"な体勢を取る等の細かい演出の積み重ねで「生きたメカ」感を描き出すことにも成功している。

車がまるで花びらのように軽く舞う。トランスフォーマー、恐るべし

一方、アニメ版「トランスフォーマー」のファンは、このハイクオリティな映像に少なからぬ違和感を覚えるのも仕方がないが、そうした向きには、日本語吹き替え版がお勧め。字幕版で、オートボッツ側のリーダー、オプティマスプライム(日本名「コンボイ」)の声は、アニメ版と同じ人が声を当てているが、吹き替え版でもアニメでコンボイの声を担当した玄田哲章が声を当てることが発表されている。あの名セリフも聞けるかも。

ジャック(仮名)、うしろうしろー

「A.I.」「マイノリティ・リポート」「宇宙戦争」と、小難しいSFものを作ってるスピルバーグは、「無理してるなあ」って感じがありありだった。やっぱりスピルバーグにはこういうド派手でカラッとしたSFが合っている。ラストは続編作る気満々な終わり方だが、この出来なら調子こいて続編作るのもありでしょう! と思っていたら、ほんとに続編製作が内定したようで。米国での興行収入3億ドル超えだって。これは日本でもエライことになりそうだ。

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『トランスフォーマー』は8月4日より日劇1ほかにて全国超拡大ロードショー。配給はUIP映画。