グロースエージェンシーのGraphiteが6月に公開したホワイトペーパーで、GEO(生成エンジン最適化)業界が自ら招きつつあるジレンマを指摘しています。
AIは回答を組み立てる際、Web上のコンテンツを参照します。今後、WebにAI生成コンテンツが増え続けていけば、AIは次第にAIが作った情報を材料にして回答するようになります。問題は単に「AI生成コンテンツが増える」ことではありません。
AIに引用されることを目的に作られた文章が大量に公開され、それをAIが再び参照することで、回答の多様性が失われ、同じような言い回し、同じような推薦、同じような結論へと収束していく可能性がある点です。
GEO業界は今、「AIに見つけられるコンテンツ」「AIに引用されやすいコンテンツ」を懸命に作っています。ところが、その行為自体がAI検索の参照プールを均質化し、結果としてAIの回答そのものが画一的なものになり得ると、Graphiteは指摘しています。AIからの発見性を、皮肉にも自らの手で長期的に損なうことになるかもしれないのです。
均質化は効率を生むが、早すぎる収束は危うい
均質化は、必ずしも悪い現象ではありません。むしろ、市場が成熟していく過程では、標準化や規格化が効率を生み、より大きな市場の土台になることがあります。
例えば、規格化されたコンテナ、港湾での積み下ろしを効率化し、船、トラック、鉄道をまたぐ物流の相互運用性を高めました。バラバラだった仕組みが揃うことで、取引コストが下がり、より大きな市場を花開かせる基盤となりました。
ただし、市場がまだ若く、十分なデータや経験が蓄積されていない段階では話が変わります。多様な試行錯誤が必要な時期に早すぎる収束が起きると、本来なら残るべき選択肢まで消えてしまいます。成長市場における均質化は効率化であると同時に、危うい単一化でもあるのです。
その例として思い出されるのが、2008年の世界金融危機「リーマンショック」の一因となった「クオンツ・モデルの崩壊」です。
リーマンショックは、サブプライムローンを組み込んだMBS(不動産担保証券)やCDO(債務担保証券)などの証券化商品が、住宅バブルの崩壊とともに大きく値崩れしたことをきっかけに広がりました。当時の金融機関は数学、統計、物理、計算機科学の専門家、いわゆるクオンツが作る高度な金融工学モデルを使い、複雑なリスクを評価していました。
問題は、モデルが存在したこと自体ではありません。多くの金融機関が同じような前提、似た評価手法やリスク管理の考え方に依存し、市場全体の判断が同じ方向に揃いすぎたことです。
それにより、住宅価格は広域で同時に下がりにくい、リスクは十分に分散されているといった前提が崩れ始めたとき、局所的なほころびからドミノ倒しのように市場全体が連鎖的に崩壊しました。
データと数学的なモデルに基づき、人間の感情や直感を排除した投資手法で市場全体が染まり、「多様な判断」という堤防が弱体化したことで、小さな穴から一気に決壊が起こったのです。
他にも、特定品種への依存を強めたバナナ産地が疫病で壊滅的な打撃を受けた事例や、2010年代前半にコンテンツファームが大量生産した低品質コンテンツによってWeb検索の体験が悪化した事例など、均質化が思わぬ脆さを招いた例は枚挙にいとまがありません。
AI検索が自分の答えを食べ始める
Graphiteの調査に話を戻しましょう。同社は、AI検索が実際に参照したWebページを起点に、OpenAI、Google、Anthropic各社のAPIを使ってシミュレーションを行いました。AIが生成した一次回答を記事形式に変換し、それを次のクエリで参照される情報として投入する。このサイクルを繰り返すことで、AIが自分の過去の回答に由来するコンテンツを参照した場合、回答がどう変化するかを調べました。
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シミュレーションは、実際のAI検索が参照したWebページをもとにモデルが回答を生成(ラウンド1)、その回答を「記事」形式に変換して参照プールに追加、モデルは同じ質問に再び答える際、このプールから参照文書を検索・引用します(ラウンド2)
調査は1,019件の情報探索型プロンプトをもとに、合計1,528回のシミュレーションと100万回を超えるLLM API呼び出しで行われました。そのうち79.6%で回答が収束したとGraphiteは報告しています。本来は複数の見方や候補があり得る問いに対して、回答が次第に同じ表現、同じ推薦、同じ結論へと均されていったということです。
さらに注目すべきは、引用元の偏りです。Graphiteによると、自己生成(モデルが、あるプロンプトへの自身の回答をもとに生成)に由来する参照文書は38.9%の引用率で使われました。人間が書いたと判定された元の参照文書の引用率は7.4%、AI生成と判定された元の参照文書でも9.4%にとどまりました。Graphiteは、自己生成コンテンツが単にAI生成だから引用されるのではなく、モデル自身の文体や答え方に近いことが影響している可能性を指摘しています。
「〇〇の首都はどこか」のようなファクト型の質問で回答が収束するのは適切です。しかし、Graphiteは「どのブランドがいいか」「どの製品を選ぶべきか」といったエンティティ比較型の質問でもAI回答の均質化が見られると報告しています。
こうした問いでは、評価軸や利用者の文脈によって答えが分かれるはずです。それにもかかわらず、AIの回答が特定の候補や表現に収束していけば、ユーザーが触れる選択肢は狭まっていきます。
そして、このAI検索の崩壊が起きやすいとされる領域(ブランド比較、製品推薦、店舗選び、サービス選定など)こそ、企業がGEOで成果を測りたい場所、マーケティングが最も影響を及ぼしたい領域そのものなのです。ここに、GEO業界にとっての大きな皮肉があります。
生き残るのは一次情報と固有の経験
Graphiteの調査では、逆に収束に抵抗しやすいコンテンツの共通点も見出されています。文章が長く、具体的で、他のソースが言及していない固有の事実やエピソードを含み、一人称の経験や独自データに根ざしているコンテンツです。
裏を返せば、AIが容易に模倣・再生産できる一般論は、収束の波に飲み込まれやすいということです。「おすすめ10選」「比較ポイント5つ」「導入メリットまとめ」のような形式は、AIにとって扱いやすい半面、ほかのコンテンツとの差が失われやすい。どれだけ構成を整えても、そこに固有の観察、実体験、一次データがなければAIの回答プールの中で埋没していきます。
これは、GEO対策の発想を少し変える必要があることを意味します。AIに引用されるために、AIが好む構成へ寄せるだけでは足りません。むしろ、AIが簡単には再現できない情報をどう持つかが問われます。独自の調査、実際の利用データ、顧客の声、現場での観察、製品を使い込んだ体験。こうした一次情報こそが、AI検索時代の差別化要因になります。
もちろん、この調査を鵜呑みにする前に留保も必要です。Graphite自身がAI可視性・GEO支援を事業とする当事者であり、査読前のシミュレーション研究である点は割り引いて読むべきでしょう。AI回答の均質化について、現時点でOpenAIやAnthropicといったAI企業から、具体的な危機感を示すコメントは出ていません。
それでも、ブランドが可視性を求めてAIに最適化されたコンテンツを送り込み続ける限り、AIが参照する情報の海はますます均質化していくという構図そのものは無視できません。これが続けば、AI検索は便利になりながらも、思いがけない発見や多様な判断に触れる機会を失っていくかもしれません。
コンテンツファーム問題では、2011年にGoogleが「パンダアップデート」で大規模な低品質コンテンツの淘汰に乗り出しましたが、それでも検索品質をめぐる議論は、その後何年も業界の話題であり続けました。
GEOが目指すのは、AIに選ばれることです。しかし、すべての企業が同じようにAIへ最適化すれば、AI検索そのものの価値は少しずつ目減りしていきます。AIに選ばれるための競争が、AIの答えをつまらなくしていく。この矛盾に、業界がどう向き合うのかが問われます。



