米・ニューヨーク市近郊(ニュージャージー州ヒルズボロ)の住宅に2024年7月に落下した「ヒルズボロ隕石」について、東京科学大学と海洋研究開発機構(JAMSTEC)がこの隕石を詳しく調べたところ、母天体の小惑星表面付近で塩分を多く含む水(塩水)が存在した痕跡が見つかったことを、8月5日に共同発表した。

  • 左から、昼間に観測された火球、落下地点の様子(穴の開いた住宅の屋根の外側、同内側)、ヒルズボロ隕石の破片。隕石は上空で複数の破片に分裂した後に落下した。直撃を受けた住宅の所有者が落下直後の破片を使い捨て手袋とアルミホイルを用いて回収し保管したことから、地上での汚染を最小限に抑えた状態で解析が実現した。出典:Peter Jenniskens et al. (2026)(CC BY 4.0 に基づき改変して作成)(出所:科学大プレスリリースPDF)

    左から、昼間に観測された火球、落下地点の様子(穴の開いた住宅の屋根の外側、同内側)、ヒルズボロ隕石の破片。隕石は上空で複数の破片に分裂した後に落下した。直撃を受けた住宅の所有者が落下直後の破片を使い捨て手袋とアルミホイルを用いて回収し保管したことから、地上での汚染を最小限に抑えた状態で解析が実現した。出典:Peter Jenniskens et al. (2026)(CC BY 4.0 に基づき改変して作成)(出所:科学大プレスリリースPDF)

この隕石からは、多様な有機物やアミノ酸も検出され、小惑星内部で水・鉱物・有機物が相互作用しながら化学変化を繰り返すことで、生命の材料となる有機分子が進化した可能性が示されたことも、併せて発表した。

同成果は、SETI研究所/NASA エイムズ研究センターのピーター・ジェニスケン博士、NASA ジョンソン宇宙センターのマイク・ゾレンスキー博士らが主導し、日本からは科学大 理学院 地球惑星科学系の癸生川陽子准教授、JAMSTEC 物質地球科学研究部門 生物地球化学センターの小川奈々子主任研究員/センター長代理、同・高野淑識上席研究員/部門長/センター長、JAMSTEC 理事補佐/物質地球科学研究部門の大河内直彦上席研究員らが参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米総合学術誌「Science」系の旗艦オープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。

2024年7月16日、米国ニューヨーク市上空で、日中に火球が観測され、ソニックブームが記録された。その後、米国研究機関により、ニュージャージー州ヒルズボロの住宅に落下した約0.91kg(2ポンド)超の隕石が回収され、「ヒルズボロ隕石」と命名された。なお、隕石の落下による死傷者は出なかった。研究チームは今回、同隕石の詳細な分析を行うことにしたという。

分析の結果、太陽系誕生時の物質を保っている始原的な小惑星の表層付近で塩分を多く含む流体の影響を受けた物質が隕石中に保存されていたことが明らかにされた。この結果は、ヒルズボロ隕石の母天体である小惑星の表層付近に、かつて塩水(ブライン)が関与する環境が存在していたことを示唆している。

回収された破片の状態と落下経路の解析からも、この塩(えん)に富む物質は、母天体表層付近で液体の水が蒸発し、塩類が濃縮した環境に由来する可能性が示されたとした。

なお、CM炭素質コンドライトとは、岩石を主成分とする石質隕石の1つであるコンドライトのうち、有機物をはじめとするさまざまな化合物の形で炭素原子(C)を含む最も始原的な隕石のことを指す。

より詳細には、金属鉄の含有率や珪酸塩鉱物中の鉄の含有率などによって定義され、化学組成や酸素同位体組成の違いで、CI、CM、CO、CV、CR、CK、CHに分類される。CM炭素質コンドライトは、これらの中でも水や有機化合物を多く含むタイプだ。

詳細な岩石学的分析から、ヒルズボロ隕石は通常のCM2炭素質コンドライトよりも強い水質変成を受けたCM1の部分も含み、両者の中間にあたる「CM1/2炭素質コンドライト」であることが解明された。

続いて成分分析が行われ、ヒルズボロ隕石には重量比で1.8%の炭素と0.07%の窒素が含まれていることが明らかにされた。炭素・窒素の安定同位体組成は、CM炭素質コンドライトに典型的な特徴を示していた。また、多様な可溶性有機化合物やアミノ酸が検出された。

アミノ酸の組成は、中程度の水質変成を受けたCM2コンドライトに見られるものと類似していたが、可溶性有機化合物の組成解析からも、前述の岩石学的分析と同様に、この隕石がCM1に分類される比較的強い水質変成を受けたことも確認された。

これらの結果は、ヒルズボロ隕石の母天体であるCM型天体が、水・鉱物・有機物の相互作用を通じ、アミノ酸やカルボン酸などを含む多種多様な分子組成に化学進化したことを示しているとした。

加えて、検出された有機化合物の多くは、鉱物との相互作用を伴う反応によって生成したと考えられ、母天体内部での塩水の流体による化学反応が複雑な有機分子の形成を促した可能性もあるという。

なお今回の研究では、これらが塩水環境で形成されたものか、あるいは他の天体との衝突などに伴う衝撃過程に由来するものなのか判別できなかったため、今後の検討課題としている。

  • ヒルズボロ隕石の断片の外観(左)と内部の塩に富む部分(右)。同隕石の破片には、衝突時に割れた断面や、地球大気を高速で通過した際に形成された溶融皮殻が見られる。詳細な解析の結果、隕石中の塩に富む部分は、母天体である小惑星の表層付近に由来することが解明された (出所:科学大プレスリリースPDF)

    ヒルズボロ隕石の断片の外観(左)と内部の塩に富む部分(右)。同隕石の破片には、衝突時に割れた断面や、地球大気を高速で通過した際に形成された溶融皮殻が見られる。詳細な解析の結果、隕石中の塩に富む部分は、母天体である小惑星の表層付近に由来することが解明された (出所:科学大プレスリリースPDF)

国際隕石学会が運営する、承認された全隕石の公式データベースである「Meteoritical Bulletin Database」によると、CM炭素質コンドライトは全隕石数の約1%ときわめて希少だ。しかし、水や有機物を多く含むことから、このような隕石が原始地球に生命の原材料をもたらした可能性があると考えられている。

一方、隕石に含まれる有機物がどのようにできたのかはまだ完全には解明されておらず、このような隕石を調べることは「生命の起源」を解き明かすことにつながる可能性があるとして期待されている。

ヒルズボロ隕石は、ニューヨークという大都会でこのような貴重な隕石の落下が目撃され、最終的に民家の屋根を突き破るというドラマティックな落下だったことからも注目を集めた。

同隕石の研究は次のステージに進んでおり、現在は、塩鉱物の同定を進めると同時に、小惑星リュウグウおよびベヌー試料との比較が進められているという。また同隕石の一部は、今後、ニューヨーク市のアメリカ自然史博物館で保管・管理される予定だ。

  • CM型炭素質コンドライトの母天体小惑星のイメージ(ChatGPTにより作成された)。衝突クレーター内に、表層付近の塩水堆積物が露出している様子が示されている (出所:科学大プレスリリースPDF)

    CM型炭素質コンドライトの母天体小惑星のイメージ(ChatGPTにより作成された)。衝突クレーター内に、表層付近の塩水堆積物が露出している様子が示されている (出所:科学大プレスリリースPDF)