7月1日にGoogle Adsの利用規約が大きく改定されました。広告サービスの規約変更は珍しいものではありません。しかし今回の改定は、AIによる自動化で広告のエコシステムが変わる起点となりそうな内容です。「テックトピア:米国のテクノロジー業界の舞台裏」の過去回はこちらを参照。

新規約では、Googleが自動化機能を通じて、広告主に代わってターゲット、広告、遷移先をフォーマットし、選定または生成することが明記されています。そのうえで、生成されたキャンペーンや広告素材の確認、必要に応じた承認や削除、ポリシーへの適合については、引き続き広告主が責任を負うとしています。

  • テックトピア:米国のテクノロジー業界の舞台裏 第68回

    7月1日の規約改定。広告を決定する権限がGoogleへ移る一方、結果に対する責任は広告主側に残る「権限と責任の分離」が論点に

広告運用の多くの工程をGoogle側のAIが担い、その決定権もプラットフォームへ移っていく一方、結果に対する責任は広告主側に残り続けます。仮にAIが事実と異なる広告文を生成したり、誤解を招く表現を選んだりしても「GoogleのAIが作った広告だから」という説明だけでは済みません。広告主は監督者として責任を負うことになります。

ここで浮かび上がるのは、AI時代に広がりつつある「決める者」と「責任を負う者」の分離です。

15年前、完全自動運転カーが投げかけた同じ問い

この構図は、Googleが2009年に自動運転車プロジェクトを開始した際に始まった議論を思い起こさせます。米国で車の事故による損害の責任は、多くの州法では原則として直接の運転者が責任を負います。

しかし、人間のドライバーがいないロボカー(自動運転車)で、システムの欠陥・バグで事故が起きた場合、これまでの責任論が通用しなくなります。運行を支配しているのはメーカーやプラットフォームであり、「それならば彼らに責任を寄せるべきだ」という議論です。

現在、米国では複数の都市で、運転席に人間のドライバーを必要としないロボタクシーが実用化されています。自動運転車には、人々の移動習慣や都市の構造を変える可能性がありますが、その社会実装においては安全性だけでなく、事故時の責任や賠償をどう設計するかも重要な論点です。

Googleの規約改定が示すように、AIを活用したデジタルマーケティングも同じ分岐点に差しかかっています。AIが判断し、人間が結果を引き受ける構図を、企業はどこまで受け入れるべきなのでしょうか。

AIは「オプション」から運用の前提へ

まず、誤解のないように事実関係を整理すると、今回の改定によって、広告主に突然、新たな責任が押し付けられたわけではありません。

旧規約でも、広告の内容、ターゲティングの判断、遷移先などについて、広告主が責任を負うことは明記されていました。違いは、Googleによる選定・生成機能の位置づけです。旧規約では、Googleがターゲット、広告、遷移先の選定や生成を支援する機能は、広告主が必要に応じてオプトインまたはオプトアウトする「オプション機能」として説明されていました。これに対して新規約では、広告プラットフォームの「基本条項」に組み込まれています。

もちろん、これによってすべての自動化機能が強制的に有効になったわけではありません。たとえば、検索広告のテキスト自動生成機能には、現在もオンとオフを切り替える設定が用意されています。

それでも、規約上の位置づけが変わった意味は小さくありません。自動化は、広告主が例外的に呼び出す便利な機能ではなく、契約上あらかじめ許容される運用方法になりました。AIを任意で追加する時代から、AIが動くことを前提として人間が監督する時代への移行です。

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    Google検索は会話型の「AIモード」への移行が加速しており、それに伴い広告も「ユーザーの質問に対する最適な回答」として再定義されています(Google Marketing Live 2026)

作る・配る・測る・裁く、すべてが一社に

Googleは広告市場独占の議論において、複数の役割を同時に担っていることが問題視されてきました。

同社は、広告主が広告を購入するためのツール、媒体が広告枠を管理するための広告サーバー、売り手と買い手を結び付ける広告取引所を運営しています。たとえるなら、オークション会場を運営しながら、出品者を管理し、入札者を案内し、取引の成立にも関与しているようなものです。

そこにAIによる広告制作と運用判断が加わり始めました。

Googleは「AI Max」や「Performance Max」、「Asset Studio」、AIエージェントの「Ask Advisor」などを展開し、広告文や画像、動画の制作から、ターゲティング、分析、キャンペーン改善まで、広告運用の広い範囲を自動化しています。さらに広告ポリシーを定め、違反の有無も判定します。広告を作る側、配る側、効果を測る側、違反を裁く側が、一つのプラットフォームに集約されていくのです。

一方、そのGoogleが生成・選定した広告によって問題が生じても、規約上の監督責任は広告主側に置かれたままです。新規約では、ポリシーに違反した場合、広告の不承認、表示機会の制限、アカウント停止などが行われる可能性も明記されています。権限はプラットフォームへ集まり、責任は顧客側に残り続けます。

利用のハードルが下がり、監督の壁が高くなる

ここで見過ごせないのが、規約が求める監督水準と、製品側の自動化レベルとの間にある隔たりです。

Googleは広告主に対し、自動生成されたキャンペーンや広告素材を継続的に確認し、必要に応じて承認または削除するよう求めています。改定案内でも、この義務が改めて強調されました。

しかし、規模が大きくなるほど、広告主が配信前にすべての表示パターンを確認することは困難になります。自動化広告では、複数の見出し、説明文、画像、動画などが、検索語句や掲載面に応じてさまざまな組み合わせで表示されます。Google自身も、レスポンシブ広告ではAIが広告素材を多数の組み合わせに配置し、継続的に最適化すると説明しています。

広告素材を一度確認すればよいのか。組み合わせごとの表示パターンまで確認する必要があるのか。遷移先の自動選定も監査対象に含まれるのか。広告主が直接作成していない素材を、どの程度の頻度で点検すれば十分なのでしょうか。

AI広告は「専門知識がなくても広告を運用できる」方向へ進化しています。その一方で、規約は広告主に対し、AIの出力を判定できる専門的な監督能力を暗に要求しています。利用のハードルは下がっても、責任を果たすためのハードルは下がりません。

大企業であれば、広告審査、法務確認、ブランドガイドライン、監査記録といった体制を整えられます。しかし、小規模な広告主に同じ水準の監督を求めれば、自動化によって軽減された作業負担が、別の形の確認負担として戻ってくる可能性があります。

道具と人間、AIで変わりつつある関係

この分離は、何もGoogle広告に限った話ではありません。

私たちが日々使っている文章や画像を生成するAIでも、成果物を作る工程は自動化できます。しかし、その内容が事実として正しいか、他者の権利を侵害していないか、利用する場面の規則に反していないかを判断する役割は、最終的に利用者側に残ります。

Google Adsの新規約は、生成AI社会が抱えるこの構造が「広告」という大きな予算と社会的影響を伴う商業インフラに本格的に持ち込まれた事例といえます。

かつて、人間と道具の関係で、人間は「考えて判断する側」であり、道具は「その能力を広げるもの」でした。しかし、自律的に判断し、コンテンツまで生成するAIを手にしたことで、その関係は曖昧になりつつあります。

実質的な判断の多くをAIと、それを管理する巨大プラットフォームに委ねながら、人間や企業は契約上の主体として責任を引き受けます。操作する者と判断する者、利益を得る者と責任を負う者が、必ずしも従来のようには一致しません。

だからといって、広告主が自動化から簡単に降りられるわけでもありません。AIによる効率化やパフォーマンス向上が競争条件になれば、手作業だけの運用へ戻ることは、現実的な選択肢ではなくなるからです。

AIを利用するうえで「AIが勝手にやった」「AIが間違えた」という説明は、もはや責任を免れる理由にはなりません。今回の改定は、その原則をより明確な契約上の言葉に置き換えたものでもあります。

これからマーケターに必要になるのは、広告を一つひとつ手作業で作る能力だけではありません。AIに何を委ね、どこに制限を設け、どのような記録を残し、どの段階で人間が介入するのかを設計する能力です。

  • テックトピア:米国のテクノロジー業界の舞台裏 第68回

    Googleの「AI Brief」では、広告主がブランドボイスやターゲットオーディエンス、ガードレールを会話型言語で指示し、AIがそれを解釈して広告ガイドラインを作成・プレビューします

Google Adsの長い規約は一読すると、広告主に「それでも、使いますか?」と問いかけているようです。でも、そうではありません。AIを拒めないのなら、「どこまでAIに決定を委ね、その決定にどう責任を持つのか」、それがAI時代のマーケティングに避けて通れない問いなのです。