AIの進化が進み、さまざまな場面でAIの活躍を見るようになった現代。企業の業務の中でもAIの導入は多く見受けられる。
そんな中、サントリーグループでは現在、営業現場や工場、人材育成の領域で生成AI活用を本格化させている。中でも注目されているのが、営業ナレッジ検索システムである「AI軍師」だ。
本稿では、営業現場に蓄積された膨大な成功事例を、生成AIによって検索・要約し、営業活動に活用する仕組みである「AI軍師」について、開発担当者であるサントリーホールディングス デジタル&AI本部 デジタル&AI変革推進部 石田和匡氏に話を聞いた。
「バンクなのに引き出せない」営業DBが抱えていた課題
元々サントリーでは、2009年から酒類営業向けナレッジデータベースである「KACHI・ネタ・BANK」というデータベースを運用していた。
同データベースは、営業担当者自身が現場での成功事例や工夫を投稿しているもので、約17年間で約3万件の事例が蓄積されている。内容は「盛業店の樽生開拓」や「インバウンド需要への対応」「ノンアル需要創出」「地域共創」「DX(デジタルトランスフォーメーション)活用」など多岐にわたる。
「『KACHI・ネタ・BANK』は、営業自身が活動・成果を発信できるインフラとして構築され、勝ちパターンを蓄積してきた酒類営業向けのナレッジデータベースとして重宝されてきました」(石田氏)
しかし、事例数が増えるにつれ、「必要な情報を探し出せない」という課題が顕在化していた。従来はキーワード検索しかなく、欲しい情報がヒットしない、全文を読まないとポイントが分からないといった問題があった。
現場では「バンクなのに引き出せない」と自虐的に語られることもあったという。
AI軍師は「営業の頼れる参謀」
このような背景を受けて開発されたのが「AI軍師」である。
「AI軍師」は、「KACHI・ネタ・BANK」に蓄積された約3万件の事例から、課題に応じた打ち手や関連事例を自動で抽出・要約するシステムで、営業担当者に最適な打ち手や過去事例を提示することができる。
「軍師」という名称の通り、「営業の頼れる参謀」を目指した仕組みであり、膨大な情報を瞬時に整理し、状況に応じた最適なヒントを導き出すことに強みのあるシステムだ。
検索精度向上に向けて、キーワード検索・ベクトル検索・リランクを組み合わせた独自ロジックを採用していることが特徴だ。酒類メーカーの営業現場特有の言葉をAIが理解できるよう辞書を整備しており、「HB」は「ハイボール」、「SM」は「スーパーマーケット」と変換するなどの工夫が行われたという。
「質問内容によってAIが回答形式を変える工夫も導入しています。若手の営業は『どんな打ち手があるのか』を知りたがる一方で、ベテラン層は『過去事例の細かな工夫』を知りたい傾向があったため、AIが質問意図を判別し、『打ち手重視』か『事例重視』かで出力内容を切り替える仕組みを採用しています」(石田氏)
さらに、関連質問をAI側から提案する機能も特徴的だ。営業担当者が思いつかなかった視点をAIが提示することで、ナレッジ活用の幅を広げている。
これについて石田氏は「営業が知りたそうだけど検索しきれていない情報をAIが補完することを意識した」と語る。
「自分で探す」という行動を定着させる
さらに、このシステムの最大の特徴は石田氏の存在だ。開発を主導した石田氏は、営業現場出身で、2024年に現在の部署に異動してきたばかり。飲料の営業やマーケティングを経験していたことが、今回の開発のきっかけとして大きかったという。
「AI活用推進の部署への異動内示を受けた直後、RAG(検索拡張生成)の仕組みを知り、『これを活用したらKACHI・ネタ・BANKの検索を楽にできるのではないか』と考えました」(石田氏)
このようにこだわりの詰まった「AI軍師」だが、一方で、導入後の課題も見えてきた。
「2026年1月時点で利用経験率は約半数にとどまっています。背景には、過去ナレッジを自ら検索する文化が営業現場に十分根付いていなかったことがあると考えています」(石田氏)
従来のKACHI・ネタ・BANKの検索精度が低かったため、営業部内で「自分で探す」という行動自体が定着していなかったのだ。
現在はこの課題の克服のため、使い方動画の配信や現場体験会の開催など、利用文化の醸成に力を入れているのだそう。
利用者の中でも、「存在自体を知らない層」と、「質問の仕方が分からない層」に分かれており、それぞれに異なるアプローチを進めているという。
今回の取材では、サントリーの生成AI活用が単なる業務効率化にとどまらず、「現場知見の継承」や「組織文化の変革」に踏み込んでいる点が分かる結果となった。
「AI軍師」は、営業現場に眠る暗黙知を掘り起こし、誰でも活用できる形へ変換する試みであり、日本企業における生成AI活用の先進事例として、今後、社内での活用もさらに広まっていくに違いない。




