なぜ新商品開発は「ヒットが読めない」のか
新商品開発は企業にとって成長の源泉である一方、「ヒットが読めない」という不確実性が常につきまとう。市場が成熟し、消費者の価値観が細分化するなかで、従来の調査手法や経験則だけでは通用しないケースも増えてきた。
こうした状況を打開する新たなアプローチとして注目されているのが、NTT DXパートナーが提供する「架空商品モール」と、4月に提供開始した新機能「N1-AI for 架空商品モール」だ。
すでに、サッポロビールやロッテ、森永製菓、サントリーといった大手企業が利用しているという。そこでサービスの狙いや特徴について、プロデューサーである朴在文氏に聞いた。
「新商品開発が成功体験にならない」から始まったサービス開発
朴氏は、同社が2024年12月から提供しているサービス「架空商品モール」の開発理由を次のように説明した。
「今までいろいろな地域のメーカーさんの商品企画の支援をさせていただく中で、『新商品開発が成功体験にならない』という課題を感じていたので、新商品開発を成功体験にするためのサービスを作っていきたいという思いから開発しました」
「架空商品モール」は、生成AIがメーカーの技術力や特許などを学習し、生活者のニーズを組み合わせて、独自の商品アイデア(架空商品)を提案する機能と、どの架空商品にどれだけの賛同が得られるかを可視化するAIチャット機能を持つ商品開発プラットフォームだ。
従来の商品開発では、企業側の仮説や経験に基づいたプロダクトアウト型のアプローチが多く見られたが、同サービスでは生成AIを活用し、生活者の声をもとに商品コンセプトを生成・検証できる点を特徴としている。
具体的には、AIが生活者のニーズや価値観を分析し、それに基づいた商品アイデアを創出するとともに、そのアイデアに対する「欲しい度」や共感度を可視化することで、商品化の判断材料を提供する。
また、企業内外の参加者がアイデア創出に関わることができる仕組みを通じて、「商品企画の民主化」を実現し、より多様な視点から新たな価値を生み出すことを可能にしている。これにより、従来よりも短期間かつ高精度に市場ニーズを捉えた商品開発を支援する。
「現在は、これまでのように“良いものを作れば売れる”時代ではなくなっています。価値観が多様化している中で、企業が立てる仮説が“筋のいい仮説”ではなく、“都合のいい仮説”のまま進んでしまっているケースが多いと感じています」と朴氏は語る。
従来の市場調査は何が問題だったのか
朴氏によれば、商品企画をしていく中で最も大事だといわれているのが、定性(インタビュー)調査だという。定性調査は、消費者にインタビューを行って、その上で仮説を作る作業だ。そして、その仮説が本当に受け入れられるのかを、アンケートによる定量調査を行い、再度、定性調査を行って、定性→定量→定性とフローを回していくのが一般的だという。
ただ、企業では最初の定性調査がきちんとできていないことが多いという。理由は、定性調査は、工数とコストがかかり、スキルも求められるためだ。
「例えば500人ぐらいにアンケートを回答してもらって、そのアンケート結果を見て、そのうちの10人に絞り込んでインタビューをしたいとなったときに、10人の人をリクルートして、当日の日程調整をして、どんな質問をするのかを決めて、その上で1時間ずつインタビューします。10時間インタビューして、その内容をレポートにまとめて部署内に共有するだけでもコストと工数がかなりかかりますが、それに品質が比例しないのです」(朴氏)
さらに、インタビューの質はインタビュアーのスキルや対象者の特性に左右されるため、再現性が低いという問題もある。
「どれだけ時間とコストをかけても、必ずしも良いインサイトが得られるとは限りません。この不確実性が、定性調査を難しくしている要因です」(朴氏)
その結果、企業は十分な情報を得られないまま商品開発を進めざるを得ず、成功確率が低下してしまう。この課題が、4月に提供を開始した新機能「N1-AI for 架空商品モール」開発の出発点となった。
「N1-AI for 架空商品モール」は従来の調査と何が違うのか
「N1-AI for 架空商品モール」は、従来の定量調査と定性調査を分けて行うプロセスとは異なり、AIによる対話を通じて両者を同時に実現する点が特徴だ。さらに、回答の背景や感情まで掘り下げることで、より深い顧客理解を可能にしている。
「N1-AI for 架空商品モール」が実現する“深い顧客理解”
「N1-AI for 架空商品モール」は、日常的な購買行動・利用シーン・悩み・価値観をAIが体系的に収集する。「誰が」「どんな時に」「なぜ買うか」の悩みや願望が発生する生活文脈を、面として捉え、回答が抽象的・表層的だとAIが判断した場合、「なぜそう感じたのか」「何と比較して、そのように感じたのか」といった追加質問を自動生成。比較や質問の切り口を変えることで深掘りしていく。
「『N1-AI for 架空商品モール』は、定量調査のN数を担保しながら、定性調査並みの深さを得られるインタビューです。AIがチャット形式で生活者に質問を投げかけ、深掘りしていきます」(朴氏)
従来のアンケート調査は、多くの回答を短時間で集められる一方で、回答の背景や感情までは把握しにくい。「N1-AI for 架空商品モール」ではAIが対話を重ねることで、生活者の行動や心理を多面的に捉えるという。
「N1-AI for 架空商品モール」はどのように顧客の本音を引き出すのか
例えば、「せんべいを食べたいが、音が気になる」という回答があった場合、AIはその背景を段階的に掘り下げる。
「どんな場面でそう感じるのか、代わりに何を選ぶのか、そのときどんな気持ちなのかといったところまでAIが聞いていきます」(朴氏)
さらに、表面的な回答に対しても、比較や理由を問い直すことで、深層心理に迫る。
「あるビールの商品に対して“アルコール度数が強いから嫌”という回答に対しても、何と比較してそう感じたのか、なぜそれでも飲みたいのかといった形で深掘りしていきます」(朴氏)
AIはどのように仮説構築と検証を同時に行うのか
「N1-AI for 架空商品モール」のもう一つの特徴は、仮説構築と検証を同時に行える点だという。従来のプロセスでは、まずインタビューでインサイトを抽出し、その後に仮想の商品アイデアを作り、さらに別の調査で検証するという段階的な流れが一般的だった。しかし「N1-AI for 架空商品モール」では、このプロセスが一つの流れに統合されている。
「ヒアリングした上で、この人の悩みを解決する新商品アイデアをAIが考え提案します。価値観深掘りのインタビューのあと、仮説(新商品アイデア)を検証するインタビューを同時にチャットの中でやりきるのが『N1-AI for 架空商品モール』の特徴となっています」(朴氏)
この仕組みにより、仮説の生成と検証を短期間で繰り返すことが可能となる。これは、商品開発のスピードを飛躍的に高める要因となる。
「気軽に仮説の探索ができる点が『N1-AI for 架空商品モール』のメリットの一番大きな部分です。お金もかけず、工数もかからず、自分たちが取りたい人たちから深いインタビュー結果を得られる点が大きなポイントだと思っています」(朴氏)
なぜ「アイデア」より「仮説」が重要なのか
朴氏は、サービス開発の過程で重要な気づきを得たという。
「最初はアイデアの質を高めることが重要だと思っていましたが、実際には、仮説の質の方が重要だと分かってきました」(朴氏)
どれほど魅力的なアイデアであっても、その前提となる仮説が誤っていれば成功にはつながらない。逆に、正しい仮説であれば、アイデアは自然と洗練されていく。この考え方に基づき、「N1-AI for 架空商品モール」は「筋のいい仮説を短期間で生み出す」ことにフォーカスして設計されているという。
朴氏はヒット商品の本質について、次のように語る。
「これまで当たり前とされてきた通説を覆したときに、ヒット商品は生まれると考えています」(朴氏)
例えば、「健康は努力して得るもの」という常識を覆し、飲料で健康効果を実現する商品や、「睡眠は環境や習慣で改善するもの」という前提を覆す商品が市場を席巻している。こうした成功の裏には、「見過ごされてきた不満」や「言語化されていない欲求」を捉える力があるという。「N1-AI for 架空商品モール」は、その見えにくいニーズを可視化し、通説を覆す仮説を導き出すためのツールとして機能する。
今後の展望、AIと人が共創する時代へ
「架空商品モール」は、元々は地域産業振興を目的に、中小企業や地域メーカーに使ってもらうことを想定して開発された。結果的に大企業のユーザーが多く利用しているが、技術力はあるが、その技術力をB2B2Cでどう売っていったらいいのかわからない、B2Bだけだと事業が継続できないかもしれないといったメーカーにも使ってほしいという。
6月8日には、サッポロビール・味の素冷凍食品・カゴメ・花王といったリーディングカンパニーの実践者とともに、深い顧客理解から生まれる「良い仮説」のつくり方についてのトークイベントも予定している。
そして今後の「架空商品モール」について朴氏は、「通説を捉えた上でその通説を覆せるコンセプトの新商品アイデアを短期間でAIと人の力でどう作っていくべきなのか。ここを第一目的にしながら、プロダクトを育てていきたいと思っています」と語った。




