広告市場では、マス広告が伸び悩み、インターネット広告も個人情報保護やCookieを巡る環境の変化への対応が求められている。そうしたなか、小売企業が持つ店舗やアプリ、購買データを活用するリテールメディア市場が拡大している。

7月14日~15日に開催された「DCSオンライン×TECH+セミナー 2026 Jul. リテールDX 顧客理解と店舗革新で描く、次世代リテールの姿」に、セブン-イレブン・ジャパン 新規事業推進室 総括マネジャーの杉浦克樹氏が登壇。同社の戦略と購買データを用いた事例を紹介した。

変化に対応するため、モノを売る領域の外へ

セブン-イレブン・ジャパンは、顧客の生活や社会の変化に応じて事業を広げてきた。1976年には共同配送を実現し、1978年にはそれまで家庭でつくるものと思われていたおにぎりを商品として販売。2001年には店舗にATMを設置し、2022年には商品を店舗から顧客へ届ける「7NOW」を始めた。

こうした歴史を振り返るうえで杉浦氏が挙げたのが、同社を率いたセブン&アイ・ホールディングス 名誉顧問・鈴木敏文氏の言葉、「変化への対応」と「基本の徹底」である。

「基本を徹底しながら、いかに新しいことに挑戦していくかにこだわってきました」(杉浦氏)

現在は、発注や品揃えにおけるAI活用、クラウド上で情報を管理する次世代店舗システムの運用、品出しや清掃を担うロボットの導入、アバターによる遠隔接客の実現などにも取り組んでいる。また、リテールメディアやリテールデータ、ヘルスケアなどを新たな収益源に育て、その収益を加盟店や顧客へ還元する考えだ。

  • 新規事業の位置付け

    新規事業の位置付け

リテールメディア参入の背景は、広告市場の変化と自社が持つ資産

セブン-イレブン・ジャパンがリテールメディアへ参入した背景には、広告市場の変化がある。マス広告は依然として大きな市場であるものの伸び悩んでおり、インターネット広告は成長を続ける一方で、個人情報の保護やサードパーティーCookieを巡る規制への対応に迫られている。

こうしたなかで注目を集めるのが、店舗やアプリを広告媒体として使い、商品に近い場所で情報を届けられるリテールメディアだ。商品との距離が近いため売上につながりやすく、ファーストパーティーデータを基盤とするため、個人情報保護をめぐる環境変化にも対応しやすいと杉浦氏は説明する。2025年のリテールメディア広告市場全体は6,066億円で、2024年比129.3%と伸長。2029年には1兆3,174億円に達するとの予測もある。

同社は、小売事業の成長を「立地」「商品」「サービス」のかけ合わせで考えており、リテールメディアでもこの3つが強みになると同氏は言う。

「全国47都道府県の約2万2,000店舗に1日2,000万人超が来店する店舗網は、視聴率でいえば15%近いメディアになれる可能性があります」(杉浦氏)

コンビニエンスストアでは本人が自分のために商品を買うケースが多く、代理購入は比較的少ない。そのため、購買データに顧客本人の購入内容が表れやすいという特徴もある。つまり、データに重要な「量」と「質」の両方が揃っているというわけだ。

「量と質をかけ合わせたデータが、広告配信によってどのような変化が起きたのか、どのお客さまにターゲティングすればいいのかを判断する材料になります」(杉浦氏)

まずは「売れるメディア」を目指す

杉浦氏は、リテールメディア事業の発展を3つの段階で示した。まず、広告を商品購入につなげる「商品が売れるメディア」である。次に目指すのが、多くの人へ情報を届け、セブン-イレブン・ジャパンで扱う商品や近い領域のサービスの購入につなげる「伝わり、売れるメディア」。そして、その先には、同社で扱っていない商品やサービスの情報も届ける「伝わるメディア」がある。

  • リテールメディアの3つの段階

    リテールメディアの3つの段階

「我々のコアコンピタンスは、商品やサービスが売れるメディアであること。まずは、ここで最大の力を発揮したいと考えています」(杉浦氏)

現在、セブン-イレブン・ジャパンはリテールメディア事業において、セブン-イレブンアプリ広告、YouTubeやLINEなどへの外部メディア広告、POSレジ広告、サイネージ広告、購買データサービス「Sales Growth BI」の5つを中心に展開している。

アプリ広告には、バナー広告やクーポンを使った販促、IDデータに基づくレポーティング、アンケートの4機能がある。都道府県や年代だけでなく、購入頻度や購買傾向を基に対象を絞り、配信後の購買率や顧客生涯価値(LTV)の変化を確認できる仕組みだ。

そして、5つのソリューションのなかでも、とくに拡大しているのがサイネージである。2021年に都内の直営2店舗で概念実証(PoC)を開始し、設置場所を変えながら検証を続けてきた。2025年には1都3県を加えて累計約3,700店に展開、2026年度には累計約8,700店を目指している。

サイネージの強みは6つあると同氏は言う。店舗数によるリーチ規模の大きさ、売場との距離の近さ、POSやAIカメラで効果を測定できること。さらに、顧客が思わず買いたくなる販促連動コンテンツや、店内BGMのように音声で訴求できる点もメリットだ。

なかでも杉浦氏が重視するのが、店舗での使われ方や時間帯、天気などに応じたコンテンツの出し分けである。

「この出し分けをどれだけ磨き上げられるかが、お客さまや広告主の方々に喜んでいただける鍵になるのではないかと考えています」(杉浦氏)

  • サイネージにおける6つの強み

    サイネージにおける6つの強み

広告視聴後の購買行動までデータで追う

こうしたメディアとデータの力は、実際の販売にどう影響するのか。杉浦氏は自社商品を使った2つの事例を紹介した。

まず、アイスクリーム「セブンプレミアム ワッフルコーン チョコ&ミルク」の新発売時の取り組みだ。発売1週間前に予告CM、発売日から本告CMをサイネージで配信したところ、配荷率はサイネージ非設置店の98.0%に対してサイネージ設置店が100.0%、初回発注数量および放映後の1日当たり販売金額も設置店が上回り、購買リフト率は111.0%となった。

さらに、予告期間中の視聴回数別に購入率を見ると、1回の0.22%に対し、5回では0.76%だった。5回視聴した人の購入率は、1回視聴した人の345.5%となる。

「サイネージを見て本当に買っているのか、懐疑的な見方もあります。しかし、データで確認すると、きちんと結果が出ていることが分かってきました」(杉浦氏)

未購入のロイヤルカスタマー候補をデータで探し出す

もう一つの事例が「糖質0g サラダチキンバー」である。同商品はリピート率が35.2%と高い一方、トライアル率(初回購入率)は3.4%にとどまっていた。そこで、既存購入者の購買データをAIで分析し、未購入者のなかから継続購入につながる可能性がある層を抽出した。

すると、リピート購入客には、「揚げ物を買っていない」、「サラダの購入回数が多い」、「500ml未満の小型飲料を買う」、「セブンプレミアムのカフェラテを買う」という共通の特徴があった。この特徴を持つ未購入の層をロイヤルカスタマー候補として、ターゲティング配信の対象にした。

施策の組み合わせによって、購買率には明確な差が表れた。ノンターゲティングでは0.07%だったのに対し、ターゲティングのみで0.39%、広告バナーを加えると0.53%、さらにクーポンを組み合わせると1.02%となった。

おもしろいことに、クーポン利用後にクーポンなしで再購入した割合は、無料クーポンが5.6%、半額クーポンが9.4%、30円引きクーポンが11.9%だった。つまり、値引き額が最も小さい30円引きクーポンで初回購入した顧客のリピート率が最も高かったのである。

購買を促したかどうかだけでなく、どの施策がその後の継続購入につながったのかまで確認できる。この点に、購買データを活用するリテールメディアの強みが表れている。

「四方良し」で市場の拡大を目指す

購買効果の検証を進めるセブン-イレブン・ジャパンのリテールメディア事業だが、課題も残る。というのも、リテールメディア広告はまだ、広告代理店のメニューには載りにくいのが実態だからだ。必要なのは、マス広告やインターネット広告と連動するプランニングの強化であると杉浦氏は言う。

リテールメディアとリテールデータの成長は、顧客の体験価値を高めることにつながると同社は考えている。目指すのは、顧客、加盟店、広告主、本部に利益をもたらす「四方良し」のリテールメディアである。

「広告を広告として届けるだけではなく、広告をワクワクする情報へ進化させて、買い物体験自体を豊かにし、お客さまと商品との出会いをつくる。そうしたミッションを持って、リテールメディア事業に取り組んでいます」(杉浦氏)

最後に同氏は、リテールメディアが日本でも世界でもなくてはならない市場の1つになるよう取り組みを強化していきたいと述べ、講演を締めくくった。