この宇宙・航空ニュースのまとめ

  • JAXA「宇宙戦略基金」(第二期)の支援受け、純国産の次世代スラスタエンジン実用化に向けたプロジェクト始動
  • 島根大学が代表機関となり、NTTデータザムテクノロジーズと北海道大学、愛三工業とともに、新たな研究を開始
  • 複雑形状スラスタの積層造形技術を確立し、1,600度もの高温に50時間耐えられる独自の耐酸化コーティング技術を開発。これにより、燃費性能(比推力)を5%向上させた純国産スラスタエンジンの実用化をめざす

純国産の次世代スラスタエンジン実用化に向けたプロジェクトが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が実施する「宇宙戦略基金」(第二期)の支援のもとで始動する。島根大学が代表機関となり、NTTデータザムテクノロジーズと北海道大学、愛三工業とともに、新たな研究を開始。宇宙開発分野における国際競争力の強化も視野に入れる。

スラスタエンジンとは、宇宙機などの機体を推進・制御する装置のこと。同プロジェクトでは、複雑形状スラスタの積層造形技術を確立し、1,600度もの高温に50時間耐えられる独自の耐酸化コーティング技術を開発。これにより、燃費性能(比推力)を5%向上させた純国産スラスタエンジンの実用化をめざす。

その実用化に向け、まずは高融点タンタル(Ta)の合金設計や、熱処理条件を含む積層造形(3Dプリンターを用いた製造技術)のプロセス、独自の超高温耐酸化コーティング技術の開発に取り組む。開発期間は2026年5月から2028年11月までを予定しているが、今後のステージゲート評価などにより変更の可能性もあるとのこと。

NTTデータザムテクノロジーズは、金属積層造形分野における材料・プロセス開発技術を保有しており、そうした知見を次世代スラスタエンジン用途へ展開し、研究開発・実証を推進。「国産スラスタエンジンの高性能化・低コスト化・長寿命化を実現し、海外依存からの脱却を図り、宇宙開発分野における国際競争力強化へ寄与する」と同プロジェクトの意義を説明しており、「将来的には、宇宙船や月・火星着陸を目指す探査機・衛星への応用展開も見込まれる」としている。

プロジェクト概要

スラスタエンジンシステムにおいては、高温環境に耐えうる耐熱合金製の燃焼室が必要だ。従来の製法による燃焼室ではニオブ(Nb)合金を用いているが、海外依存に起因する調達リードタイムの長期化や、コスト増が課題となっている。また、エンジンの高推力化に伴い、燃焼室のさらなる高温環境への耐性も求められている。

こうした課題解決のため、高融点金属であるタンタルの合金設計に加え、積層造形プロセスと熱処理条件の開発、さらに独自の超高温耐酸化コーティング技術の開発に取り組む。このうち、NTTデータザムテクノロジーズは連携機関として参画し、タンタルの合金設計ならびに熱処理条件を含む積層造形プロセスの開発を担当する。

積層造形技術は、コスト低減や性能向上、調達リードタイムの短縮に加え、環境負荷低減の観点からもメリットが大きいとのこと。溶かした金属を型で固めた、塊状の材料(インゴット材)を切削加工して製造する従来手法と比べて、積層造形技術では金属粉末を溶融・凝固させながら層状に積層して成形するため、材料利用効率に優れ、資源の消費を抑制できることから、環境負荷の低減にも寄与するとしている。

技術内容

実績のあるニオブ合金の融点が約2,350度であるのに対し、タンタル合金は3,000度近くまで達する、きわめて融点が高い材料だ。

ニオブ合金製の燃焼室では、基材表面燃焼温度1,400度において10時間の耐久実績が得られている。今回は、比推力を5%向上させることを目的とし、1,600度において50時間の耐久性実現をめざす。燃焼室の実用温度を1,600度まで高めることで、比推力325s以上、推力500N以上を実現するとともに、長寿命化を両立する純国産の燃焼室基盤技術の確立に取り組む。

一方、従来のタンタル合金は、積層造形に伴う特有の課題を十分に考慮せずに設計されていたが、NTTデータザムテクノロジーズはこのプロジェクトにおいて、積層造形特有の課題を克服するとともに、その利点を最大限に活用できる独自のタンタル合金を設計。あわせて、最適な積層造形プロセスと熱処理条件の開発を行う。

同社はプロジェクトの目標達成により、「欧米主要航空宇宙企業で採用されている白金-ロジウム(Pt-Rh)合金製の燃焼室と、イリジウム-レニウム(Ir-Re)合金製の燃焼室に匹敵する耐熱性能を実現できるとともに、コスト面ではタンタル合金が大幅に優位となる」としている。