年末から年初にかけていつも注目しているのが、半導体業界の年間ランキングの数字である。私がAMDに勤務していたひと昔前は半導体各社が自社ファブでの生産をしていたので、「半導体ブランドの売り上げ=各社の生産量」と言う等式が成り立ったが、特に最先端ロジックの市場ではデザイン専門のファブレス企業と生産を支えるファウンドリ企業の組み合わせと言う構造変化が進んだので、業界の勢力地図を読むためには複数の統計を参照しないと全体像が見えにくくなっている。売り上げと生産量は市場に与える影響力を理解する上で重要な指標なので、今回はマイナビニュース/TECH+の紙面に掲載された複数のリサーチ会社の発表統計を基にした私なりの感想を書くことにした。

ブランド別の売上ランキング:AMDの躍進とIntelの凋落が鮮明に

競争世界に生きている私たちにとって、ランキングは成績表のようなものである。ランキングを上げるためにビジネスをしているのではないが、ビジネスの結果を厳然と競合他社と比較されるという意味では大いに気になるものである。まず私が参照したのは調査会社Gartnerが発表した半導体のブランド別ランキングである。

参考:2022年の世界半導体ランキングトップ10速報版、Samsungが2年連続首位に Gartner調べ

ここで言う「ブランド別」というのは、半導体エンド製品のパッケージにどの社名が刻印されているかということである。

冒頭に述べたように、最先端ロジック製品ではファブレス化が進んだので、TSMCを代表とするファウンドリ会社が実際の生産を請け負っているブランドが多々ある。生産委託に徹したファウンドリ各社の数字は含まれていないので(自社のメモリーとロジックファンドリーを手掛けているSamsungを除いて)基本的にどのブランドのエンド製品がどれだけ売れたかを表している。トップ10社のうちメモリーが3社、パワーデバイスを含むロジックが7社となった。下記が2022年のハイライトである。

  • Xilinxを買収したAMDが2021年と比較して43%の増収で、ランクを3ポイント上げて7位となった。それと対比をなしてIntelは20%の減収でSamsungに首位を明け渡した。AMDの売り上げはIntelの40%に迫る勢いで、Intelの背中が見えてきた。
  • Samsung、SK、Micronのメモリー3社は減収となり、市況が後退に転じてたことが明らかにわかる。
  • Appleが20%の増収でトップ10入りを果たした。外販をしていないので、参考値として記載されているが、CPUを中心にApple Siliconを強力に進めるAppleは半導体市場での存在感を増している。2022年はCPUのみならず、Modemなどの通信用デバイスの取り込みも表明していて、専業メーカーにとっては明らかな脅威となっている。

正直なことを言うと、このランキング結果を見てAMDのOBである私自身がかなり舞い上がってしまったというのが実情ではある。というのも、私がAMDに勤務していた時代ではIntelはAMDの8倍の規模で、証券業界でAMDは「800ポンドのゴリラに素手で立ち向かう無謀な子供」と揶揄され、いつ姿を消してもおかしくないブランドとして扱われていたからである。AMDの大躍進と大きなコントラストとなっているのがIntelの凋落ぶりである。私はこの数年のコラムで度々AMD/Intelについて取り上げてきたが、Intelの苦戦がここまで続くとは思っていなかった。私の過去の経験ではピンチになってもIntelは常に土俵際で残して、その後の猛烈な攻撃でAMDを瀕死の状態に追いやる存在であった。ごく最近発表されたIntelの第4四半期・通年の決算発表は惨憺たる結果で、常に業界のトップにあって圧倒的な影響力を誇っていたIntelの姿は最早全く感じられない。

世界最大の半導体メーカーはTSMC、ウェハ当たりの価値創造ではAMDがトップ

ランキングの統計は各調査会社が独自の方法で収集したデータに基づいていて、その種類は多くある。最近私が大きな興味を持って見ているのがKnometa社が発表していいる「Global IC Wafer Capacity Leaders」と題したランキングである。

参考:半導体メーカー生産能力ランキング2021、5位に日本勢がランクイン Knomete調べ

この統計は半導体各社がどれくらいのウェハを消費しているかを枚数で表示していて、決算発表などの公開データでは到底伺い知れない数字で、正確さは別として大変に貴重な情報である。おそらく決算発表の端端に漏れ聞こえる各種の情報や、業界人への聞き込み取材などを基にしていると思われるが、上記のブランド別の売上ランキングとは違った景色が見えてくる。

別にTrendForce社によって発表された2022年第3四半期の世界のファンドリメーカーの売り上げランキングの情報と合わせて見てみると大変に興味深い結果となった。

参考:2022年第3四半期のファウンドリ売上高ランキング、首位TSMCが2位Samsungとの差を拡大

本来であれば、別個の統計結果を掛け合わせて結果を導き出すのは大変な誤解を生む可能性が高いのは承知の上で、おきて破りの計算をして作成してみた結果が下記の表である。これは、あくまで私が独断と偏見で作成したものとして受け取ってもらいたい。

  • 売り上げベースによる世界最大の半導体メーカーはTSMC
  • ウェハ当たりの価値でトップを行くのはAMD
  • 複数の発表統計を使って自身で作成した半導体メーカーランキング

    複数の発表統計を使って筆者自身で作成した半導体メーカーランキング (筆者作成)

そもそも、AppleとAMDは自社で半導体生産はしていないので、仮に製造委託先のTSMCでのシェアをAppleが12%、AMDが9%として計算した結果である。Intelのウェハ投入枚数の数字は今回の発表には含まれていなかったので、一昨年の数字を参考にした。まず驚いたのはTSMCの年間売り上げがSamsungの上を行く結果となったことである。TrendForceによる2022年第3四半期の数字を単純に4倍して年間売り上げを割り出したが、そもそもTSMCの売り上げはファブレスメーカーへに対して出荷する前工程済みのウェハ渡しレベルの総体であるのに対し、GartnerによるSamsungの年間売り上げはパッケージに封止した最終製品の総体で、パッケージコストが上乗せされている。TSMCが如何に大きな存在になったかを実感する。

AMDとIntelの比較も興味深い。半導体業界で図抜けて利益率が高かったIntelの凋落を印象づける結果となった。念のために最近発表された両社の決算発表にある「Gross Margin(粗利)」を比較して合点がいった。AMDの52%に対し、Intelは44%で、これは付加価値の高いサーバー/ハイエンドPCでAMDがIntelから大きくシェアを奪っている状態を示している。さらにウェハ使用枚数で割り出した台数ベースの市場シェアでは、Intelが77%でAMDが23%という結果でAMDには多少控えめではあるようだがそれほど違和感のない数字となった(これにはもちろん、両社のCPUのダイサイズの比較などは勘案されていないかなり乱暴な数字ではあることに注意が必要である)。

年末から年初にかけて報道された市場統計の記事を漠然と見ていて感じた直観のようなものがある程度妥当だったなどと自己満足している次第である。