岡山大学と学習院大学の両者は6月11日、高温高圧実験により、マントルで2番目に多い鉱物である「ガーネット(柘榴石)」の相転移が、地震波速度が急変する「660km不連続面」の形成を支配していることを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、岡山大 惑星物質研究所の石井貴之准教授、学習院大 理学部化学科の糀谷浩教授(同・大学院 自然科学研究科兼任)、学習院大の赤荻正樹名誉教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の旗艦オープンアクセスジャーナル「Nature Communications」に掲載された。
マントルは“異なる岩石の寄せ集め”ではない?
地球マントルの深さ660km付近には、地震波の伝わる速度が急変する「660km不連続面」が存在しており、マントルを上部と下部に分ける境界と定義されている。同不連続面は、沈み込むプレートがここより下へ進めなかったり、逆に地球深部から上昇する物質がここで停滞したりするなど、地球内部の構造や進化を理解する上で非常に重要な場所とされている。
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地震学的に観測されている地球マントル660km不連続面の凹凸構造を示したグラフ。青帯は沈み込んだ低温プレート(例:トンガ・マリアナ沈み込み帯直下)、オレンジ帯はマントル深部から上昇した高温のプリューム(例:ハワイホットスポット直下)、黄線はリングウッダイト-ガーネット連動ポストスピネル相転移による660km不連続面、赤線はアキモトアイト-ブリッジマナイト相転移による660km不連続面の陥没、緑線はガーネット-ブリッジマナイト相転移(ポストガーネット転移)による660km不連続面の陥没をそれぞれ示す。(出所:岡山大プレスリリースPDF)
これまでこの境界は、マントルの主要鉱物である「リングウッダイト」が高圧で分解する反応によって形成されると考えられてきた。しかし、この反応だけでは、観測されているような大きな深さの変化や地域差を十分に説明することができず、大きな謎となっていた。
そこで研究チームは今回、マントルでリングウッダイトに次いで多く存在するガーネットに注目。両者がどのように影響し合いながら変化していくのかを、地球内部の極限環境を人工的に作り出す「川井型マルチアンビル高圧発生装置」を用いて、独自技術で実現した高温高圧下での超精密比較実験で検証したという。
川井型マルチアンビル高圧発生装置は、地球深部と同等の超高圧・高温環境を実験室で再現できる装置だ。外側に配置された複数の硬いアンビル(押し金具)が、中心に置かれた試料を三次元的に均等に押し込むことで、地球内部の数万~数十万気圧に相当する圧力を生み出すことができる。さらに高圧力セル内部に設置された電気炉で加熱することで、例えば660km不連続面周辺の温度である1600℃を超える高温条件も同時に実現することが可能だ。これらの機能により、地球の深度数百~数千kmに相当する極限環境を人工的に再現でき、地球内部で鉱物がどのように変化するのかを直接調べることができるのである。
実験の結果、これまで独立した反応と考えられてきたガーネットとリングウッダイトの「高圧相転移」が、実際には密接に結びついた「連動反応」として進行していることが判明した。結晶を構成する原子は規則正しく配列しているが、圧力・温度が変化すると、まったく異なる配列に変化することがあり、これを相転移という。地球を構成する鉱物は、深部になるほどより高圧を受けるため、さまざまな相転移を起こし、より高密度の鉱物(高圧鉱物)へと変化することが知られている。
具体的には、まずガーネットが高圧下で、下部マントルの主要鉱物である「ブリッジマナイト」に変化し、その際に生じる化学成分の変化が、リングウッダイトの分解反応を誘発するというメカニズムが存在していたのである。
今回の成果でもう1つ重要な点は、あらゆる地域の660km不連続面の凹凸構造を解釈する際に、ガーネットの存在を考慮する必要があることが示された点だ。これまでに蓄積されてきたデータに今回の結果を加えると、660km不連続面の凹凸は、地域ごとの温度差によって、ガーネットの振る舞いが変化することで説明できることが明らかにされた。これは、従来の単純な化学組成モデルでは説明が難しかった観測結果を統一的に理解できることを意味し、660km不連続面の成因に関する大きな前進になるとした。
さらにこの成果は、地球のマントルが“さまざまな岩石の寄せ集め”ではなく、マントルの岩石モデルとして広く受け入れられている「パイロライト」で構成されている可能性が高いことも示しているという。パイロライトは、上部マントルに多く含まれる、オリビン、輝石、ガーネットなどの鉱物の割合、地震波の伝わり方、火山噴出物の化学組成、隕石の成分など、さまざまな情報を組み合わせて推定された「代表的なモデル岩石」である。
パイロライトは、地球内部の物質循環やマントル対流を理解するための基準として広く使われている。その一方で、マントルは特定の岩石が混ざり合った複雑な寄せ集めなのか、均質なパイロライトなのか、議論が続いていた。しかし今回の研究で、ガーネットとリングウッダイトの連動反応が明らかになったことで、同反応はマントルが均質なパイロライトなら起こるが、複数の岩石の寄せ集めで構成されたマントルでは起こらないことが判明。これにより、地球の内部が「均質なパイロライト」である可能性が強く支持される結果となったとした。
今回の研究により、660km不連続面の仕組みが解明されたことで、地震や火山活動を生み出す地球内部の物質や熱の流れを、従来よりもさらに正確に理解できるようになるという。また、マントルの組成や地球の進化モデルの見直しにもつながり、地球科学全体の基盤を大きく前進させる成果としている。