私が30年にわたる半導体業界での経験の中で見聞きした業界用語とそれにまつわる思い出を絡ませたコラムをしばらく続けている。これはあくまで外資系の半導体会社の日本法人での私の経験に限られた用語解釈であることを申し上げておきたい。今回は営業に関するものとして、「Forecast(売り上げ見込み)」を取り上げてみたい。なお、これらはあくまで外資系の半導体会社の日本法人での私の経験に限られた用語解釈であることを申し上げておきたい。

会社全体のビジネス運営の重要指標「Forecast」

私はAMDにマーケティングとして入社したが、その後24年の勤務のうち3分の1くらいの時間は営業職であった。営業職にあった時間で私はいくつForecastを出したかと考えると気が遠くなるような思いになる。各国の市場の最前線にいる営業部から上がってくるForecastは以下の意味で会社全体のビジネス運営にとって重要な指標となる。

  • 市場デマンドに応じた製造キャパシティーへの投資の決定
  • 新製品の市場性の見極めと拡販に必要なマーケティング投資の決定
  • 重要顧客での製品の受けと競合品に対する競争力の見極め
  • 各部に張り付ける人的リソース投資の見極め
  • 株主にコミットした会社全体の売り上げ・利益などの四半期ごとの数字の見極め

結局「売ってなんぼ」の世界であるから、より競争力があるものを適正な価格でより多く売るために必要なリソース・投資を決めるプロセスにとって、Forecastは大変に重要な拠り所となる数字である。しかし、このForecastにも目的によって次のようないくつかの種類がある。

  • Commit-based(コミットベース)の短期Forecast:これは営業には必達の数字である。四半期の締めが近づくと毎週のあるいは毎日の電話会議などで微妙に調整され続ける数字で、こうした会議は期末に近づくにしたがっていよいよ緊張のイベントとなる。当初の営業目標は通常実力より高く設定されるので、会議をやる度に数字はより小さく、しかしより正確になっていく。
  • Long-rangeの長期Forecast:これはその営業テリトリーの将来像を本社にアピールするためのもので、あまり消極的でも積極的でもそれぞれ問題がでる。こうしたForecastには担当営業の「気合」とでもいうような個性がよく表れる。通常各国のフィールドからはかなり楽観的な数字が出てくるので、本社は「話半分」くらいで受け止める。私の経験では2年以上先のフォーキャストは市場変化が激しすぎて事実上意味がない。
  • Unconstrained(青天井)Forecast:これは市場デマンドが製造キャパシティーを大きく超えた場合に、リミッターをかけなければどれだけ売れるかという数字であるが、実際には本社が「どの顧客にどれだけ数量を割り振るか」を決定するために必要な数字となる。営業側では各地域間での商品数量確保での取り合いになる。
  • Rock-bottom Forecast:これにはうまい日本語訳を思いつかないが、「どん底」Forecastとでも言っておこう。供給が品質問題などで急激に悪化すると顧客のエンド品の生産ラインの維持に支障をきたすことになる(「ラインダウン」などと言う言葉で表現される)。こうなると損害賠償などの厄介な問題に発展する可能性があるので営業は本社と顧客の間で板挟みになる。
  • Forecast

    Forecast、それ自体は無機質な数字の羅列だがその裏には営業の思いが反映されている (著者所蔵イメージ)

スターウォーズのジェダイマスター・ヨーダの言葉

営業は常に目標の達成を求められる結果責任の職業である。コミット・ベースのForecastは文字通り「必達」の目標である。

私が現役のころ本社の営業本部長がよく言っていた言葉を思い出す。それは初期のスターウォーズのどこかのエピソードでのジェダイマスターのYoda(ヨーダ)が若いルーク・スカイウォーカーを諭す言葉を引用したもので、「Do,or not do.There is no try.」である。これは日本語に訳せば「やるか(達成するか)やらないか(達成できないか)だ、"頑張ります"ではない」。私はこれを言われる度に「いい年をした大人がスターウォーズかよ…」などと内心では反発していたが、意外と真理を突いている。営業は言ったこと(Forecast)を達成して初めて評価される単純明快だがかなりタフな世界に生きているが、そうした世界にやりがいを感じる人間でないと大きな成功は望めない。そういう点では私自身はどちらかと言うと生粋の営業向きの人間ではなくマーケティング向きの気質であったと思う。しかし結局その両方をいやと言うほど経験することになったことは大きな収穫だったと思っている。