新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は、世界の経済と消費者の購買意欲に大きな影響を与え続けているが、半導体ならびにハイテク産業、そして最終製品にそれがどの程度の影響をおよぼすのか、市場動向調査会社である台湾TrendForceが市場予測レポートとしてまとめた。

それによると、半導体、メモリ、デイスプレイパネル、通信、太陽光発電、最終製品(テレビ、PC、スマートフォン、自動車)について、2020年3月末時点の予測として、すべての分野についてパンデミックを考慮していない過去の予測を下方修正している。

新型コロナウイルスの半導体産業への影響

最終製品の需要減退により成長が期待できないファブレス業界

グローバルなファブレスIC設計会社のほとんどのクライアントは新型コロナウイルス感染拡大前にファウンドリに注文を出し、一部はすでに出荷も始まっている。

そのため、IC設計会社の売い上げは、パンデミックの影響を多少受けるにせよ、2020年第1四半期での大幅な減少は見られない。しかし、パンデミックが拡大するにつれ、最終製品メーカーのIC設計に対する需要は低下している。具体的には、スマートフォン(スマホ)やその他の家電向けのファブレスIC設計会社が最も大きな影響を受ける状況となっており、そうした需要の減退が2020年第2四半期の業績に反映される可能性があることに加え、米国政府はエンティティリスト(Entity List)のポリシーに対するスタンスを変更していないことから、この2つの課題より、2020年のファブレスIC設計業界は大きな成長を期待できそうにない。

パンデミックの中、半導体製造を維持するファウンドリ/IDM

ファウンドリやIDMなどのウェハサプライヤは、高度な産業オートメーションにより、半導体の製造を維持することができている。

さらに、主要メーカーのファブ拡張計画は、いくつかの戦略的調整を行った後に実行される予定となっている。しかし、パンデミックが続く中、台湾、韓国、欧州、米国、日本などの各地域は、入国を制限したり、テレワーク(在宅勤務)制度を採用したりすることで、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制しようとしており、こうした取り組みが、主要な製造装置や原材料の欧州、米国、日本のサプライチェーンや将来のファウンドリの事業拡大に影響を与える可能性が高いとTrendForceは指摘している。

2020年第1四半期は業績を維持したファウンドリ業界

ファウンドリは2019年第4四半期以降、クライアントからの需要の高まりを受け稼働率を維持してきた。そのため、需要減退の影響を受けているファブレス業界や半導体後工程の組み立てとテストを請け負うOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)業界とは対照的に、2020年第1四半期のファウンドリ業界の収益は、パンデミックの影響をあまり感じられないものとなっている。

しかし、世界的な新型コロナウイルス感染拡大は、世界経済のみならず、個人や企業の購買力にも影響をおよぼしており、こうした購買意欲の減退が2020年第2四半期以降のファウンドリの業績に反映される可能性があるとしている。

  • TSMC

    TSMCの最先端5nmプロセスを用いた300mmウェハ。新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、高い稼働率で製造が続いているという (編集部撮影)

テスト市場は横ばいの見通し

パッケージングとテスト、そしてOSAT業界は、ここ最近は米中貿易戦争による需要の減退に見舞われていた。新型コロナウイルスの影響は、それよりも比較的小さいように見えるため、TrendForceでは、2020年第1四半期のOSAT市場は横ばいないし前年比でプラス成長になると見ているが、第2四半期以降の業界パフォーマンスはクライアントの需要に依存しているとしている。

景気低迷でメモリ価格の上昇圧力が低下

中国での新型コロナウイルス感染者の数が減少している一方、世界の複数の経済圏で感染数が増加しており、世界経済に大きなリスクをもたらす結果となっている。そのため、半導体メモリ市場も予想よりも早く低迷する可能性があるという。

現状、半導体メモリの需要については、家電製品に対する購買力が世界的に減退する影響を受けると見られている。特にスマホは、ほかの家電製品などと比べても、一般消費者が購入する中でメモリの消費比率が高い一方、需要の減退も大きく、こうした購買力の低下が、電子製品の需要低下につながり、結果としてメモリ製品の需要にも影響がおよぶとみられるとしている。

2020年初頭のDRAMおよびNANDは、クライアント側の在庫レベルは低く、かつビット供給量もそれぞれ前年比13%、32%という比較的低い成長率もあってTrendForceは当初、DRAM、NANDともに価格が年末に向けて確実に上昇すると予測していた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に起因する事態の変化により、DRAMおよびNANDのクライアントは、搭載する最終製品市場の需要低迷を受ける形でメモリ製品の購入を控えることが予想されることから、2020年のメモリ製品の平均販売価格は以前の同社の予測よりも上昇しない可能性があるほか、NANDにおいては状況次第では価格がさらに下がる可能性もあると同社では指摘している。