20世紀末までの日本の半導体産業は非常に勢いがあり、世界最先端の開発が活発に行われていたが、21世紀の現在、国内で最先端デバイスを開発し生産する半導体メーカーはわずか数社に減ってしまった。さらに、先端半導体製造プロセスの開発費が高騰している中、中国や韓国などは国のサポートを得て半導体製造装置メーカーが育ってきており、我が国の製造装置業界にとって脅威となりつつある。
日本半導体製造装置協会(Semiconductor Equipment Association of Japan:SEAJ)は、このような状況を踏まえ、「2020年以降においても日本の半導体製造装置業界が世界で戦い、勝つための新しい戦略」を2015年度の30周年の記念行事の一環として検討した。
そのいきさつはこうだ。2014年11月に開催されたSEAJ理事会で、半導体産業および製造装置業界の将来性への危惧から活動方針「2020年以降の半導体製造装置産業の進むべき方向 - 勝ち残るために何をなすべきか」が議論のうえ承認され、活動組織として「2020年プロジェクト」という名称が決まった。同プロジェクトには、アドバンテスト、荏原製作所、キヤノン、シバソク、SCREENセミコンダクターソリューションズ、ディスコ、東京エレクトロン、東京精密、ニコン、ニューフレアテクノロジー、日立ハイテクノロジーズの国内半導体企業11社が参加し、各社より、長期市場予測担当および2020年戦略提案担当の各2名が参加、合計22名によるチームが1年をかけてさまざまな調査分析や議論を行った。そして去る2月8日、その活動状況を報告する会合が東京都内で開催され、SEAJ会員企業の参加者に2020年以降も日本の半導体製造装置メーカーが勝ち残るための戦略やビジネスモデルの提案が行われた(図1)。
まずは、SEAJの「長期市場予測チーム」が15年先の2030年までの半導体デバイスおよび製造装置需要予測を行い、それを基に、「2020年プロジェクト」が最先端世代(22nm以下)、先端成熟世代(32~65nm)、成熟世代(90nm以上)ごとにそれぞれ異なるさまざまな具体的な戦略やビジネスモデルを提案した。その概要を以下の順に紹介しよう。
- 戦略構築のための2030年までの市場予測
- 半導体製造装置の3つの新戦略(最先端市場での戦略、先端成熟市場での戦略、成熟市場での戦略)
- まとめ
戦略構築に向けた2030年までの市場予測
2015年の世界人口73億人のうち、約19億人が電子機器を利用し、8.5ZB/年のデジタルデータが生成されていると推定される。そして15年後の2030年の世界人口は、現在の1.2倍の84億人になり、電子機器を利用する人口割合の増加やIoTの普及により生成されるデジタルデータ量も急激に増加し、約52倍の440ZBになると予測される。 このため、大量に発生するデータ(ビッグデータ)とその保管、そして保管されたビッグデータの分析、解析による有効利用を支える半導体デバイスの中心として、SSDなどのメモリやFPGAなどのロジックICの需要は格段に高まることが予想される。2020年~2030年のメモリIC市場成長率(年平均)は、NAND市場が8%、DRAM市場が3.7%、メモリ全体では6.0%と推定される。
一方、IoTで生じる膨大なデータ処理のためには、情報通信網と情報通信機器の性能向上やデータ転送速度の向上が必要である。また、データセンターではクラウドサービスの拡大でサーバPCの台数が数十万台規模で増大するため電力消費量も膨大となる。したがってデータセンター向けには処理速度などの性能向上に加え、低消費電力化が求められる。さらに、基地局やゲートウェイなどの通信インフラでは、通信規格の継続的進化に対応するため、通信状態を保ったままプログラムを書き換えられる事ができるデバイスが必要となる。このような背景から低電力で動作し、かつプログラムの書き換えが可能なFPGA市場の成長を加味すると、2020~2030年のロジックICの成長率は7.2%に伸びると推定される。
半導体販売高全体としては、2015年の3,670億ドルに対し、今後はメモリ、ロジックICを中心とする最先端世代デバイスの伸びが牽引し、2030年には7,360億ドルと約2倍の増加が期待される。
半導体製造装置売り上げは2030年に810億ドルと倍増へ
このように試算した世界半導体販売高を基に、半導体製造装置の販売高が予測された(図2)。過去の実績を参考にすると、半導体販売高の20%が設備投資に、さらにその50%が半導体製造装置に投資されている。そこで、平均として半導体販売高の11%が半導体製造装置に投資されるとすると、世界半導体製造装置販売高は2015年の400億ドルに対し、2030年には810億ドルと約2倍の成長が見込まれる。
最先端世代のファブ生産能力は2030年には2015年比で13倍増に
将来の半導体製造装置市場を見通すためのもうひとつの視点として、ウェハファブキャパシティ(生産能力)について、調査会社による2019年までの推移データを基に検討が行われた結果、2015年から2030年にかけての生産能力は、最先端世代で13倍、成熟先端世代で3倍、成熟世代で1.5倍、全体では3.3倍の成長になると予想された(図3)。
2015年および2030年の世界中のデータ生成量、世界半導体販売額、世界半導体製造装置販売高、ファブ生産能力およびそれぞれのこの間の成長率予測を総括したのが表1である。2015年から2030年までの15年間にデジタルデータの生成量は52倍、半導体販売高は2倍、製造装置販売高は2倍となり、ウェハ・ファブ全体では3.3倍の生産能力が必要となる。表1最下段に示したように、過去15年間(2000年~2015年)におけるファブ生産能力の増加は2.3倍だったことを考えると、今後の15年ではそれ以上の投資が必要になると見込まれる。同プロジェクトではNANDのファブ生産能力の試算も行ったが、微細化のペース(3年~4年)に応じてファブ生産能力の増加は3.4~8.4倍、SSD向けに限ると19倍もの生産能力増加が必要である。ここで試算した半導体製造装置販売高の増加は、ファブ生産能力の増加に比べて控えめであるが、これは過去の投資比率をもとに予測しているためである。
IoTの拡大によるデジタルデータ生成量の増加に伴い、全体的には半導体デバイス需要とその製造装置需要は明るいが、特に最先端世代においてはファブ生産能力および装置供給が需要に追い付かない可能性が示唆される。微細化の継続、または新しいデバイス構造などの技術革新によるビットコストダウンの継続的な追求に加え、半導体製造装置の生産性向上も必要である。一方では、デバイス種の多様化により、成熟先端世代や成熟世代のファブ・キャパシティ増加のための投資も期待できるために、これらのセグメントでのビジネスチャンスも増えることが期待できるが、中堅、小規模の半導体メーカーにとっては設備投資の負荷が大きくなることが懸念される。