富士フイルムは4月14日、半導体材料事業に関するメディア向け説明会を開催し、前工程分野で注力するフォトレジストならびに後工程分野の中でも特に注力する先端パッケージで活用される絶縁膜材料「ZEMATES」に関する最新状況についての説明を行った。コア技術を活用する形で前工程から後工程まで幅広く多様化する半導体デバイスメーカーからのニーズに応える体制を構築している姿を強く打ち出した格好だ。

  • 富士フイルム シニアフェローの野口仁氏

    説明を行った富士フイルム シニアフェローの野口仁氏(左)と、富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ ビジネスユニット本部長の高橋秀知(右)

AIの活用で未来のニーズに向けた研究開発を推進

富士フイルムは銀塩フィルムの開発を通じて、12のコア技術を磨いてきた。現在は、そうしたコア技術を、フィルムからさまざまな製品へと発展応用するようになっている。同社の半導体材料事業もそうしたコア技術を活用しており、主に「機能性分子技術」、「機能性ポリマー」、「精密塗布技術」の3つが貢献しているという。

  • 富士フイルムの12のコア技術

    富士フイルムの12のコア技術。このうち、「機能性分子技術」、「機能性ポリマー」、「精密塗布技術」の3つが半導体材料事業に貢献するものとなっているとする (資料提供:富士フイルム、以下すべてのスライド同様)

また、染料や医薬品といったオングストロームレベルの加工から、光学レンズや複合機といったミリメートルオーダーまで幅広いビジネスを通して技術やノウハウを複合知として有しているが、前工程材料であるフォトレジストと後工程材料である感光性ポリイミドは100nm前後の材料として、幅広い知見とAI技術を組み合わせることで効率の良い開発を実現してきたとする。

同社はAIを積極的に事業に活用していくことでも知られており、半導体材料の研究開発などでも活用をしてきたという。例えば、マリアルズ・インフォマティクス(MI)により、人間の常識では考えられなかった材料の組み合わせ候補が出てきたり、AIのサポートにより使用する金属はどれが対象との相性が良いのかといったことを見極めやすくなったり、開発期間の短縮だけではなく、これまで人間だけでは想像できなかった可能性が示されるなど、活用しなければたどり着くことが難しかった新しい取り組みなどもできるようになったとする。

材料技術の進化で高性能化を実現

同社の前工程材料の1つであるフォトレジストだが、先端プロセスで活用されるEUV露光装置も、2nm以降では従来のNA(開口率)0.33から、高NA(NA=0.55)へと移行しようとしている。富士フイルム シニアフェローの野口仁氏は、「現状の顧客ニーズには大きく2つの方向性がある」とする。1つは高NA EUV露光装置を活用した微細化の進展。もう1つは、EUV露光装置は高額であり、消費電力も大きいためイニシャルコストもランニングコストも増加してしまうことを抑えたいというものだという。

  • 富士フイルムにおける半導体フォトレジスト事業の2つの方向性

    富士フイルムにおける半導体フォトレジスト事業の2つの方向性。プロセスの微細化に伴って要求される高性能化と、製造コストを抑制したいというそれぞれのニーズにマッチする材料の提供を目指している

EUV露光装置向けにフォトレジストとして同社はArF時代よりネガ型EUVレジストを提供してきたが、現在、高NA EUV時代を見据えて高性能化を目指した有機溶媒に金属を含有させた「MCR(Metal Containing Resist)」の開発も並行して進めている。

ArFより提供してきたネガ型レジストをEUVが要求する性能に高めるために同社は新たな構造「PCP(PAG Connected PDQ)」を採用した。PAG(光酸発生剤)とPDQ(光分解性クエンチャー)を結合させたもので、従来、それぞれを単独で混合させていた際は不均一性が高く、酸が多く発生している領域と、失活してしまっている領域が生じてしまっていたという。PCPは、PAGとPDQを結合させることで、均一な存在状態とすることで、膜中の均一分布性を向上させることに成功。シャープな線幅形成を実現できるようにしたという。

また、併せて露光後に感光しなかった部分を除去して回路を形成するネガ型現像液(NTI:Negative Tone Imaging)を用いる際に、従来はレジストが現像液を吸収して膨らんでしまう膨潤が発生し、パターン倒壊やブリッジが発生するなどの欠陥が生じていたが、レジストの膨潤を抑えることができる現像液を開発することで、膨潤由来の欠陥を抑制ができるようにしたという。2026月2月22日~26日にかけて米国カリフォルニアで開催された国際光工学会(SPIE)主催の半導体関連技術の国際カンファレンス「SPIE Advanced Lithography + Patterning 2026 (SPIE 2026)」にて発表され、同現像液とネガ型EUVレジストを用いて高NA EUV露光装置で26nmピッチまで明確なパターン形成ができたことなどを報告したという。

  • ネガ型EUVレジスト

    独自の材料技術を活用することでネガ型EUVレジストの性能向上を実現していることに加え、露光時のフォトレジストだけでなく、後段の現像時に使う現像液もセットで提供することで、パターン倒壊などの欠陥の抑制と同時にしっかりと立った状態のパターン形成を可能にすることを可能としている

「同じレジストであっても、従来EUV露光装置から高NA EUV露光装置に変えただけでも感度や寸法バラつきが改善されたことも報告した。すでにEUVレジストは顧客に活用してもらっているが、高NA EUVの活用でより微細なピッチ形成が可能になることが示された」(同)とする。

  • 高NA EUVの活用でパターニング精度が向上

    同様のレジストであっても、高NA EUVによる露光を行うと既存のNA=0.33のEUVでの露光時に比べ、感度が約33%向上、LDCU(寸法バラつき)が約19%改善できることを確認したとする

高NA時代のフォトレジストとして「MCR」を提案

今後の高NA EUV時代に向けたレジスト材料として、同社ではMCRの開発を推進している。背景には、業界標準として活用されてきた化学増幅型レジスト(CAR:Chemically Amplified Resist)は、高NA EUV時代においてレジスト層を薄くしていった際の現像後の加工特性が劣化していくことが示されており、どこまでCARで引っ張れるかという思惑とともに、代替となる次世代のレジスト材料の開発競争が激化していることが挙げられる。中でも「MOR(金属酸化物レジスト:メタルオキサイドレジスト)」を国内の材料メーカーなどが実用化に向けて取り組んでいるが、金属はEUV光と反応しやすく加工性が高い一方、量産の際には水分などの環境性に課題があるため、専用ラインの構築などが必要となり、まだ実用化という点では課題が残されているという。

そこで同社はCARとMORの良いところを併せることを目指してMCRの開発を推進しているという。MCRはポジ型で、ポリマーと金属をイオン結合などの形でぶら下げることで、EUV光に対して高い吸収率を達成しつつ、加工耐性も向上させたレジスト材料となる。実際に7nm/5nm/3nmの各ノードごとにEUV層は増加していくが、その中でもMOL(Metal of Line)層のViaパターニングがクリティカルな領域と言われており、そうした領域での活用を期待するとしている。

  • CARとMORの良いとこどりを狙った「MCR」

    CARとMORの良いとこどりを狙った「MCR」。CARに金属を導入することで、EUV光への反応性を高めつつ、加工や取りまわしのしやすいさも維持できるメリットがあるという

また、ネガ型ではなくポジ型を選択した理由については、EUV露光にはArFまでの透過型の光マスクではなく、反射層でEUV光を反射し、その上部の吸収層(ABS)で不要なEUV光を吸収することでパターン形成を行うダークマスク(ブラックボーダーと呼ばれる)が用いられており、その仕様上、ポジ型(露光部が除去され、未露光の部分が残る)レジストが有利なためだとしている。

NILの使い勝手向上を可能とするスピンコートレジスト

このほか、同社はキヤノンとともにインクジェット方式に対応したナノインプリントリソグラフィ(NIL)向けレジストと、その下に塗布する密着材を開発してきたが、今回、新たにスピンコート方式に対応するレジストも開発したことを明らかにした。

従来のNILのレジスト塗布は、密着材を塗布後にインクジェット方式でレジストを滴下し、そこにモールドを接触させることでパターンを形成していた。ただし、スループットをさらに向上させたいといったニーズに加え、成膜安定性のさらなる改善とモールドに対するレジストの充填性の向上の両立も求められていた。スピンコートでは、高速回転させるウェハに塗布することでスループットが向上するとともに、独自設計により、成膜安定性とレジストの充填性の両立にも成功。パターニング精度については、インクジェットと同等の精度を得られることをSPIE 2026にて報告したという。

  • スピンコート向けレジストとインクジェット向けレジストでは組成が異なっている

    スピンコート向けレジストとインクジェット向けレジストでは組成が異なっており、粘度なども違っているが、パターン精度についてはどちらも同程度の高さを実現できるレベルに到達しているという

将来の先端パッケージに最適なフィルム型ポリイミド

一方の後工程向け、特に先端パッケージ向け絶縁膜材料として同社ではポリイミドを「ZEMATES」というブランドとして提供している。

  • 「ZEMATES」

    それ以前からも材料としては提供していたが、[2025年12月に先端半導体パッケージ向け感光性絶縁膜材料ブランド「ZEMATES」として立ち上げる](https://news.mynavi.jp/techplus/article/20251210-3790847/)ことで、注力姿勢が明確になったほか、製品単体としてはなくブランドとしての業界認知度の向上が狙えるようになる

先端パッケージ市場の拡大とともに、ZEMATESの売り上げも増加傾向にあり、新製品の投入も含め、2024年度比で2030年度には5倍以上の売上高達成を目指している。

そうした今後の伸びを支えるのが「フィルム型ポリイミド」となる。従来の液型ポリイミドは、主に再配線層向け「LTCシリーズ」と保護層膜/バッファコート(緩衝層)向け「Durimideシリーズ」の2シリーズがあるが、フィルム型ポリイミドはLTCシリーズ同様の再配線層向けの製品に位置づけられる。

  • ZEMATESの製品ラインナップ

    ZEMATESの製品ラインナップ。液型ポリイミドが獣リアからの主力であるが、PLPの普及に伴いフィルム型ポリイミドの需要も伸びていくことが期待されている

「厚膜の形成が可能であり、かつ高耐久性、高絶縁性を実現できる。そして伸びがある膜の形成が可能(高膜伸張性)でもある」と、同氏は自社のポリイミドの特徴を説明する。そのため、液型ポリイミドだけでも2021年度上期から2025年度上期の年平均成長率(CAGR)は19%と高い伸びを示しているとする。

液型ポリイミドだけで高い伸びを示している中でなぜフィルム型ポリイミドを投入するのか。その背景には、先端パッケージによる高性能化の実現には、複数のチップレットを接続する必要があるが、それぞれのダイサイズの大型化と、搭載チップレット数の増加に伴い、それらを配置するインターポーザのサイズも巨大化。従来は300mmウェハから切り出していたインターポーザだが、サイズの大型化に伴い取れ数が減って、経済合理性が取れなくなってきており、より多くの枚数を得るために角型パネル(PLP:パネル・レベル・パッケージ)への移行が進もうとしていることが挙げられる。

また、PLPとして用いるパネルサイズに厳密には指定はなく、ユーザー側が使いたい大きさを選んで活用することになる。例えば日本のRapidusでは、600mm角基板の活用を提案している

PLPでも液型ポリイミドで対応できなくはないが、すでに一部の顧客からフィルム型ポリイミドを活用したいという要望も出ているとのことで、コア技術である精密塗布技術を活用する形で製品化を進めているとする。

液型ポリイミドの場合、配線パターンが形成された上に滴下した後、ソフトベークで固めるといった工程を現状でも3~4層分行われる。この配線パターンと下地の基板の高低差によって、成膜の表層に若干のうねりが生じることとなる。層数が現在の3~4層レベルであれば、このうねりは無視できるレベルに収まるが、将来的にはチップレット枚数の増加などもあり、配線層を増やす必要から7~8層へと拡大してくると、無視できない差となり配線層に歪みが生じる可能性が懸念されている。これを一括成型した平坦なフィルムにすれば、ラミネートして、熱をかけるだけで平坦な層を維持できるため、多層化も容易にできるようになることが特徴で、FPD向けや磁気ディスク向けで培ったノウハウを活用することで大判フィルムの製造も可能なため、PLPのサイズが大きくなっても対応することも可能だとする。

さらに現時点ではインターポーザへの適用を想定しているが、インターポーザの電極ピッチが微細化すれば、その下のビルドアップ基板のインターポーザとの界面も微細化が要求されるようになるため、こちらも現状の素材での対応が難しくなってくると見られており、フィルム材料を応用できる可能性があるとしており、すでにサンプルの提供なども行っているとする。

  • ビルドアップ基板の表面層(界面)への適用も期待

    フィルム型ポリイミドはインターポーザのみならず、ビルドアップ基板の表面層(界面)への適用も期待されるという

チップレットの高性能化とそれに伴うPLPの普及に伴ってフィルム型ポリイミドの活用が進むことが期待されるが、かといって液型ポリイミドの需要がいきなりなくなるわけではなく、作りたいチップレットやコストに応じて使い分けが進むと見られることから、同社としては材料メーカーとして、どちらからの要望にも対応できる体制を構築していくとしており、そのいずれもが今後の成長に向けたキー製品になっていくとの考えを示している。