日本能率協会コンサルティング 経営コンサルティング事業本部 チーフ・コンサルタントの福井紘彦氏は、「SaaSは便利なツールだが、増えすぎると管理の手間やコストの増加といったマイナスの要因にもなる」と話す。では効率的にSaaSを管理するにはどうすればよいのか。

3月18日に開催された「TECH+セミナー SaaS連携 2026 Mar. SaaS飽和時代の“統合による生産性向上” ツール導入のその先、連携を成果に変えるには?」に同氏が登壇。「見える・減らす・広げる」の3つの観点からSaaSをスリム化し、統合的に管理する方法について解説した。

SaaSの乱立はなぜ問題?無駄コストと生産性低下の実態

講演冒頭で福井氏は、総務省による令和7年版の情報通信白書のデータを示しながら、SaaSの利用状況について説明した。この10年、SaaSを含めたクラウドサービスは右肩上がりに増加し続け、2024年には8割以上の企業が利用している。用途別に見ても、ファイル管理、電子メール、情報共有、勤怠管理、名刺管理など幅広く利用されており、日常業務において今やSaaSは不可欠な存在と言える。

SaaSは従来のウォーターフォール型のシステム導入に比べ、容易に短期間で導入できる。そのため、ユーザー部門が主導して現場から導入していった企業も多い。ただし各部門がそれぞれSaaSを導入すると、同じ用途であるのに部門ごとに異なるSaaSが導入され、機能が重複していたり、人によって使うツールが異なったりといった、いわばSaaSが乱立した状態になりがちだ。

SaaSが乱立すると情報がサイロ化され、業務の中で情報を探し回ったり、情報を受け渡すための手間がかかったりするなど、生産性はむしろ低下する。さらにシャドーITも増加し、使用しているSaaSの全体像が見えなくなってしまう。統制は難しくなり、未使用のアカウントが発生することでコスト面でも無駄が増えてしまうことになる。

  • SaaSが乱立することにより発生する課題

    SaaSが乱立することにより発生する課題

同氏によると、米国のある調査では、1社あたり平均で112個のSaaSを導入しており、業務で使用するシステムのうちSaaSが85パーセントを占めるという結果が出ているという。そして従業員1名あたりのSaaSへの平均支出額は8700ドル、日本円にして約130万円にも上るそうだ。SaaS市場は今後も伸び続けることが予想されているため、これらの数字はさらに増加することになるだろう。

一方、SaaS導入には無駄が多いことを示すデータもある。まず、割り当てられたSaaSライセンスを一度も使用していないユーザーは73パーセント。こうした未使用ライセンスにより無駄になっている費用は13万5000ドル(約2000万円)となっている。2000万円とは看過できない数字だが、無駄なコストはちょっとしたことで巨額になる。例えば1000人規模の企業で1人あたり毎月5万円のSaaSへの支出があるとすると全体の支出は6億円だが、そのうち5パーセントだけが無駄だとしても、無駄費用は全体で3000万円にもなってしまうのだ。

「こうしたコストは放置するとどんどん大きくなり、経営を圧迫する一因にもなってしまいます。だからこそSaaSを適切に把握して管理することが重要です」(福井氏)

「SaaSをどう整理する?「見える・減らす・広げる」の進め方

SaaSをスリム化して無駄を省くために、福井氏は「見える」、「減らす」、「広げる」という3つの観点から考えるべきだと話す。

「この3つを意識することによって、コスト削減と、業務やツールの使い方の効率化を同時に考えることができます」(福井氏)

「見える」は、導入されているSaaSの種類やその使われ方を把握することだ。SaaS名、利用目的と機能、利用者数、利用頻度、総コストなどを把握できれば、コストの割に使えていないツールがあることや、同じ機能を持つツールが重複していることなどが見えてくる。

集計にはExcelなどの表計算ソフトも利用できるが、SaaS管理ツールを使えばより早く正確に内容を把握できる。導入済みのSaaSの一覧化やシャドーITの検出、アカウントやライセンスの管理などができるほか、契約情報や支出の管理、非アクティブユーザーの抽出などの機能があり、効率的に管理業務を行える。

「減らす」は、使用するSaaSの数を減らして支出を削減するものだ。解約してSaaSの数を減らすだけでなく、継続して使用するSaaSのアカウントを適正数まで減らすというアプローチも有効だ。SaaSの支出は基本的に、SaaSの数、機能、アカウント数によって決まってくる。したがってこの3つの観点から削減を考えることが重要だ。

SaaSの数はコストに直結するが、削減すればその機能が使えなくなるため、データの退避や業務プロセスの見直しなど、手間のかかる面もある。機能については、使っていない機能を見極め、状況に応じてプランをダウングレードする。これも即効性があるが、ダウングレードすることで必要な機能までなくなってしまっては意味がないため、慎重に見極める必要がある。さらに、使われていない非アクティブアカウントの削減も必要だ。

「それぞれにメリット、デメリットがありますので、削減数やその効果をどの程度で想定するかによって、アプローチを決めていただくことが大事です」(福井氏)

「減らす」だけでは限界がある。そこで使用中のSaaSの利用価値を高め、費用対効果を向上させるのが「広げる」の考え方だ。まず使用していない機能を特定し、業務改善と併せてそれを活用できる方法はないかを検討する。そして部門ごとにどの機能をどんな頻度で使っているかを把握しておく。そうすることで、新たなSaaS導入の際に既存ツールでカバーできる機能を追加しないなど、統合的なSaaS活用を進めることができる。ポイントは、SaaSの総コストを変えずに活用範囲を拡大するということだ。

SaaS削減はなぜ進まない?現場の心理的バリアと対処法

業務改善におけるECRS(Eliminate:排除、Combine:結合、Rearrange:入れ替え・代替、Simplify:簡素化)の考え方も、SaaSの効率的な管理に役立てることができる。そのSaaSをなくせないか、類似SaaSを一本化できないか、他の既存SaaSで代替できないか、オーバースペックなSaaSをダウングレードできないか、といった視点で考えることが、SaaSの適正化に有効だ。

一方、現場から見ればSaaSの廃止や統合は手間がかかるものであり、ツールを奪われるような気分にもなるため心理的バリアが生まれることがある。それに対応するには、まず活動目的を明確にし、必要性を理解してもらわなければならない。無駄な金額や期間を示すのも有効だ。いきなり全て廃止にするような提案は受け入れにくいため、段階的に廃止する、代替手段を示すなど柔軟な提案をすることも必要だろう。また、IT部門だけで進めるのではなく、必要に応じて経営層からメッセージを発信するなど、全社的な取り組みとして進めることが望ましい。

SaaS管理はどう続ける?失敗しない運用とPDCAの回し方

SaaSのスリム化に成功しても、しばらくすると元の状態に戻ってしまうこともある。そのため継続的な管理が行える仕組みが必要だ。福井氏が提案するのは、導入、活用、運用・管理、見直しのPDCAサイクルをつくることだ。まず導入段階ではどんなSaaSなら入れるべきかという判断基準を明確にし、申請フローも設計しておく。そして導入したSaaSは日常業務に組み込んで活用を推進する。運用・管理ではアカウントの追加や削除を的確に行うための申請フローを設計し、非アクティブなアカウントに対するルールも策定する。そしてSaaSは進化を続け、常に新機能の追加や仕様の変更が行われるため、年単位など定期的にサービス内容を検討し、競合製品との比較を行うことも必要だ。

SaaS導入を成功に導くにはどうすればよいのか。同氏は、「SaaS導入は目的ではなく手段だということを認識してほしい」と訴える。重要なのは、現在の業務がどうなっていてどこを変えなければいけないかという、問題点の整理を最初に行い、理想の姿を描き、それに合うツールは何かを見極めることだ。

「SaaSの導入は、業務改革とセットで進めていくのが原理原則です。そのうえで目的や課題を明確にし、必要な機能を見極めて、自社に合ったサービスを選ぶことが重要です」(福井氏)