2026年5月14日に都内某所で、サーブによるメディア向け説明会が行われた。今回はちょうどテーマの変わり目にあたることと、興味深い内容の説明会であったことから、説明会でも取り上げられた「スウェーデンにおける防衛装備品開発のフィロソフィ」の話を主体として書いてみる。
スウェーデン製の防衛装備品は、しばしば「独特」と評される。道路から発着する戦闘機、少人数で運用できる設計思想、長期運用を前提とした改修容易性――その背景には、スウェーデン特有の地政学条件と、防衛思想がある。
サーブは総合メーカーである
飛行機好きなら、サーブといえばJAS39グリペンをはじめとする戦闘機のメーカーとして知名度が高いが、実は航空機だけでなく防衛電子機器や陸戦兵器など、500を超える品目の製品を手掛けている総合防衛メーカーである。
また、スウェーデン製の防衛装備品といえば、そのユニークさが話題にのぼることが多い。ただし注意しなければならないのは、ユニークなものを作りたいからそうしたわけではないということだ。
まず、スウェーデンが置かれている状況に基づいた、スウェーデン独自の防衛構想があり、それを具現化する手段を開発した結果として、ユニークな製品が世に出てくるのである。
J35ドラケン以来、サーブの戦闘機は道路からでも離着陸できる能力と、着陸してから再発進準備を整えて飛び立つまでの、いわゆるターンアラウンドタイムの短さを特徴としている。それは、まず「分散運用」という航空戦のコンセプトが先にあってのもの。最近は他国でも、ACE(Agile Combat Employment)などと称して同様のことを始めているが、スウェーデンはそれを数十年も前からやっていた。
そのスウェーデンにおける、防衛産業や防衛装備品開発の基盤となるフィロソフィ、そしてコンセプトについて、説明会の最初で登壇して説明にあたったのが、駐在武官のミカ・イハライネン海軍中佐である。
イハライネン中佐は、スウェーデンが置かれている地政学的な状況や、国防に関する政府としての取り組みについて説明した後で、産業政策や装備品開発の話を取り上げた。
同盟国と支える防衛サプライチェーン
まず出てきたのは「自前の産業基盤を維持することの重要性」だが、単に企業と工場と人材が自国内にあれば済むという話ではない。
自前の防衛産業基盤は「有事の際の供給確保のために必要」と説明されることが多いが、いざというときに生産能力を高めることができなければ、それは画餅と化す。しかし、平時から、有事に備えた生産余力を維持し続けるのは難しい。
これについて、後で宇梶慧氏に伺ってみたところ、「自国に加えて他国にもサプライチェーン網を展開して、面的な基盤を作る」と説明された。
ひらたくいえば、「自国だけですべて賄おうとするのは現実的ではないから、同じ価値観を共有できる同盟国・同志国と組んで、トータルで所要の能力を実現できるサプライチェーンを構築しましょう」という話になろうか。
実際、最近の日本、アメリカ、オーストラリアなどを巡る状況を見ていると、そういう方向性が見て取れる。サーブも、JAS39E/Fグリペンのサプライチェーンをブラジルに展開している一方で、米空軍向けにボーイングT-7レッドホーク練習機の生産に参画している立場だ。
少ないマンパワーという課題
スウェーデンは国土が広い割に人口が少なく、外務省が公開しているデータでは2024年の時点で1,059万人。なんと東京都の全人口と比べて7割ぐらいでしかない。それでいて国土面積は日本の1.2倍ぐらいある。
このことから、「敵対勢力は常に、頭数でスウェーデンを上回る」「よって、ハイテクによって戦い残らなければならない」とイハライネン中佐は説明する。
ただし、ハイテクが技術者のおもちゃや自己満足の手段になってしまってはいけない。そこでイハライネン中佐は、「シンプルかつベーシックな問題解決が必要」「機動性を持たせることの必要性」と指摘する。
JAS39グリペン戦闘機は、空対空戦闘用のコンフィギュレーションなら10分間、もっと重たいコンフィギュレーションでも15分程度で燃料と兵装を搭載して再発進の準備を整えられる。しかもそれを、10~12カ月程度の軍務経験しかない兵士が、少人数で行えるように設計されている。
分散運用による航空戦という要求が最初にあり、それを実現するために不可欠となる「ターンアラウンドタイムの短縮」「高度な熟練を求めない」という要素が導き出される。それを実現するために技術者が脳漿を絞る。そういう流れである。
ここで個人的な付け足しをすると、分散運用して動き回りながら航空戦を展開するには、整備員や燃料・兵装・その他の補給物資も動き回らなければならない。それらが必要とされるときに必要とされるところに先回りして、降り立ってくる戦闘機を確実に待ち受けられるようにするには、今なら情報通信システムの支援が有用であるかもしれない。
“TRIPLE HELIX” モデル
では、それを実現するための、国としての仕組み作りはどうするか。そこでイハライネン中佐が言及したのが、”TRIPLE HELIX” モデルである。日本語訳すれば「三者連合モデル」となろうか。ここでいう三者とは、政府、学術界、そしてサーブをはじめとする産業界である。
政府は、必要な予算を用意するとともに、(国の護りを実現するために必要となる運用構想と、それに立脚した)要求仕様を策定する。
ただし、その要求仕様があまりにも細部に立ち入りすぎると、イノベーションを阻害する。「何を達成すべきか」「どういう機能・能力が必要か」は明確に定めなければならないが、それをどう実現するかについては技術者に委ねる、という話になろうか。逆に、要求仕様が大雑把に過ぎると、官側の意図・意向に沿わない、間違った製品ができかねない。
技術者任せでは「幻想的な製品」になる
学術界と産業界は、その要求仕様を受けて、研究開発・試験・評価、そして装備品の製造と維持管理を担当する。問題は、このモデルにおけるバランスである。
イハライネン中佐は「いったん配備したプラットフォーム(航空機、車両、艦艇など)は5~40年間にわたって使うものであるから、その過程でアップデート、アップグレード、手直し、延命といった作業が必要」と説く。いいかえれば、寿命中途で手を加えることを前提とした設計が、アーキテクチャが求められるということで、そこは技術者が脳漿を絞らなければならないところである。
また、「運用者は運用現場のことには詳しいが、イノベーションを生み出すのは得意ではない」「技術者だけでは、夢想的な製品(fantasy products)を作ってしまったり、必要なタイミングで製品を届けられなくなったりする」「よって、運用者と技術者の間のバランスが重要」ともいう。
あくまで、「このようにして国の護りを実現する」「そのためにはどんな機能・能力が必要」という話が先にあるべきで、それを策定できるのは官側、運用者側である。技術は手段であって目的ではない。ハイテクの粋を凝らしたからといって、必ず戦に勝てる装備品ができるとは限らない。そのことは、今のイランの状況を見れば理解できよう。
いろいろ書いていたら分量過剰になりそうなので、続きは次回に取り上げることとしたい。あくまで防衛装備品がらみの話が本題だが、その他の業界における製品・サービスの開発でもなにかしら、参考になる話ではないだろうか。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。





