ウクライナ戦争以降、防衛装備開発では「何年もかけて完成品を作る」という従来型のやり方が通用しなくなりつつある。サーブが5月14日に都内某所で行われたで説明会で示したのは、既製品を組み合わせ、わずか64日でフィールド試験に到達したC-UAS開発の姿だった。前回に続き、スウェーデンにおける防衛装備開発のフィロソフィを追う。
“数年かけての開発”では間に合わなくなった
特にここ数年になって顕在化した話として、「防衛装備品の開発を迅速に進める必要性」が挙げられる。時間をかけてじっくり、慎重に開発するよりも、素早くモノを送り出すことが求められる場面もある、という話だ。
防衛装備品の開発というと、「大きなおカネが動くビッグ・プロジェクト」と見なされるのが一般的。実際、戦闘機や艦艇みたいな大物案件では、リスク低減のために時間をかけて「要素技術の開発~コンポーネントやサブシステムの開発~全体のシステム構築」と段階を踏む。
また、開発プロセスが進む過程で、進捗状況や今後の見通しについて何回も審査することで、想定外のトラブルに見舞われてビックリさせられる事態を防ごうとする。それでも、実際にはトラブルが出てビックリさせられることがままあるが、それはまた別の話。
ところが、こうした「時間をかけて統制されたやり方で進める」案件だけでは済まなくなってきた。ことに近年の無人ヴィークル分野では、年単位ではなく、月単位、ときには日単位での、迅速な開発・配備が求められる傾向が強まっている。対抗策と対抗策をぶつけ合うペースが速まっているからだ。
その典型例がC-UAS(Counter Unmanned Aircraft System)、いわゆるドローン対策の分野。ことに、ロシアやウクライナに近いバルト三国、ポーランド、フィンランド、スウェーデンといった国では、ロシアやウクライナやベラルーシあたりから、実際に無人機が自国の上空に飛んできている、あるいは飛んでくるリスクに直面している。
そこで、従来と同じ感覚で、何年もかけてRDT&E(Research, Development, Test and Evaluation、研究開発・試験・評価)や、TTP(Tactics, Techniques and Procedures、戦術・手法・手順)の策定を進めている余裕はない。脅威はいま目の前にある。
既製品を組み合わせ64日で試験開始
そうなると、最適解を追求してゼロベースで新規開発するよりも、まずは目の前の「ありもの」を活用することを考えなければならない。その具体例をサーブの事例で見てみる。
サーブ、BAEシステムズ、ボフォースが組んで、2026年4月にスウェーデン軍の装備部門・国防資材局(FMV : Försvarets Materielverk)から受注したC-UASシステム “Gute II” では、レーダーはサーブ製のジラフ1X、機関砲はBAEシステムズ傘下のボフォース製、と既製品を活用している。
これに先立ち2025年に発表した“Loke”でも、やはりジラフ1Xレーダーを使用しているほか、TrackFire遠隔操作式砲塔も既製品、指揮管制システムも防空用の既製品。ただし、用途が変わればソフトウェアの手直しは必要になった可能性が高そうだ。
Lokeでは、プロジェクト開始からフィールド試験まで64日しかかけていない。
しかも試験後は、実際にロシア方面からの無人機脅威に直面するポーランドへ投入された。
こうなるとモノをいうのは、迅速なシステム・インテグレーションを実現する能力であり、そこは経験やノウハウの蓄積が成否を握る。
重要なのは“新規開発”より統合能力
要約すると、「こういう任務を、こういう目的を達成するために必要な機能・能力・コンポーネントは何か」を洗い出し、持ち駒を調べて引っ張ってきて、組み合わせて動かしてみるプロセスを迅速に走らせる。そういう話になる。
ところが、ときには自社製品に適切な持ち駒がなく、他社製品に求める場面も出てくる。実際、サーブが手掛けているC-UASソリューションの中には、ノースロップ・グラマン製のM230機関砲を使用するものもある。そうなると、サーブが記者説明会の席で強調していた、「すべてを自社で抱え込むのではなく、他社と組んで結果を出していく」スタイルともマッチする。
無人機の分野でも、自社で手掛ける対象は絞り込んでいる。戦闘機と組んで行動する、いわゆるCCA(Collaborative Combat Aircraft)みたいな機体は自社で手掛ける候補になるが、電動マルチコプターみたいな機体は対象外。機体は他社に委ねて、それを制御・統制するソフトウェアの部分に専念する、といった按配になる。
そして、さまざまな企業との協力関係を構築することは、前回に触れた「複数国にまたがる面的なサプライチェーンの構築」という話にもつながってくる。協業相手は結果として、サーブのサプライチェーンの一翼を構成することになるからだ。
ならば、そこに「この分野ならうちに任せろ」という持ち駒を持っている日本の会社が参入しても良いのではないか。サーブの話ではないが、海外のメーカーが日本の小さなメーカーに目をつけて参画を打診、実現に至った事例は、実際にある。
AIを導入しても「最後は人間」
こうした迅速化やAI活用の流れの中でも、サーブが強調していたのは「人間中心」の思想である。
筆者は以前から、「コンピュータに勝手に戦争をさせてはいけない」と書いてきた。肝心なところの意思決定は人間に委ねなければならない。責任を取れるのは人間だけである。
サーブでは、JAS39グリペンに人工知能(AI : Artificial Intelligence)の機能を組み込む取り組みを進めているが、そこで使用するAIエージェントはドイツのHelsingという会社が開発した“Centaur”を用いている。
ただし、AIエージェントを組み込んだグリペンが勝手に戦争するわけではない。あくまで、「肝心なところの決定は人間が行うべき」という思想を堅持している。
前回に述べた「経験が浅い兵士でも迅速に再発進準備を整えられる」話も、「人間が中心」という思想の現れという見方ができよう。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。




