どんな機器でも、誤操作をしないに越したことはない。ただし、それがウェポン・システムに関わるものになると、誤操作ひとつが一国の命運を左右するような事態も起こり得る。

だからこそ、誤操作を防ぐための仕組みは徹底的に作り込まれている。本稿では、そうしたマン・マシン・インタフェースの工夫を具体例から見ていく。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • F-35B(の、コックピット・シミュレータ)に付いている計器盤。兵装緊急投下(JETTISON)や緊急脚下げ(ALT GEAR EXTENSION)のボタンに、誤操作防止のための工夫が見て取れる 撮影:井上孝司

    F-35B(の、コックピット・シミュレータ)に付いている計器盤。兵装緊急投下(JETTISON)や緊急脚下げ(ALT GEAR EXTENSION)のボタンに、誤操作防止のための工夫が見て取れる 撮影:井上孝司

誤操作対策は誤操作の歴史の裏返し

そこで「ちゃんと注意しない方が悪い」といって個人に責任を押し付けるのでは、本質的な解決にはならない。人間はミスをすることもある生き物である。ミスしても最悪の事態につながらないように、機器やシステムの側で何らかの安全措置を講じることは不可欠だ。

それはすなわち、マン・マシン・インタフェースの問題でもある。たぶん、さまざまな分野にいえることだが、誤操作を防ぐという形の安全対策は、過去の事故・事件の経験を反映したものである。

「まさかそんなことが起こるはずはないだろう」などといって設計したマン・マシン・インタフェースにおいて、実際に誤読や誤操作に起因する事故が起きると、「そんな問題があったのか」と気付いて対策する。その繰り返しがあって現在に至っている。

つまり、誤操作防止のためのマン・マシン・インタフェースの工夫というのは、それ自体が血塗られた歴史の産物、血で書かれた教訓の産物である。だから、それを安直に弄り回したり、安直にやめてしまったりするべきではないだろう。

誤操作を防ぐ方法には何があるのか

では、その血で書かれた教訓の産物にはどんなものがあるか。

誤操作を防ぐ方法を大別すると、「注意喚起する」と「誤操作をできない、あるいはしづらいように、物理的に措置を講じる」の2種類に大別できる。

注意喚起でよくあるのは、誤操作させたくないスイッチやボタンやレバーの背景に、黄色と黒など、目立つ色の縞々模様を仕掛ける手法。飛行機の操縦室でよく見かけるやつである。冒頭の写真だと、兵装緊急投下のボタンがそれにあたる。

また、レバーやノブを赤くする手法もよく見かける。信号機に限らず、赤いものを見ればハッとするというわけである。複数の注意レベルがあるときには、「ノーマルは白」「注意が必要なときはアンバー」「クリティカルなやつは赤」と使い分けることもある。

航空機では誤操作防止はどう実装されているのか

それでは、航空機における事例を紹介しよう。

ボーイングのKC-46給油機

以下の写真は、2016年の国際航空宇宙展(JA2016)にボーイングが持ち込んでいた、KC-46給油機の給油ブーム操作ステーションのシミュレータ。KC-46はフライング・ブーム方式とドローグ&プローブ方式の両方に対応しているが、ドローグホースについては、何かまずいことがあったときに切り離せるようになっている。その切り離しを指示するボタンは縞々で囲んで注意喚起している。

また、ボタンを見ると白で「INT」、アンバーで「EXEC」と書いてあるから、まず1回押すと切り離しのための初期化(?)操作が行われて、さらにもう1回押すと切り離しを実行(EXEC = Execute)する仕組みなのかもしれない。この、大事な操作だけ色を変えてアンバーにしているのもまた、注意喚起である。

  • KC-46Aのブーマー用コンソールに付いている計器盤の一部。ドローグホースの緊急切り離しができるが、そのためのボタンだけ赤白縞々の注意喚起がなされている 撮影:井上孝司

    KC-46Aのブーマー用コンソールに付いている計器盤の一部。ドローグホースの緊急切り離しができるが、そのためのボタンだけ赤白縞々の注意喚起がなされている 撮影:井上孝司

F-35の計器盤にある「AUTO RECOVERY」

F-35では、誤操作防止のために「複数の仕組み」を重ねているのが特徴だ。

もうひとつ、物理的に誤操作を防ぐ手法として、スイッチやボタンに蓋をしてしまう方法がある。よくあるのは、押しボタンに透明樹脂製の蓋をかぶせておいて、まず蓋を跳ね上げなければ押せないようにする方法。

それと同種の手法で、ノブやレバーにカバーをかぶせる場合もある。そのカバー自体を赤くしたり、さらに背景を縞々模様にしたりする、念入りな事例もある。

その一例が、F-35の計器盤にある「AUTO RECOVERY」。パイロットが空間識失調(バーティゴ)に陥るなどして、機体の姿勢・針路などを正常に維持できなくなったときに、とりあえずこれを操作すれば水平直線飛行に戻してくれるというものである。

この「AUTO RECOVERY」のスイッチは、赤い蓋をかぶせて、さらに背景を黄色と黒の縞々にするという念の入れよう。

  • これも、F-35B(の、コックピット・シミュレータ)に付いている計器盤。「AUTO RECOVERY」のスイッチはカバーを付けて誤操作を防ぎ、さらに赤いカバーと縞々模様で念入りに注意喚起している 撮影:井上孝司

    これも、F-35B(の、コックピット・シミュレータ)に付いている計器盤。「AUTO RECOVERY」のスイッチはカバーを付けて誤操作を防ぎ、さらに赤いカバーと縞々模様で念入りに注意喚起している 撮影:井上孝司

一方、計器盤の左側には「JETTISON」つまり兵装緊急投下の押しボタンがある。これを押すと、兵装架に吊るしている兵装をみんな投棄するというものだ。ただしF-35は機内兵器倉があるので、緊急投下スイッチは回転式のダイヤルと押しボタンを組み合わせた構造になっている。

まず、ダイヤルを回して「ALL」「EXT」「SEL」のいずれかを選んでから、中央のボタンを押し込む仕組み。そしてダイヤルの背景と押しボタンが、これまた縞々模様になっている。押しボタンはダイヤルの中に組み込まれているから、意識して指で押し込まなければ動作しない。

その下にある緊急脚下げ(ALT GEAR EXTENSION)や、左側のコンソールにある統合動力パッケージ(IPP : Integrated Power Package)の緊急停止といったボタンは、赤い「田」の字型のカバーで覆われている。火災報知機を作動させるボタンと同じで、意図的に指で「田」の字型カバー中央の十字部分を突き破らないとボタンを押せない仕組みである。

F-35の名物は大画面のタッチスクリーンだが、そこでも、誤操作するとまずい項目は、ちゃんと縞々で囲んだ表示になっている。また、いわゆるドラッグ操作を受け付けないようになっているのも、誤操作を防ぐ工夫のひとつ。

スロットル・レバーや操縦桿(サイドスティック)にボタンやノブがいろいろ付いているのはHOTAS(Hands on Throttle and Stick)化のための必然だが、それぞれ形を変えて手触りで区別できるようにしているほか、兵装の発射や投下といったクリティカルな用途のものは、ちゃんと赤くしてある。といっても、操作するときにいちいち目で見るわけではないだろうけれど。

艦艇ではどうか

飛行機の話ばかりでは何なので、他の分野も見てみる。誤操作防止の考え方は、航空機だけでなく艦艇でも同様である。

例えば、伊海軍の多用途警備艦「フランチェスコ・モロスィーニ」で見てきた「コックピット型の艦橋」である。

いろいろ例を挙げ始めると際限がないが、バウ・スラスタを操作するダイヤルやスイッチの近隣に、縞々で囲んで、さらに赤い蓋を設けた「EMER」と書かれた赤い押しボタンがあった。これは明らかに、緊急時(EMER = emergency)にしか操作してはいけない種類のやつである。

英空母「プリンス・オブ・ウェールズ」の航空管制所(FLYCO)でも、着艦進入の誘導管制を司るLSO(Landing Signal Officer)ステーションを見ると、着艦のやり直し(ウェーブオフ)を指示する際に使用するボタンは、左右に「壁」を立てて、意図的に指で押し込まないと操作できないようにしてあった。もちろん色は赤である。

  • 「プリンス・オブ・ウェールズ」の航空管制所(FLYCO)。中央付近に、誤操作防止のための囲いが付いた、赤いウェーブオフ指示ボタンがあるのが分かる 撮影:井上孝司

    「プリンス・オブ・ウェールズ」の航空管制所(FLYCO)。中央付近に、誤操作防止のための囲いが付いた、赤いウェーブオフ指示ボタンがあるのが分かる 撮影:井上孝司

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。