2025年3月、日本郵船、NTTファシリティーズ、ユーラスエナジーホールディングス、三菱UFJ銀行、横浜市の5者が連携し、横浜港において再生可能エネルギー100%で稼働する洋上浮体型データセンター(以下、洋上データセンター)の実証実験を行うと発表した。
洋上データセンターは、クラウドサービス普及や生成AIの登場で需要が高まるデータセンターの建設および運用における、様々な課題(データセンター建設適地の不足、データセンター建設リソースの不足、カーボンニュートラルの推進など)の解決を目的に構想された(関連記事:海に浮かぶデータセンター始動、再エネ100%でAI時代の電力問題に挑む)。
そして、今年の3月25日には、横浜港大さん橋ふ頭に設置されているミニフロート(浮体式係留施設)上にコンテナ型データセンター、太陽光発電設備および蓄電池設備を設置し洋上データセンター実証実験を開始した。
そこで、5者連携の中で洋上データセンターの設計・構築・安定運用の技術検証の役割を担うNTTファシリティーズのデータセンターエンジニアリング事業本部 ソリューション部 技術部門長 橋本誠一郎氏と、同 エネルギー部門グリーン担当課長 児玉和之氏に洋上データセンターのメリットや課題、今後の展開を聞いた。
なぜNTTファシリティーズは洋上データセンターに挑むのか
洋上データセンタープロジェクトに参加した経緯を教えてください。
橋本氏:2022年の12月に日本郵船様から、洋上データセンター建設プロジェクトのメンバーとしてやっていきませんかというお誘いを受けたところからスタートしました。
さまざまな事業者と意見交換されていたようですが、弊社もデータセンター構築に多く関わらせていただいておりますので、声がかかったのだと思います。
お話を伺って最初に受けた印象は、非常に面白いプロジェクトだという点です。社会課題を解決していくんだという強い熱意を感じ、日本郵船様のビジョンに共感しました。一方で、われわれは陸上でしかデータセンターを作ってきたことがないため、海上で本当にデータセンターができるのだろうかという点は、技術者としても非常に興味が湧きました。
御社はなぜこのプロジェクトに参加しようと思ったのでしょうか
児玉氏:現在、データセンターのエネルギー使用量が増えており、それをいかに省エネ化、再エネ化していくかといったところが、データセンターにおける大きな課題になってきています。データセンターは技術革新が早く、変化に合わせて追従していくことがわれわれのミッションでもあります。洋上データセンターが、その解決策の1つになり得るのではないかと考え、一緒にやりましょうということになりました。
土地・電力・建設費――データセンターの課題を海で解決できるか
洋上データセンターのメリットは何でしょうか?
児玉氏:陸地であれば、データセンターの場所は限られていますが、海であれば候補が膨大にあります。現在、東京や大阪にデータセンターが集積していますが、東京や大阪には湾があり、IX(インターネットエクスチェンジ)からの距離も近い好立地が豊富にあるという点です。
また、昨今は電力系統の引込みに時間がかかるという課題もあります。洋上であれば、臨海エリアの発電所電力を調達しやすく、電力を確保しやすい点もメリットです。洋上風力発電の電気を送電ロス無く使うことができるところも価値としてあると思っています。
さらに、データセンターの課題として、建築コストの上昇や工期が長期化している、施工する人手が足りないという点もありますが、洋上であれば、船を作るときと同じで、造船所で組み上げ、それを必要な場所に海上輸送で持っていくことができます。
陸上でもプレファブリケーションコンセプトといって、なるべく工場で作って現地の工程を少なくする工法が採用されるケースも増えてきていますが、洋上データセンターは、究極のプレファブともいえ、一気に造船所で浮体構造からデータセンター内部まで一度に組み上げて、そのまま現地へ持っていくことができるので、現地施工を極力減らすことで、工期が短く、コストも抑えられるという価値があると思っています。
橋本氏:もう1つメリットとして、移設できる点があると思います。陸上のデータセンターの場合は、鉄骨やコンクリートによる建物のため移設はできませんが、海の場合は移設ができるので、ニーズの変化に合わせて需要があるエリアに移設できるというメリットは大きいと思います。
実証実験施設の開所式が3月25日にありましたが、ここから実証実験がスタートしたのですか?
橋本氏:横浜港大さん橋での実証はその日からということになりますが、机上での検討や技術的な確認はこれまでも行っています。
児玉氏:この施設では3つの実証をやろうとしています。1つ目がエネルギーマネジメント、2つ目が揺れや振動の影響、3つ目は空気質や塩害の影響を確認しようと思っています。別のやり方で、事前の検証は行っており概ね問題ないことを確認していますが、実際の施設で影響を定量的に把握・分析しようと考えています。
橋本氏:日本郵船様は900隻以上の船を運航されており、船舶内でサーバー類がすでに運用されているという実績があります。お客様の納得性をより高め、データセンターをサービスレベルでとして提供するために、実証実験で定量的に検証していこうと相互に確認しています。
エネルギーマネジメントについては、複数の異なる再生可能エネルギーを連携した最適な運用方法の確立をめざしています。
洋上データセンターに関して、新しい技術が必要だとか、そういうことはないのでしょうか?
橋本氏:我々も陸上の揺れ対策は建物の構造検討として実施していますが、陸ではない3次元の動きに関しては非常に関心が高いので、今回の実証の中では、そこもしっかりと把握しようと思います。
洋上データセンターは、沖合に設置するイメージでしょうか?
児玉氏:いろいろな可能性の中で沿岸部に設置する考え方と、外洋に出ていく考え方の両方を検討しています。
一方でデータセンターの需要地の観点もありますので、その辺も含めて立地選定をやっていかないといけないと思います。沖合の場合は洋上風力発電とセットで実現することを想定しています。洋上風力発電もメンテナンスが必要であり、そのための人員アクセス拠点として併用する等、新たな可能性も広がってくると思っています。
実証実験では、コンテナデータセンターを利用していますが、実用化された場合もコンテナデータセンターを使うイメージですか?
児玉氏:そこも両方あると思っています。コンテナの場合もあるでしょうし、そうではないこともあると思っています。決め打ちしているわけではありません。
実用化は2027~2028年、洋上データセンターの次のステップ
洋上データセンターは、マーケットの10%から20%くらい利用を想定しているということですが、具体的な用途はどういったものを考えていますか?
児玉氏:洋上データセンターは早期に低コストで都心部に欲しいといったニーズにも対応できます。また、海水利用冷却は昨今の高発熱ラックに用いられる液冷方式とも相性が良く、AIや研究用途もターゲットとなり得ます。
現在もワットビット連携など、発電施設に需要施設を近づけていく電力地産地消と産業の発展の両立が推し進められていますが、洋上データセンターはまさにその一つの実現の形であり、通常の陸のデータセンターが全て置き換わるとは考えていませんが、ニーズによる棲み分けはあり得ると思っています。
洋上データセンターにすると、コストが抑えられるといった見通しを持っていますか?
児玉氏:早く提供できるだけでも大きな価値ですが、コストも重要な要素であり、われわれの試算では、非常に大きなコスト低減が可能であると見込んでいます。
洋上データセンターの実現性は、どの程度あると思っていますか?
橋本氏:見通しとして、実現できると考えています。技術的な課題は、さきほどの2つ(揺れと塩害)になってきますが、これを確認して、対策を確立できれば実現可能という話はしています。
海外展開も考えていますか?
児玉氏:あり得ると思っています。シンガポールや北米でも類似する事例もあります。陸上のデータセンターにおける課題は世界的にも共通しており、洋上データセンターはその課題解決に繋がります。海がつながっていれば、どの国でも可能性はあるので、日本からの技術発信によるグローバル展開も視野に入れています。
実証実験は来年3月までですが、結果が良好であれば、すぐに実用に移っていきますか?
橋本氏:いきなりイメージ図のように外洋に行くということではなく、いくつかのステップを踏んでいくと想定しています。
児玉氏:これまでの検討で技術的には概ね問題ないと想定しており、商用化を見据えた検討は実証実験と並行して進めています。設置に関心を持たれた企業や自治体の方々にも実際に実証実験を見てもらいながら、海の上でデータセンターができるということを実感していただき、2027年あるいは2028年頃には次のステップに進めるよう検討しています。
実用化していく際には、他のNTTグループと一緒にやっていくことも考えていますか?
橋本氏:建物やデータセンターファシリティの分野については、NTTグループの中で弊社が担っているので弊社が実施していきますが、そのほかの通信などでは連携も考えられると思っています。



