電通グループは5月25日、メディア向け説明会を開催し、AI戦略「AI For Growth 3.0」を発表した。
専門AI群を活用したマーケティング支援基盤「AI For Growth Suite」の提供を開始し、これまで構想段階として掲げてきた“マーケティングのAIネイティブ化"を、実装フェーズへ進める。
説明会では、新たなマーケティングフレームワーク「PSDCA」に加え、それを支える「People Model」「クリエイティブシンキングモデル」という2つのエンジンが紹介された。
「AI For Growth 3.0」で“構想"から“実装"へ
冒頭に電通グループ 代表執行役社長 Global CEO dentsu Japan CEOの佐野傑氏が登壇し、「AI For Growth 3.0」の概要について説明した。
佐野氏はクライアント企業のニーズについて、「高度なAIそのものではなく、あくまで自社の事業成長や企業価値向上を求めている」と説明。その上で、「広告やマーケティングの枠を超え、AI、データ、クリエイティブ、メディアを統合し、事業成長を実現する真のパートナーが求められている」と語った。
こうした背景のもと、電通グループでは2024年に「AI For Growth」、2025年に「AI For Growth 2.0」を発表し、「マーケティングのAIネイティブ化」を掲げてきた。今回発表した「AI For Growth 3.0」では、その構想を実装・運用フェーズへ進める。
電通社内では4500以上のAIエージェントと1300以上のAIアプリが稼働しており、2026年度には年間20万時間規模の業務創出を見込む。また、クライアント向けのAI変革支援も200件以上に達しているという。
PDCAを進化させた「PSDCA」とは
続いて、電通 執行役員 マーケティング担当の貝塚康仁氏が、「AI For Growth 3.0」を支える新たなマーケティングフレームワーク「PSDCA」について説明した。
PSDCAは、従来のPDCAサイクルに「Simulation(シミュレーション)」を加えたものだ。従来は施策実施後に行っていた仮説検証や学習を、実施前の段階へ移すことで、施策の成功確率向上を目指す。
同社では、このPSDCAを支える仕組みとして、「People Model」と「クリエイティブシンキングモデル」という2つのエンジンを用意している。
AIマーケットツインで市場反応を事前予測
「People Model」は、生活者データや行動・価値観を学習したAIモデルだ。また、このモデルを活用したシミュレーション環境が「AIマーケットツイン」である。
AIマーケットツインは、生活者や市場の反応を仮想空間上で再現するシミュレーション環境だ。製造業で利用されるデジタルツインの考え方をマーケティング領域へ応用し、新商品や広告施策を市場投入する前に、生活者の反応を予測できるという。
貝塚氏は、「これまでのマーケティングでは、新商品やキャンペーンが成功するかどうかは、実際に市場へ投入してみないと確かめにくかった」と説明。AIマーケットツインによって、施策実施前の仮説検証が可能になると語った。
10種類の専門AIエージェントがチームメイトに
一方で貝塚氏は、「AIマーケットツインだけでは、AIによる思考の収束化、つまり同質化する壁を越えることはできない」と指摘。その解決策として、「クリエイティブシンキングモデル」を紹介した。
クリエイティブシンキングモデルは、電通グループが培ってきたクリエイティブ思考や発想プロセスを体系化した独自AIモデルだ。同社はこれを発展させ、専門AIエージェント群「AI For Growth Marketing Agents」を提供する。
「10種類の専門AIエージェントがチームメイトに」をコンセプトに、AI戦略プランナー、AI商品プランナー、AIコピーライターなど、dentsu Japanの専門知見を学習したAIエージェントを提供。SaaS型での提供に加え、各種IT環境やクラウドサービスへの組み込みにも対応する。
AIエージェント群を統合した「AI For Growth Suite」
続いて、dentsu Japanチーフ・AI・オフィサーの並河進氏が登壇。専門AI群を統合した「AI For Growth Suite」について説明した。
AI For Growth Suiteは、電通グループのマーケティング実務知見を組み込んだ独自の統合AIプロダクトシリーズ。商品企画、アイデアブレスト、仮想定量調査、戦略立案、メディアプランニングなど、マーケティング業務全体を、それぞれのAIプロダクトで横断的に支援する。
以下、AI For Growth Suiteのプロダクトシリーズの一部を紹介する。
仮想定量調査AI「People Research」
全国約15万人のdentsu Japan独自大規模調査データを学習したAIが、高解像度な生活者ペルソナを仮想再現。最大1億人規模の調査が可能で、商品コンセプトに対する生活者反応を仮想的に調査できる。AIエージェントプラットフォーム「Canvas」
戦略立案や商品企画、アイデアブレストなど、業務ニーズに応じた、独自のAIエージェントを構築できる。アイデアブレストAI「Flash」
dentsu Japanのクリエイターの発想メソッドを活用し、複数のアイデアを瞬時に生成。事業・商品・イベントなど、さまざまなテーマでのアイデア創出を支援する。デプスインタビューAI「Talk」
AIペルソナとの対話を通じて、商品やアイデアへの反応分析や、顧客インサイトの深掘りを支援する。
このほかにも広告クリエイティブの生成や、テレビCM・デジタル広告・SNSなどのメディアプランニング、広告効果の予測・分析などもAIが支援。一連のマーケティング業務を横断的に支援できる点を特徴としている。
これらのプロダクトの多くは、すでにSaaS型での提供を行っており、企業への導入も進んでいるという。
実際に利用している企業からは、「単なるツール提供ではなく、現場に入り込んだ伴走支援という印象です」「AIは単なる効率化のツールではなく、思考を拡張するパートナーとして活用できるようになったと感じています」といった声が上がっている。
AI活用から業務変革まで支援サービスを展開
また電通グループでは、「AI For Growth Services」として、企業のAI活用や業務変革を支援するサービスも展開する。
サービスは、「AI For Growth マーケティング変革支援サービス」「AI For Growth Creative Lines」「AI For Growth 顧客体験変革支援サービス」「AI For Growth トランスフォーメーション支援サービス」の4領域で構成される。
「AI For Growth マーケティング変革支援サービス」では、AIツールの導入だけではなく、戦略策定や業務変革、データ基盤整備、人材育成までを一貫して支援するという。
例えば、生成AIを活用してIMC(統合型マーケティングコミュニケーション)プランを高速設計する「People IMC Prototyping」を展開。企業ごとの業務に合わせたAIエージェント開発・導入支援なども行う。
「AI For Growth Creative Lines」では、AI時代に対応した新たなクリエイティブ供給体制を提供。ブランド動画制作などを行う「Branded」、広告成果を最大化する「Performance」、制作プロセスをAI主体で再設計する変革を行う「Process Transformation」の3ラインで展開する。
「AI For Growth 顧客体験変革支援サービス」では、対話型AIに自社ブランドや商品を自然に推奨・言及してもらうための「GEOコンサルティングサービス」のほか、自社AIエージェント企画開発支援などを行う。
「AI For Growth トランスフォーメーション支援サービス」では、マーケティング領域以外でのトランスフォーメーション支援として、体験型ワークショップにて現場ベースの課題の可視化からAIの組織定着・継続利用へとつなげる支援プログラムや、経営思考を拡張する未来共創AIサービス「未来望遠鏡」などを展開する。
「AI For Growth 3.0」を支える体制と今後の展望
これらのAIプロダクトやサービスを支える体制として、電通グループでは、2025年7月に約1000人規模の新組織「電通ジャパンAIセンター」を発足。
AIネイティブ人材の育成も進めており、JDLAのG検定(AI・ディープラーニングの活用リテラシーを測る資格試験)合格者は1619人に達しているという。
また、東京大学 AIセンター・未来ビジョン研究センターとの共同研究や、世界的AIプロバイダー各社とのパートナーシップも推進。加えて、AIガバナンス体制の整備として、ガイドラインの策定などを進めながら、安心・安全なAI活用を推進していく考えだ。
電通グループでは、「AI For Growth Suite」について、2025年内に100社規模での導入が見えていると説明。2026年以降は200~300社規模への拡大を視野に入れており、AIを活用したマーケティングツール領域でトップシェアを目指す考えを示した。





