今回は、ロッキード・マーティンとレイセオン・テクノロジーズ(傘下の、レイセオン・ミサイルズ & ディフェンス)が手掛けている艦載多機能フェーズド・アレイ・レーダーの話を。過去に取り上げた話と重複する部分もあるが、新たに仕入れた話もあるので、改めて取り上げてみることにした。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

多機能レーダーのスケーラビリティ

今回のDSEI Japanでは、ロッキード・マーティンがSPY-7レーダー、レイセオン・テクノロジーズがSPY-6レーダーをフィーチャーしていた。どちらも、使用する送受信モジュールの数を変えることで、コンパクトなレーダーでも大規模なレーダーでも生み出すことができ、モジュールの数が変わっても制御用のソフトウェアは共通で使える。

こうしたスケーラビリティを実現できるのは、個々の送受信モジュールが単独で完結している、アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーならでは。一つの送信管から枝分かれさせて個別の移相器とつなぐパッシブ・フェーズド・アレイ・レーダーでは、こうはいかない。

第334回第383回でも取り上げたように、その送受信モジュールをどのような形態にするかで、SPY-7とSPY-6には考え方の違いがある。

別にどちらが正しいとか間違っているとかいうつもりはなくて、メーカーによって考え方が違うのが興味深い。

写真で理解するSPY-7

SPY-7はサブアレイ・スイートと呼ばれるモジュールが1つの単位で、これは前面にアンテナ群(模型を見ると16個あると分かる)、その後方上部に送受信用の機器を収めたユニット、後方下部に電源ユニットを組み込んだ形。これを専用のフレーム(ストラクチャーと呼ぶ)に複数取りつけるとアンテナ・アレイが出来上がる。

  • サブアレイ・スイートと、それを組み込むストラクチャーの模型。サブアレイ・スイートの模型は実物大 撮影:井上孝司

そして、スペイン向けやカナダ向けの艦載用では、サブアレイ・スイートの数が10×10、あるいは8×8といったバリエーションになる。例えば10×10なら、送受信モジュールの総数は16×10×10=1,600個となる。

  • 加海軍の新型水上戦闘艦・CSC。ベースは英海軍の26型だが、SPY-7レーダーを筆頭に、搭載する装備は大きく異なる 撮影:井上孝司

  • こちら、西海軍のボニファス級ことF-110型。CSCもそうだが、最近は艦隊防空艦でなくても多機能フェーズド・アレイ・レーダーを持つ事例が増えている 撮影:井上孝司

日本向けはアンテナ・アレイがずっと大きいから、それに合わせて数も増えるはずだ(正確な数は明らかにされていない)。陸上に固定設置して弾道弾の監視を行うLRDR(Long Range Discrimination Radar)なら、その数は桁違いに増える。

二段構えになっているSPY-6

一方、SPY-6は二段構えになっている。最小単位はTRIMM(Transmit/Receive Integrated Multichannel Module)と呼ばれており、所要の電子部品を取り付けた回路基板に6個の送受信モジュールを組み合わせた構成。

これを24個、RMA(Radar Modular Assembly)と呼ばれるモジュールに組み込む。だからひとつのRMAで144個の送受信モジュールを持つことになる。という話は以前にも書いた。

RMAのサイズは、縦・横・高さがそれぞれ2フィート(約610mm)。増減させる単位はTRIMMではなくRMAの方で、現時点では9個、24個、37個と3種類のバリエーションがある。だから送受信モジュールの総数も24の倍数になる。

  • こちらはSPY-6。ストラクチャーに送受信モジュールを組み込むところは同じだが、複数のTRIMMを組み合わせてRMAを構成するところが異なる 引用:Raytheon

以下の動画は、AN/SPY-6(V)1レーダー搭載の一番手、駆逐艦「ジャック・ルーカス」が進水する模様を撮影したもの。進水の時点でレーダーは設置済みだが、上から保護カバーをかぶせていたとのこと。

Launch of Jack H. Lucas (DDG 125) | Ingalls Shipbuilding

同じ送受信モジュールを使って、規模が異なるさまざまなレーダーを生み出すことができれば、補用部品の種類を削減できるから、調達や維持管理の合理化につながる。メーカーにしてみれば、少ない手間でさまざまな規模の派生モデルを生み出せるから、低コスト・低リスクで製品ラインナップを拡大できる。

アンテナ・アレイの冷却と新型化

このように、「小さな構成要素を用意して組み合わせを変えることでスケーラビリティを持たせる」という考え方が同じでも、メーカーによって実現の手法が違うのが面白い。ところが、メーカーが違っても同じようなことをやっている部分もある。

真空管よりはマシだろうが、半導体素子でも通電すれば発熱する。それはアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーの送受信モジュールでも変わらないし、なにしろ数が多いから発熱は無視できない。

そこでSPY-7では、サブアレイ・スイートを取りつけるストラクチャーの内部に冷却水の流路を組み込んである。サブアレイ・スイートが発する熱は筐体に伝えられて、そこで冷却水によって冷やされる。その辺の考え方はSPY-6も同じで、RMAに水冷機構を組み込んである。

つまり、サブアレイ・スイートやTRIMMが発する熱は、まず筐体に伝わり、そこに組み込まれた流路を流れる冷却水によって冷やされる。サブアレイ・スイートやTRIMM自体に冷却機構を組み込むわけではないので、構造がシンプルになるし、脱着に伴う冷却水の漏れを心配する必要もない。だから交換が必要になっても迅速に行える。

将来的に技術が進歩すれば、新しいサブアレイ・スイートやTRIMMが出てくるかも知れない。そうなったら、ストラクチャーやRMAはそのまま使い、その中に収めるサブアレイ・スイートやTRIMMだけ、新形に取り替えれば済む。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。