最近、自動車業界では(よせばいいのに)やたらと計器盤の操作系をタッチスクリーンにする事例が増えている。もともと「凝視するのはダメ」とされているカーナビや、切羽詰まって操作する必然性が比較的薄いオーディオならともかく、空調関連の操作系をタッチパネル化するのはいかがなものか、と思わざるを得ない。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

艦載コンピュータもタッチスクリーンが普及

戦闘機や戦車で、コンピュータはどちらかというと「黒子」に徹していて、乗員が接するのは、状況表示、あるいは射撃指揮といった個別の機能を扱うための画面になる。それと比べると、艦載コンピュータの分野は、より「コンピュータを扱っている感」が強いように思える(あくまで個人の感想)。

それはとりもなおさず、乗員が扱うコンソールのユーザー・インタフェースが重要になる、という話につながる。どんなに機能・性能が優れた艦載戦闘システムでも、その中核となるコンソールの操作性が良くないのでは、能力をフルに発揮するのが難しくなる。あるいは、能力をフルに発揮させるための学習に時間がかかり、有形無形の学習コストを押し上げる。

その艦載戦闘システムで使用するコンソールでは、ポインティングデバイスとしてマウスよりもトラックボールを使用するケースが目立つ。揺れたり傾いたりする艦内では、マウスだとズレたり落ちたりする危険性が大きいからだろうか。また、入力デバイスとしてパソコンと同じようにキーボードを備えるコンソールが多い。

  • AN/UYQ-70のコンソール。キーボードはカバーが掛かっているが、一般公開のときだから仕方ないだろう 撮影:井上孝司

筆者が現物を見たことがあるところだと、以前に取り上げた米海軍のCDS(Common Display System)、あるいはサーブの9LVで使用しているコンソールが、キーボードとトラックボールの組み合わせだった。その9LVもそうだが、タッチスクリーンを多用するのは近年のトレンドといえる。9LVのコンソールでは、中央、キーボードの上に15インチのタッチスクリーン式ディスプレイを配している。

タッチスクリーンなら、表示と入力を同じデバイスで兼ねられるから、場所をとらない利点がある。また、表示内容や操作体系をソフトウェア次第で自由にコントロールできるから、改良や機能強化に対応しやすい。

タッチスクリーンの画面デザイン

ただ、部外者が艦艇の戦闘情報センター(CIC : Combat Information Center)に立ち入れるだけでもレアな話であり、しかもそのときには保全上の理由から、画面はたいてい消されている。

もっとも、この「画面を消せば肝心な情報は見えなくなる」も、タッチスクリーンの利点ではある。物理スイッチが並んでいたのでは、そうもいかない。

それはそれとして。前述のように、タッチスクリーンでは「状況表示」と「ユーザーの操作」を同じデバイスで兼用できる。すると、画面上に戦術状況を表示している場面であれば、画面に現れた彼我のユニット(航空機や艦艇、飛来するミサイルなどの脅威)を選択して、何かの操作を行う際の操作はどうなるだろうか。

例えば、以下のような按配か?

  1. 操作対象となるユニットをタップあるいは長押しする
  2. その対象に対して行える操作を、メニュー一覧みたいな形で展開させる
  3. 展開したメニューから、行う操作をタップして選択する
  • タレスのコンソールにおける画面例。両端に、半円形のメニューが展開している様子が分かる 撮影:井上孝司

  • そこで特定の探知目標を選択して、メニューを展開させた様子 撮影:井上孝司

また、画面の拡大・縮小であれば、スマートフォンと同じにすると馴染みやすそうではある。もっとも、何でもかんでも手当たり次第に「スマホ風」にすれば良いというものでもないが。

画面の縮尺にもよるが、場合によっては複数のユニットが近接して表示されることはおおいにあり得る。敵機からミサイルが発射されれば、1つのユニットしかなかったものが複数のユニットに変化する。そういう場面で、狙った対象をパッと選択できるものかどうか。

戦場には戦場に向いたインタフェースがあるはず

スマートフォンで「Flightradar24」を使った経験がある方ならお分かりいただけると思うが。近接して飛んでいる2機のアイコンが画面上に表示されていたとき、そのうち片方を選択しようとしてタップしたら隣の機体が選択されてしまい、イラついた経験がないだろうか。”指先で情報” をというが、その指先の操作に対して反応する対象範囲は、案外と広いのだ。

もちろん、画面を拡大すれば間違いは起こりにくくなるが、戦闘の最中に画面を拡大して対象を選択し直して……なんてやっていたら対応が遅れてしまう。成り行きによっては、そのちょっとした選択ミスが、国の存立に影響する事態につながるかも知れない。戦の道具では、そういうことが起こりうる。

つまり、一発で確実に操作できて、かつ間違いが起こりにくいユーザー・インタフェースを実現することの重要性は、コンシューマー製品と比べて桁違いに高いということだ。現場の声を真摯に聞き入れて、より優れたユーザー・インタフェースを実現していかなければならない。間違いが起こらず、かつ習熟しやすい形で。

幸い、タッチスクリーンならハードウェアを変えなくても、画面の表示内容や操作系を容易に変えられるから、改善はしやすい。物理的なスイッチが付いていたら、ハードウェアから作り直しになってしまい、時間もコストもかかってしまう。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載が『F-35とステルス技術』として書籍化された。