米国航空宇宙局(NASA)などは2022年7月12日、最新鋭の宇宙望遠鏡「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」が初めて撮影した画像を公開した。

その初画像はどんなものだったのか、なにが写っているのか、そしてそこからなにがわかるのか。世界中の天文学者が恋焦がれ、ついに目にすることができた画像を詳しく見ていきたい。

最後に取り上げるのは、これまでのような一目で美しいと思えるような画像ではない。しかし、もしかしたら「地球のような惑星はほかにもあるのか」という、究極の問いに答えを出すことになるかもしれない、そんな可能性を予感させる成果である。

  • ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた、系外惑星「WASP-96 b」の透過スペクトル

    ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた、系外惑星「WASP-96 b」の透過スペクトル。これまでの観測では存在しないと考えられていた水や霞、雲などの痕跡を捉えることに成功した(背景の恒星と惑星は想像図) (C) NASA, ESA, CSA, STScI, and the Webb ERO Production Team

系外惑星「WASP-96 b」の観測

かつて、地球や木星のような惑星は太陽系にしかないと考えられていた。しかし、観測技術の進歩によって、これまでに5000個を超える太陽系外惑星(系外惑星)が見つかっており、いまなお望遠鏡によって探索と発見が続いている。

そんな中、いまなお残る大きな謎、そして私たちにとって究極の問いとなるのが、「この宇宙に地球のような惑星はほかにもあるのか?」ということである。宇宙の広さ、恒星やそこを回る惑星の数の多さを考えれば、ないと考えるほうが難しい。しかし、その明確な証拠はまだ見つかっていない。

これまで、ハッブル宇宙望遠鏡による過去20年間の観測で、数多くの系外惑星の大気を分析し、2013年には初めて水を検出している。水は生命が生きるうえで重要な要素のひとつであり、その有無は第二の地球を探す第一歩にもなる。そしてJWSTは、ハッブル宇宙望遠鏡よりも迅速かつ詳細に観測できることから、地球外の生命居住可能な惑星を探る上で、大きな前進が期待されている。

今回のJWSTの初観測の中では、「WASP-96 b」という系外惑星がそのターゲットのひとつとなった。WASP-96 bは2013年に発見された系外惑星で、南天の「ほうおう座」の方角、地球から約1150光年離れたところにある。

この惑星は、質量は木星の約半分、直径は1.2倍程度のガス惑星で、主星から約678万km、太陽と水星のわずか9分の1というきわめて近い距離を公転しており、地球時間で3日半で1周、つまり1年が過ぎ去るという、太陽系にはないタイプの惑星である。

直径が比較的大きいこと、公転周期が短く、また主星に近いため大気が膨らんでおり、そして近くの他の天体からの光による妨害がないことから、大気観測にとって理想的として、JWSTの最初の観測のターゲットとなった。

JWSTは2022年6月21日、近赤外線撮像分光器「NIRISS」を使い、WASP-96 bが恒星を横切るときの光を6.4時間にわたって観測した。恒星からの光は、惑星の大気を通過することで明るさと透過スペクトルが変化する。透過スペクトルというのは、ある波長の光が惑星によって遮られたり、惑星の大気によって吸収されたりする量のことで、その吸収パターンから、惑星大気に含まれる主要なガスの存在比を検出・測定することができる。

そして観測の結果、惑星の通過によって暗くなる様子を示す光度曲線は、WASP-96 bがたしかに存在することを示しており、そしてその大きさや軌道などは、これまでの他の観測で見積もられていた性質を裏付けるものだった。

一方、スペクトルの完全な解析にはさらに時間がかかるとしているが、現時点の予備的な解析結果からも、たとえば水蒸気が存在することが示されているほか、水蒸気を示すスペクトルのピークの高さは、これまでの観測で予想されていたよりも低く、これは雲が存在する証拠になるという。また、スペクトルの左側(短波長側)が徐々に下降しているのは、霞がある可能性を示している。くわえて、ピークの高さとスペクトルの他の特徴から、大気温度は約725℃と見積もることができるという。

水や霞、雲などは、これまでの観測では存在しないと考えられており、そこからもJWSTの画期的な性能の一端が垣間見える。

  • JWSTが捉えた、系外惑星「WASP-96 b」が恒星の前を通過したことによる光度曲線

    JWSTが捉えた、系外惑星「WASP-96 b」が恒星の前を通過したことによる光度曲線。光の明るさの経時変化を示しており、惑星の存在をはじめ、その大きさや質量などを知ることができる (C) NASA, ESA, CSA, STScI, and the Webb ERO Production Team

何百光年も離れた惑星の大気を精密に分析、第二の地球発見に期待

NIRISSが捉えたWASP-96 bのスペクトルは、これまで観測された系外惑星の大気の近赤外線透過スペクトルの中で最も詳細であるだけでなく、赤の可視光や、これまで他の望遠鏡で見ることができなかった1.6μm以上の長い波長帯を含む、きわめて広い波長帯をカバーしている。

また、このスペクトルは水だけでなく、酸素やメタン、二酸化炭素などの分子にとくに感度が高い、つまり捉えやすいという特徴をもつ。WASP-96 bでは、水以外についてはすぐにわかるほどのデータは出ていないが、今後JWSTで観測予定の他の系外惑星では、即座に検出できるかもしれない。

このスペクトルを分析することで、大気中の水蒸気の量を測定したり、炭素や酸素などさまざまな元素の存在量を特定したり、高度ごとの大気の温度を推定したりすることができる。そして、その情報をもとに、惑星全体がどのような物質で構成されているのか、惑星がいつ、どのように、どこで形成されたかについて推測することもできる。

こうした観測が実現した背景には、JWSTの先進的な設計がある。まず口径6.5mの巨大な反射鏡には金めっきが施されており、赤外線を効率よく集めることができる。さらに、搭載されている分光器は光を何千色もの虹のように赤外線を広げ、そして高感度な赤外線検出器によって、そのそれぞれのほんのわずかな色や明るさの違いを精密に測定できる。

さらに、JWSTは太陽・地球系のラグランジュ2(L2)で運用されるため、姿勢が非常に安定しており、また地球から約150万km離れていることから地球の大気による影響も受けない。このため、視界が遮られることなく、きれいなデータを集めることができる。

WASP-96 bの観測により、JWSTは何百光年も離れた惑星の大気圏を分析できることを、それも生命が居住可能な惑星の大気があるかどうかも含め、きわめて詳細に分析できる能力をもっていることを実証した。今後1年間で、JWSTと研究チームは、小さな岩石質の惑星から、ガスや氷に富んだ巨大惑星まで、数十個の太陽系外惑星の表面や大気を分析することを計画している。JWSTの第1次観測サイクルの観測時間のほぼ4分の1は、系外惑星とそれを形成する物質の研究に割り当てられている。

もしかしたら、JWSTの観測によって、そう遠くない将来にもうひとつの地球が見つかるかもしれない。

  • JWSTの想像図

    JWSTの想像図 (C) NASA GSFC/CIL/Adriana Manrique Gutierrez

いよいよ本格的な科学観測が始まったJWST。今回公開された大きく5枚の初画像からも、そのすさまじい性能をうかがい知ることができた。その性能と、天文学者の叡智により、これから何十年にもわたって、宇宙の謎が次々と解き明かされ、さらにいくつもの新たな謎が生まれるような、期待に胸が膨らみ続ける――まるで膨張し続ける宇宙のような――時代が続くことだろう。

参考文献

NASA’s Webb Reveals Steamy Atmosphere of Distant Planet in Detail | NASA
Exoplanet WASP-96 b (NIRISS Transmission Spectrum) | ESA/Webb
Exoplanet-catalog - Exoplanet Exploration: Planets Beyond our Solar System WASP-96 b