この半導体ニュースのまとめ
・産総研が曲面ミラーの絶対形状を非接触で2nm精度に測定できる装置を開発
・自己校正型ロータリーエンコーダー「SelfA」を導入し、広範囲かつ高精度な局所角度測定を実現
・EUV露光装置や放射光施設などで用いられる超高精度光学素子の製造・評価への応用を見込む
曲面ミラーの絶対形状を2nm精度で非接触測定
産業技術総合研究所(産総研)は7月6日、EUV露光装置や放射光施設、天体望遠鏡、重力波検出装置などで用いられる曲面光学素子の絶対形状を、非接触かつ高精度に測定できる新たな形状測定装置を開発したことを発表した。
開発は、工学計測標準研究部門 長さ標準研究グループの増田秀征 研究員、近藤余範 主任研究員、堀泰明 研究グループ長、平井亜紀子 研究グループ付、ならびに工学計測標準研究部門 尾藤 洋一 副研究部門長らによるもの。詳細は、2026年7月6日付で学術誌「Precision Engineering」に掲載された。
EUV露光装置や放射光施設では、EUVやX線といった短波長の光が使われる。これらの光は透過しにくいため、集光や波面制御にはレンズではなく、曲面を持つ大型ミラーが用いられる。ミラー形状のわずかな誤差は、微細加工精度や観察精度に直接影響するため、光学素子の製造工程では、加工後の形状が設計形状からどの程度ずれているかを高精度に把握し、その結果を形状修正へ反映することが重要となる。
特にEUV露光装置向けなどの超高精度光学素子では、表面の平滑性に加えて、曲率半径など面全体の情報を含む「絶対形状」を正確に測定する必要がある。しかし、曲面ミラーの表面に傷をつけず、数nmレベルで測定することは難しかったという。
局所角度分布から絶対形状を算出
今回、産総研が開発した装置は、曲面上の各位置における表面の傾き、すなわち局所角度を測定し、その分布を積分することで絶対形状を求める方式を採用したものとなる。
産総研はこれまで、平面形状測定向けに、参照面を必要としない角度測定式の形状測定装置「走査型角度測定式形状測定装置(SDP)」を開発してきた。従来のSDPでは、光を測定対象面に当て、反射光の向きから各測定位置の局所角度を測定し、その角度分布を数値積分することで表面形状を求めていたという。
しかし、従来型のSDPでは、オートコリメーターと呼ばれる微小角度測定装置を用いて反射光角度を直接測定していたため、測定可能な角度範囲に制約があった。曲面では測定位置によって表面角度が大きく変化するため、反射光角度の変化も大きくなり、オートコリメーターの測定範囲を超えてしまうため、従来型SDPを曲面へ適用することは困難だったという。
SelfAで広範囲・高精度の角度測定を実現
そこで、今回の研究では、反射光の大きな角度変化を直接測るのではなく、反射光が常に入射光と平行に戻るように測定対象を回転させ、その回転角度を測定する方式を採用したとする。
装置は、反射光と入射光の角度ずれを検出する光角度検出ユニット、光を測定対象上で走査するペンタミラーと直動ステージ、測定対象を回転させる回転ステージで構成。回転ステージには、自己校正型ロータリーエンコーダー「SelfA」を導入した。
SelfAは、装置自身で角度目盛りの誤差を補正できる高精度な角度測定装置であり、角度標準器としても用いられる。測定では、ペンタミラーと直動ステージで光の照射位置を走査し、各位置で反射光が入射光と平行になるまで測定対象を回転させる。このときSelfAが示す回転角が、その位置の表面局所角度に対応する。
さらに、レーザー干渉計でペンタミラーの変位を高精度に測定し、得られた局所角度分布を積分することで、曲面ミラーの絶対形状を算出する。反射光が入射光とほぼ同じ光路を戻るため、光学素子の収差による影響も抑えられるという。
曲率半径5mの円筒面で2.0nmの不確かさを確認
開発した装置の性能確認として、曲率半径5mの円筒面を持つ光学素子の測定を実施。測定長さは90mmで、測定範囲内における表面角度の変化は約1°に達する。これは従来型SDPでは対応できない角度範囲である。
測定の結果、10回の繰り返し測定による形状のばらつきは標準偏差で0.46nmとなり、1nm未満で安定した測定が可能であることが確認されたほか、繰り返し測定のばらつきに加え、角度測定、変位測定、測定対象の位置決めなどの要因見積もりの結果、Peak-to-Valley値で見た絶対形状測定の不確かさは2.0nmとなったという。
産総研では、この結果を踏まえ、曲面光学素子の絶対形状を世界最高クラスの精度で測定できることを実現したとしている。
EUV露光装置や放射光施設向け光学素子の高度化へ
今回開発された曲面用SDPは、EUV露光装置や放射光施設などで使われる高精度ミラーの製造、開発、評価を支える基盤技術としての活用が期待される。
EUV露光装置では、光学系の精度が半導体微細加工の限界に直結し、露光波面のわずかな乱れがパターン形成精度に影響を及ぼすこととなるため、ミラーを含む光学素子の形状を高精度に把握し、設計形状へ近づける加工・評価技術が重要となる。
また、放射光施設やX線光学系、天体望遠鏡、重力波検出装置などでも、高精度な曲面ミラーは性能を左右する中核部品となる。今回の技術は、こうした大型・高精度光学素子の絶対形状を非接触で評価できるため、先端光学系の高度化に寄与する可能性がある。
測定サービスや共同研究を通じて社会実装へ
産総研では今後、今回開発した曲面用SDPを用いて、曲面ミラーの絶対形状測定技術のさらなる高度化を進める予定とするほか、曲面ミラーの絶対形状測定サービスの提供や共同研究を通じて、社会実装を進めるとしている。

