NASAおよびESAは、この2021年12月22日に、「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」を打ち上げると発表しました。
直径6.5m相当の巨大な鏡で、天体からのかすかな赤外線光をとらえ、宇宙の誕生のころに生まれたはずのファースト・スターや太陽系外のほかの恒星系の惑星の生命活動を発見してやろうというしろものです。今回は、まもなく打ち上げられる、このスーパー宇宙望遠鏡を理解するため、宇宙望遠鏡の世界を知ったかぶりをしちゃいます。
宇宙望遠鏡といえばハッブル宇宙望遠鏡(HST:Hubble Space Telescope)
宇宙望遠鏡というと、そんなに天文宇宙に詳しくないと「え? 望遠鏡って宇宙みるんでしょ? 天体望遠鏡と何が違うの? かっこつけなの?」と思ってしまいがちー でございます。これは言語のSpace Telescope、宇宙空間においた望遠鏡を縮めたのでそんなことになっているだけです。
宇宙望遠鏡は、地球の大気圏の外(宇宙空間)で、地球の大気や重力、震動の影響を排除して観測できる望遠鏡なんでございますな。
ちなみに大気の影響というのは、
- 大気によって天体からの光が吸収されて暗くなる。紫外線はオゾン層で、赤外線の一部は水蒸気カットされちゃって観測できなーい。
- 大気によって空気がゆらゆら揺れて光が散らされちゃう。星が瞬くのはきれいだけど、観測データが安定しない。ぼやけて暗くなっちゃう。細かいところがぼやけて見えなーい。
- そもそも天気が悪いとアウト。大気がなければ雲ないのに。
といったことでございます。
まあ、せめて空気が薄ければということで、天文台は高い山の上にあったりしますな。日本のすばる望遠鏡があるハワイのマウナケア山は4000m、世界最大の電波望遠鏡ALMAなどがあるアンデスのアタカマ砂漠は5000m、欧州の大望遠鏡が集まるカナリア諸島のラ・パルマは2400mでございます。ただ、これはもう高山病と闘いながらの観測になります。最近は大分自動観測やリモート観測になっておりますが、それでも精密大型機械を完全無人で運用するのは難しいのでございますな。
それから重力、振動の影響で、むっちゃ大きな望遠鏡だと支えるの無理ー、それを動かして天体に向け続けるの無理ーー、無理だからーーー。ということでございます。
ということで「じゃー、大気と地面がない宇宙空間に望遠鏡をおいたらいいじゃない」というのが、大気圏外望遠鏡、宇宙望遠鏡の発想なんですな。その代表選手が1990年に打ち上げられ、なんと21世紀の今も(2021年)も活躍中の30年選手。ハッブル宇宙望遠鏡なのでございます。
ハッブル宇宙望遠鏡は大気と重力と振動がないのを武器に、とてつもなく鮮明な映像を届け続けています。こちらでごらんください。
ほとんどパブリックドメインで自由に使ってよいこともあり、そこらじゅうでその画像を見かけますな。あ、私、直接宇宙望遠鏡研究所で聞いてきたので間違いないです。研究者でもないのに、わざわざボルチモアの研究所に行ったことがあるのが「まさかのあんな研究者と知り合い」だからです。
この望遠鏡の名前の元になった(エドウィン・)ハッブルは20世紀初頭のアメリカの天文学者で「アンドロメダ銀河は銀河系の外の天体」「天体がすべて遠ざかっている(宇宙が膨張している)」といった天文学上の大発見を連発したスーパー天文学者です。日本では平安時代の天文学者の安倍晴明から名前をとった、せいめい望遠鏡がございますが、まあ人の名前をつけるってのは欧米っぽいですな。軍艦の名前は大統領の名前にしちゃったりしますからね。
ということで、宇宙望遠鏡といえば、ハッブル宇宙望遠鏡なのですが、実は反対もありました。まずは馬鹿高い。3000億円です。同じ価格で、性能的にはハッブル宇宙望遠鏡なみの地上の天文台(空気、重力、振動の影響はありますが)が10や20は作れます。望遠鏡が一度に観測できるのは1コマですから、まあ反対もありますわな。
だいたい、宇宙空間にあげてしまうと、修理もメチャクチャ費用がかかります。ちょっとした故障をスパナ握って直すとかできません。実際、打ち上げた時点で不良箇所が見つかり、まともに性能を発揮したのは3年後の修理後でございました。スペースシャトルで近くに行って、11日間の有人修理。これは人類史上最も困難な宇宙修理だったそうです。
また、当然ながら「調子悪くなったセンサー換えるわ」とか「いい加減コンピュータ古いから更新するわ」とか簡単にはできないわけです。でも実際は2009年まで4回修理と更新を行っております。2009年の時は「もうやんない」「ハッブル宇宙望遠鏡はもう止める」と最初は発表していて、アメリカ国民やらが「えーーーーっっ!!!!」となったため「やっぱやるわ」というミッションでございました。
ハッブル宇宙望遠鏡だけじゃないよ宇宙望遠鏡
さて、宇宙望遠鏡ですが、1990年のハッブル宇宙望遠鏡が初めてではありません。宇宙空間から天体観測をするということなら、日本では1979年! 打ち上げの「はくちょう」からはじまるX線天文衛星のシリーズがあります。
宇宙のレントゲン写真ですな。最新のものでは2016年打ち上げ(残念ながらすぐ故障してしまった)「ひとみ」まで、多数のX線天文衛星を打ち上げ、この分野で世界屈指の成果を上げ続けてきました。次は2022年打ち上げ予定の「XRiSM」です。NASAやESAとの共同ミッションの予定です。
一方、世界に目を向けると、米、欧そして最近は中国が宇宙望遠鏡を打ち上げています。
X線天文衛星といえば、UHURUが世界初です。1970年! から1973年まで運用されました。それまで気球や観測ロケット(人工衛星にならない)でやっていた紫外線観測を一変させる成果をあげています。
宇宙望遠鏡のエポックは、米欧英共同プロジェクトの紫外線宇宙望遠鏡IUEです。地上からは大気に吸収されるため観測しにくい紫外線での天体観測を行うもので、1978年に打ち上げられ、設計寿命3年を大きくこえて1996年まで運用されました。
木星のオーロラの検出、超新星1987Aの元の天体の検出などのヒット成果をあげています。ジャイロホイールで姿勢制御をすることで長期間使えることを証明したもので、同じ方式を採用したハッブル宇宙望遠鏡のお手本といえるものです。写真を撮影する望遠鏡ではなかったのであまり有名じゃないですが、偉大な先駆者なのでございます。
紫外線で写真を撮影する宇宙望遠鏡としては2003年~2013年に米国の諸大学と韓国が共同で打ち上げたGALAXがあります。GALAXの紫外線画像は精細で、明るいところは高いエネルギーを出しているところと思うと、趣がございます。
また、赤外線では、日本でも有名になったものに米蘭英の赤外線宇宙望遠鏡IRAS(あいらす)がありますな。この60cmの鏡を持った宇宙望遠鏡の1983年の10ヶ月だけの活動は、冷媒の液体ヘリウムがなくなるまでということです。
多数の赤外線天体、銀河の発見、彗星の発見、ふたご座流星群の母天体である小惑星ファエトンの発見などで天文ファンの話題になりました。特に、彗星や小惑星をどんどん見つけるので、それを生きがいにしていた天文マニアが「IRASにはかなわん」とため息をつくことになりました。まあ10ヶ月の寿命でしたが。
赤外線宇宙望遠鏡は、その後も様々なものが打ち上げられています。欧州のISO(1995-1998年運用)はIRASの後継で、さらに大型化したものとなります。日本では、2006年-2011年運用の「あかり」があります。そして決定版といえるのが2003年~2020年! 運用の米国のスピッツァー宇宙望遠鏡です。星の誕生する様子などを精密な画像でとらえました。宇宙望遠鏡のアイデアを提唱し、実現に尽力した科学者ライマン・スピッツァーの名前がつけられています。
また欧州ではハッブル宇宙望遠鏡以上の巨大な宇宙天文台ハーシェルを運用していますが、これも赤外線望遠鏡ですな。
ほかに有名なものとしては、ケプラー宇宙望遠鏡を忘れるわけにはいきません。太陽系外の惑星を発見する専用の宇宙望遠鏡で2009年~2018年まで運用されました。3000個近くの惑星を発見するという大成果をあげています。またこのケプラー宇宙望遠鏡の観測のデータは公開され、それを解析した京都大学の学部学生のグループが天体の巨大爆発を見つけ、それが(プロの科学者でもなかなか論文が載せられない)ネイチャー誌に載るという成果があがっています。
また天体の位置を精密測定することで成果をあげたヒッパルコス衛星にGaia衛星。宇宙のマイクロ波を測定したCOBE衛星、プランク、WMAPなども、それぞれ特筆すべき宇宙望遠鏡です。
あー、全然終わんない たくさんありすぎるよ宇宙望遠鏡
ということで書いてきましたが、いつのまにか通常の倍の量ですな。ネタがありすぎでございます。しかも後半、かなりはしょってこれです。
12月22日打ち上げの、ジェームズ・ウエッブ望遠鏡に言及しないまま終わってしまいました。
ということで。
TO BE CONTINUE!