愛媛大学は7月3日、鉄とマグネシウムを主成分とする酸化物「マグネシオウスタイト」が月のコアとマントルの境界(CMB)における重要な構成鉱物である可能性があることを明らかにしたと発表した。
同成果は、愛媛大 先端研究院 地球深部ダイナミクス研究センターのスティーブ・グレオ准教授が参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の旗艦オープンアクセスジャーナル「Nature Communications」に掲載された。
月は約45億年前、形成されて間もないころの地球に火星サイズの原始惑星「テイア」が衝突し、それによって宇宙空間に飛び散った両天体の物質が集積して形成されたという「ジャイアン・インパクト説」が支持を得ている。月は小型の天体であるため地球型惑星の形成とは無関係と思われがちだが、同じ岩石型天体であり、その内部構造を把握することは惑星の分化や熱進化を理解するための基礎的な知見をもたらすと考えられている。
地球型惑星の形成時の状況を調べようとした場合、地球には46億年前の岩石はもう残されていない。プレートテクトニクスや火山活動、海洋などによる浸食、海底での堆積などによって地球表面が更新されてしまい、最古のもので38億年~39億年前が限度である。残る水星、金星、火星のうち、人類が現在着陸機を送り込んでサンプルリターンができる可能性があるのは火星のみだが、同惑星も火山活動や巨大隕石の落下などで表面が更新され、形成期の岩石は残されていないと考えられている。
これまでの月についての研究により、地下深部の金属核と岩石マントルの境界(CMB)には、明確な地震波の低速度層が存在することが指摘されていた。この層は、「地震波速度が遅く、それでいて密度が高い」という特徴を持つが、その理由は解明されていなかった。そこで研究チームは今回、月の核とマントルの相互作用についての調査を行ったという。
今回の研究では、まず月のCMBにおける金属核と岩石マントルの反応を確かめるため、金属鉄と接触させたカンラン石集合体を月のCMBの温度圧力条件下に置く実験から行われた。その結果、カンラン石のマントルと金属鉄の核の反応によって、マグネシオウスタイト(化学式(Fe,Mg)O)と呼ばれる鉱物が形成されることが示された。同鉱物が月の物質としてその形成が確認されたのは、今回が初めてとなる。そのため、これを立証するためには、マグネシオウスタイトの地震波速度と密度が、実際の月のCMBにおける地震波速度モデルと一致することを示す必要があった。
そこで、さまざまな鉄の含有量を持つマグネシオウスタイトを合成し、高圧下での地震波速度の測定が行われた。理化学研究所と高輝度光科学研究センターが運用する大型放射光施設「SPring-8」において実験は行われ、最大約9万気圧、約1200℃までの高圧高温条件下で、超音波を用いたマグネシオウスタイトのP波(地震で生じる速い縦波)およびS波(P波よりも遅い横波)の速度に加え、密度の同時測定が達成された。
得られたデータに基づいた月のCMBの地震波速度と密度のモデル化が行われた。その結果、月のマントルを構成するカンラン石に加え、重量で約5~15%のマグネシオウスタイトと微量のケイ酸塩の融体を含む組成モデルが、観測されている月のCMBの低速度層における特徴と非常によく一致することが明らかにされた。
今回の研究成果は、月の形成と進化の歴史を理解する上で極めて重要な意味を持つという。さらに、天体の進化過程においてCMBの酸化を経験した分化地球型惑星にとって、CMB領域における地震波速度の異常は「極めて普遍的な現象」である可能性を示唆しているとする。今回の成果は、地球型惑星内部の進化過程を理解するのにつながる新たな扉を開くものとしている。

