米国バイデン大統領は7月11日、米国航空宇宙局(NASA)などが昨年末に打ち上げた「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」が撮影した最初の画像を公開した。

多数の銀河が集まった銀河団「SMACS 0723」と、背後にある遠くの銀河たちが収められており、遠方宇宙の赤外線画像としては、これまでで最も深く鮮明なもので、赤外線で観測された最も暗い天体を含む何千もの銀河が写っている。

  • ジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡が初めて撮影した画像

    ジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡が初めて撮影した画像。遠方宇宙の赤外線画像としては、これまでで最も深く鮮明なもの。銀河団SMACS 0723の鮮明な姿のほか、その重力レンズ効果によって背後にあるはるか遠方の銀河も写っている。この画像に写っている範囲は、地上にいる人が手で持っている砂粒ほどのサイズに相当し、その中に赤外線で観測された最も暗い天体を含む何千もの銀河が写っている (C) NASA, ESA, CSA, and STScI

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が初めて見た宇宙

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)はNASAなどが開発した宇宙望遠鏡で、2021年12月25日に打ち上げられた。今年1月に観測を行うための軌道に到着し、望遠鏡の調整や試験観測を進め、今回初めてフルカラーの画像が公開された。

公開されたのは、遠方宇宙の赤外線画像としては、これまでで最も深く鮮明なもので、JWSTの近赤外線カメラ「NIRCam」を使って12時間半かけて取得した、波長の異なる画像を合成したもの。先代機にあたるハッブル宇宙望遠鏡で数週間かけて合成した画像をゆうに超える深度の画像が得られたという。

画像の中央部には、46億年前に出現した銀河団SMACS 0723が写っている。また、SMACS 0723がもつ巨大な質量による重力レンズ効果によって、その周囲には、背後にあるはるか遠くの銀河が拡大して見えている。

最も目立つ、星の記号そっくりの明るい星は、JWSTの六角形の鏡の形状により生まれる「回折スパイク」と呼ばれる現象によって形作られているもので、実際にこの形をして光っているわけではない。また、その周囲に細長く弓なりに曲がっている天体も、実際の姿ではなく、重力レンズ効果で歪められた像である。

写っている光の点一つひとつのほぼすべてが銀河であり、これまでに赤外線で観測された中で最も暗い天体を含む、何千もの銀河がこの一枚に写っている。また、星団や散光星雲などを含む、これまでの望遠鏡では見ることができなかった暗く小さな構造も写っている。

この画像に写っている範囲は、地球から見ると砂粒ほどのサイズに相当するという。NASAは「この画像は、地上にいる人が手に持っている砂粒ほどのサイズの空を写したものです。広大な宇宙の、ほんの一角に、何千もの銀河があるのです」と説明する。

JWSTの目標のひとつは、宇宙誕生直後に生まれた、古い銀河を探すことにある。今後研究者は、この画像に写っている銀河の質量、年齢、歴史、組成について、さらに詳しく調べていくことになる。

画像を公開したバイデン大統領は「この望遠鏡は、アメリカが力を誇示するのではなく、模範となることで世界のリーダーとして存在感を発揮し続けられるのだということを体現しています。公開された画像は、アメリカが大きなことが成し遂げられるのだということを世界にアピールし、アメリカの人々、とくに子どもたちに、私たちの能力に限界はないのだということを思い起こさせるでしょう」と語った。

なお、NASAなどは日本時間7月12日23時30分から、カリーナ星雲や南のリング星雲、ステファンの五つ子銀河など、さらに多くの画像を公開するとしている。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAと欧州宇宙機関(ESA)、カナダ宇宙庁(CSA)などが共同で開発した宇宙望遠鏡で、これまで打ち上げられた中で最大かつ最も強力な性能をもつ。

NASAは、この望遠鏡を「今後10年間、世界中の天文学者が酔いしれる世界最高の天文台」と呼び、宇宙の起源から進化の歴史を解き明かし、そして宇宙の歴史の中での人類の位置づけを理解できるような、数多くの新しい発見をもたらすだろうとしている。

現在運用中のハッブル宇宙望遠鏡の後継機に位置づけられているが、主に可視光で観測しているハッブルとは異なり、JWSTは主に赤外線を使って観測する。赤外線を使うことで、宇宙誕生から数億年後という初期に生まれた恒星や銀河の光、誕生直後のまだエネルギーが低い恒星、塵やガスで覆い隠された恒星や惑星など、宇宙のさまざまな時代、さまざまな天体の姿を、ハッブル以上に詳しく観測することができる。

打ち上げ時の質量は約6500kgで、ハッブルより半分ほど軽い。だが、宇宙望遠鏡にとって最も重要な部品である望遠鏡の主鏡は直径6.5mもあり、ハッブルの約2.75倍、面積でいえば約6倍と、これまで打ち上げられた宇宙望遠鏡の中で最大を誇る。

また、望遠鏡を太陽などの熱から守るための「太陽シールド(Sunshield)」は、20m×14mとテニスコートほどの大きさをもつ。その上に巨大な望遠鏡が直立する様は、まるで帆船のようでもある。

きわめて先進的かつ高性能を技術を追求したがゆえに開発は大幅に難航し、当初は2011年に打ち上げ予定だったものの、最終的に10年遅れでの打ち上げとなった。開発費も当初見積もりの16億ドルから、最終的に約100億ドル(約1兆1000億円)と約6.25倍に膨れ上がった。

JWSTは打ち上げから約1か月後の2022年1月26日、観測を行うため、地球から約150万km離れた場所にある太陽・地球系のラグランジュ点L2を回るハロー軌道に到着。望遠鏡の主鏡をナノメートルの精度で動したり、望遠鏡を冷却したりなど、観測に向けた調整を重ね、今回の画像取得に至った。

JWSTは今後、10年以上にわたって観測を続けることが計画されている。

  • ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の想像図

    ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の想像図 (C) NASA/Adriana Manrique Gutierrez

参考文献

NASA’s Webb Delivers Deepest Infrared Image of Universe Yet | NASA