米国航空宇宙局(NASA)などは2022年7月12日、最新鋭の宇宙望遠鏡「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」が初めて撮影した画像を公開した。

その初画像はどんなものだったのか、なにが写っているのか、そしてそこからなにがわかるのか。世界中の天文学者が恋焦がれ、ついに目にすることができた画像を詳しく見ていきたい。

第2回では、5つの銀河が集まっているように見える「ステファンの五つ子」を取り上げる。

「ステファンの五つ子」

「ステファンの五つ子(Stephan’s Quintet)」、または「ヒクソン・コンパクト・グループ92 (HCG 92)」は、5つの銀河が集まっているように見える領域である。地球から見るとペガスス座の方角にあり、1877年にフランスの天文学者エドゥアール・ステファンによって発見された。

五つ子と呼ばれてはいるが、画像の左に写っている銀河「NGC 7320」と、その右側にほぼ縦に並んでいる4つの銀河「NGC 7317」、「NGC 7318A」、「NGC 7318B」、「NGC 7319」とは、実際には大きく距離が離れており、あくまで地球から見たときに5つが近くにあるように見えるだけなのである。

このうちNGC 7320は地球から約4000万光年のところに、他の4つは地球から約2億9000万光年も離れている。約2億9000万光年はもちろん、約4000万光年もかなり遠いが、何十億光年も離れた遠方銀河に比べると、宇宙のスケールでいえば“かなり近い”。そのため、地球からより詳しく観測し、研究することができる。そしてその研究は、遠くにある銀河をより良く理解することにつながる。

また、銀河の進化の過程においては、銀河同士が合体したり、その際に銀河同士で相互作用が起こったりもする。私たちの天の川銀河も、約40億年後にはアンドロメダ銀河と衝突すると考えられている。そうした際に銀河に何が起こるのかについても、ステファンの五つ子のような比較的近い場所にある、そして複数の銀河が近づいている領域を観察することで、たとえば相互作用によって銀河が互いに星形成を誘発する様子や、銀河内のガスがどのように撹乱されているかを詳細に観測し、よりよく理解することができる。

NASAは「銀河同士の相互作用をこれほど詳細に見られる機会はめったにないでしょう。『ステファンの五つ子』は、すべての銀河に共通するであろう基本的なプロセスを研究するための、素晴らしい実験場なのです」とコメントしている。

  • ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した、「ステファンの五つ子」

    ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した、「ステファンの五つ子」 (C) NASA, ESA, CSA, and STScI

さらに、このように複数の銀河が狭く集まった集団は、宇宙初期にはもっと一般的で、その超高温の物質が、銀河の中心の非常に狭い領域が明るく輝いている天体「クエーサー」の燃料になっていると考えられている。クエーサーは、銀河そのものよりも中心核が明るく輝いている「活動銀河核」の一種で、その中でも最も明るい部類の天体を指し、その正体は非常に高エネルギーの超巨大ブラックホールがあるためと考えられている。

ステファンの五つ子でも、画像の一番上に写っているNGC 7319は活動銀河核をもち、太陽の2400万倍もの質量をもつ巨大ブラックホールが存在しており、周囲の物質を激しく吸い込み、太陽の400億個分の光エネルギーを放出している。

ステファンの五つ子は、その特徴的な姿、そして大規模な構造であることから、古くから地球から観測されている。ハッブル宇宙望遠鏡も撮影したことがあり、今回の画像と見比べるとJWSTの性能の高さがよくわかる。

  • ハッブル宇宙望遠鏡が2009年に撮影したステファンの五つ子

    ハッブル宇宙望遠鏡が2009年に撮影したステファンの五つ子 (C) NASA, ESA, and the Hubble SM4 ERO Team

ブラックホールの研究も

この画像は、JWSTに搭載されている近赤外線カメラ「NIRCam」と中間赤外線観測装置「MIRI」が撮影したものを合成し、着色したものである。今回公開された画像の中で最大であり、月の直径の約5分の1に相当する範囲が写っている。合成に使われた画像は約1000枚、総画素数は1億5000万以上にもなるという。

またMIRIは、NGC 7319の中心にあるブラックホールを取り囲む塵を透過して、非常に明るい活動銀河核の姿を明らかにしているほか、これまでハッブル宇宙望遠鏡の観測では見えなかった、多数の背景銀河も写し出している。

この画像の中で、赤色の部分は塵の多い星形成領域、極端に遠い初期銀河、厚い塵に覆われた銀河を示している。また青い点の光源は、塵のない恒星や星団を示している。青く拡散している部分は、炭化水素を多く含む塵を示している。画像中に散在する小さな背景銀河は、緑色や黄色に着色されており、同じように炭化水素を多く含む、より遠方の初期銀河を示している。

塵に覆われた領域を突き破り、巨大な衝撃波や潮汐の尾、相互作用によって銀河の外側から剥ぎ取られたガスや恒星が明らかになっている。また、隠されていた星形成領域も見えている。

活動銀河核の観測には、MIRIのほか、近赤外線分光器 「NIRSpec」も使われ、これらの観測装置のカメラと分光器を組み合わせた「IFU (Integral Field Unit)」によって、銀河中心核の分光特性を示す画像集が提供された。

このIFUは、病院のMRIのように、情報を多くの画像にスライスするようにして研究者に提供し、詳細な研究を可能にしている。これにより、核を取り巻く塵を突き破るようにして見ることができ、活動的なブラックホール付近の高温のガスの様子を明らかにし、明るい流出流の速度の測定を可能にした。ブラックホールによって引き起こされたこれらの流れが、これまでにないほど詳細に捉えられている。

今後、JWSTの観測と、そこからの研究によって、超巨大ブラックホールがどのような速度で周囲の物質を吸い込んで成長していくのか? 星形成領域でどういったことが起こっているのか? といったことなどについて解明できると期待されている。

  • JWSTの中間赤外線観測装置「MIRI」で撮影したステファンの五つ子

    JWSTの中間赤外線観測装置「MIRI」で撮影したステファンの五つ子。冒頭のNIRCamとMIRIの合成画像とは違い、MIRIのフィルターを1つ多く加えて撮影されており、異なった特徴が見られるようになっている (C) NASA, ESA, CSA, and STScI

参考文献

NASA’s Webb Sheds Light on Galaxy Evolution, Black Holes | NASA
ESA - Stephan’s Quintet - MIRI imaging
Stephan’s Quintet (NIRCam + MIRI Imaging) | ESA/Webb
Stephan's Quintet