米国航空宇宙局(NASA)などは2022年1月25日、昨年末に打ち上げたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が、観測を行う太陽・地球系のラグランジュ点L2を回る軌道に到着したと発表した。

JWSTは今後、約3か月かけて望遠鏡を調整。今春にも最初の画像を撮影する“ファースト・ライト”を行い、科学運用に入る予定となっている。

  • ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

    ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の想像図 (C) NASA GSFC/CIL/Adriana Manrique Gutierrez

太陽・地球系L2に到着

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)は日本時間2021年12月25日、南米仏領ギアナにあるギアナ宇宙センターから打ち上げられた。JWSTを載せた「アリアン5」ロケットは、JWSTを太陽・地球系のラグランジュ点L2へ向かう軌道に投入した。

JWSTはその後、折りたたんでいた熱シールドや望遠鏡の展開に成功。軌道修正を行いつつ、順調に航行を続けた。

そして打ち上げから30日後の日本時間1月26日4時(米東部標準時25日14時)、地球から約146万kmの地点で、スラスターを4分57秒間噴射。観測運用を行う、L2のまわりを回るハロー軌道に到達した。

太陽・地球系L2は、太陽と地球を直線で結んだ先の、地球の外側にある重力が安定している領域のことで、地球からは約150万km離れている。

この場所は、JWSTと地球、そして太陽との位置関係がつねに同じで一直線に並ぶため、つねに望遠鏡を宇宙に向けつつ、太陽電池や通信機器を太陽と地球の方向に向けることができるという利点がある。

また、赤外線宇宙望遠鏡であるJWSTにとって、ほんのわずかな熱(赤外線)もノイズ(雑音)となるが、この軌道は地球と月から遠く離れていることから、それらから放出される赤外線の影響を受けずに済み、さらに望遠鏡の光学系や科学機器を十分に冷やすこともできるなど、JWSTの運用に最適な条件が揃っている。

JWSTは、L2点を中心に、最短で約25万km、最長で約83万km離れたところを約6か月かけて一周する「ハロー軌道」で運用される。また、この軌道は完全には安定していないため、軌道を維持するために、約3週間ごとに小さなスラスター噴射が行われることになっている。

JWSTのプロジェクト・マネージャーを務めるビル・オクス(Bill Ochs)氏は「打ち上げからこの1か月間、JWSTは驚くべき成功を収め、このミッションを成功させるために何十年も費やしてきたすべての人々にとっての大きな賛辞となりました。私たちはいま、望遠鏡の鏡の位置合わせ、機器の立ち上げと試験、そして素晴らしさと驚きに満ちた発見を目前にしています」と語る。

NASAのビル・ネルソン長官は「JWST、観測地へようこそ! 無事にL2へ到達させたチームの努力をたたえたいと思います。私たちは宇宙の謎の解明に一歩近づきました。JWSTが初めて見せてくれるであろう、宇宙の新たな景色を目にするのが待ちきれません」とコメントした。

JWSTは今後、約3か月かけて、望遠鏡の光学系を調整する。JWSTの直径6.5mの主鏡は18個の六角形のセグメントから構成されており、それぞれのセグメントの位置を少しずつ、ナノメートルの精度で動かし、反射した星の光が望遠鏡の光軸の中心に集まるように調整。望遠鏡の焦点を合わせる。

また、鏡は現在、マイナス210℃まで冷えており、目標のマイナス233℃に向けて順調に冷却が進んでいるという。

早ければ今春にも最初の画像撮影“ファースト・ライト”を行い、さらに調整を重ねたのち、夏から本格的な科学観測が始まる予定となっている。

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    ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のL2までの旅を描いた図 (C) ESA

JWSTとは?

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAと欧州宇宙機関(ESA)、カナダ宇宙庁(CSA)などが共同で開発した宇宙望遠鏡で、これまで打ち上げられた中で最大かつ最も強力な性能をもつ。

現在運用中のハッブル宇宙望遠鏡の後継機に位置づけられているが、主に可視光で観測しているハッブルとは異なり、JWSTは主に赤外線を使って観測する。これにより、宇宙誕生から数億年後という初期に生まれた恒星や銀河の光、誕生直後のまだエネルギーが低い恒星、塵やガスで覆い隠された恒星や惑星など、宇宙のさまざまな時代、さまざまな天体の姿を、ハッブル以上に詳しく観測することができる。

NASAは、この望遠鏡を「今後10年間、世界中の天文学者が酔いしれる世界最高の天文台」と呼び、宇宙の起源から進化の歴史を解き明かし、そして宇宙の歴史の中での人類の位置づけを理解できるような、数多くの新しい発見をもたらすだろうとしている。

打ち上げ時の質量は約6500kgで、これは世界一有名な宇宙望遠鏡であるハッブルと比べると半分ほどと軽い。だが、最も重要な望遠鏡の主鏡は直径6.5mもあり、ハッブルの約2.75倍、面積でいえば約6倍と、これまで打ち上げられた宇宙望遠鏡の中で最大を誇る。その望遠鏡を太陽などの熱から守るための太陽シールド(Sunshield)は20m×14mと、テニスコートほどの大きさをもつ。

運用期間について、打ち上げ前は5年から10年間と予想されていたが、アリアン5ロケットによる軌道投入の精度が正確だったこと、またその後行われた2回の軌道修正が完璧だったことから、軌道維持に使う推進剤を節約できたため、それ以上にわたって運用できると期待されている。

  • ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

    ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の想像図 (C) Adriana Manrique Gutierrez, NASA Animator

参考文献

NASA to Discuss Webb’s Arrival at Final Destination, Next Steps | NASA
ESA - Webb has arrived at L2
NASA to Discuss Webb’s Arrival at Final Destination, Next Steps | NASA