国立天文台、愛媛大学、早稲田大学(早大)の3者は7月6日、欧州宇宙機関(ESA)の「ユークリッド宇宙望遠鏡」と、すばる望遠鏡などの地上望遠鏡を組み合わせた観測から、初期宇宙に存在する31個の超大質量ブラックホール(クェーサー)を発見し、そのうちの2天体は、これまでに知られている最も遠方にある(最古の)クェーサーとして記録を更新したと共同で発表した。

  • 発見されたクェーサーのうちの15個の画像

    発見されたクェーサーのうちの15個の画像。画像ではわかりづらいが、クェーサーは各画像の中心に存在している。左上の赤文字で記された2天体は最遠方記録を更新したクェーサー。(c)ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by the Euclid Science Ground Segment and Antoine Basset (CNES)(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

同成果は、愛媛大 宇宙進化研究センターの松岡良樹准教授、早大 高等研究所の尾上匡房講師らが参加する国内外約140の研究機関や大学に属する210名以上の研究者が参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は、欧州各国の主要機関が共同刊行する、天文学・天体物理学分野の総合論文誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載された。

宇宙の夜明けに輝く巨大ブラックホール

銀河中心に存在する超大質量ブラックホール(SMBH)が、活発に物質を飲み込んで膨大なエネルギーを放出している銀河は「活動銀河」、その活発な中心核は「活動銀河核」と呼ばれる。中でも、母銀河全体よりも明るく輝くものがクェーサーだ。初期宇宙のクェーサーを調べることは、第一世代の銀河やSMBHがどのようにして誕生し、どのようにして成長してきたのかを探るための重要な手掛かりとして注目されている。つまり、宇宙が現在の姿に至るまでに何が起きたのかを理解する上で、欠かせない存在なのだ。

  • クェーサーの想像図

    クェーサーの想像図。(c)ESA(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

こうした初期宇宙のクェーサーを見つける試みは、これまで数十年にわたって続けられてきた。すばる望遠鏡でも過去10年にわたって比較的暗いクェーサーの探索が行われ、約200個も発見することに成功している。しかし、より遠方の宇宙に存在するクェーサー、つまり赤方偏移が7を超えるものは発見数が限られており、全体像を把握するには数が不足していたという。

この状況を大きく打破する原動力となったのが、ESAとユークリッド・コンソーシアムが共同開発した広域サーベイ観測用の宇宙望遠鏡であるユークリッドだ。2023年に打ち上げられたユークリッドは、広い天域を一度に観測できる広視野と、遠方天体の発見に欠かせない赤外線での高い感度を兼ね備える。これにより、宇宙誕生から間もない時代におけるクェーサーの探査効率が飛躍的に向上した。

ユークリッドの登場以前は、赤方偏移7以上のクェーサーは9天体しか知られていなかった。それに対し今回の観測では、新たに12天体発見された。中でも、赤方偏移7.77の「EUCL J172902.75+641018.1」と、同7.69の「EUCL J125308.55+705432.3」は、最遠方記録を更新する天体だった。これらは、いずれも約131億光年の彼方、宇宙誕生から約6億7000万年後に存在していたと推定された。

なお、ユークリッドの赤外線データを最大限活用するには、より波長の短い可視光の観測データと組み合わせることが不可欠だ。特に、初期宇宙のクェーサー探査では、赤外線で明るく、可視光で急激に暗くなる天体を選び出す必要がある。実際に今回の研究では、最遠方記録を更新した2天体の発見において、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(HSC)により撮影された可視光データも活用された。これにより、効率的な候補天体の絞り込みに大きく貢献したという。

2024年2月から本格的なサーベイを開始したユークリッドは、最終的に何十億もの銀河を観測し、宇宙の構造を明らかにする三次元地図を作成することを目的としている。現在のデータはまだ1年半分に過ぎず、今回の発見は始まりにすぎないとする。6年間にわたるサーベイが完了した際には、初期宇宙に存在する数百ものクェーサーが発見される可能性がある。これにより、銀河とSMBHがどのように誕生し進化してきたのか、その全体像の解明が大きく進むことが期待されるとしている。

  • 今回の研究でカバーされた天域と発見された31個のクェーサーの位置

    今回の研究でカバーされた天域(水色)と、発見された31個のクェーサーの位置(黄色と赤の点)。赤い点は、最遠方の記録を更新した2つのクェーサーの位置。ユークリッドは、最終的には全天の約3分の1にわたる天域をサーベイする計画だ。(c)ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA/Planck Collaboration/A. Mellinger; Acknowledgment:Jean-Charles Cuillandre, João Dinis(出所:すばる望遠鏡Webサイト)