北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は7月7日、把持機能と触覚センシング機能を一体化することで、豆腐などの柔らかい食材も確実に把持できるソフトグリッパ(ロボットハンド)「EleTac」を開発したと発表した。

  • 今回開発されたソフトグリッパ「EleTac」の概念図

    今回開発されたソフトグリッパ「EleTac」の概念図。(a)ゾウの鼻に着想を得た構造を特徴とする。(b)空気圧によってソフトグリッパが閉じることで、柔軟に多様な把持を実現する仕組みを持つ。(c)視覚ベースセンシングにより、外部物体との接触と自己形状の両方を知覚することが可能だ。(出所:JAIST Webサイト)

同成果は、JAIST AI知性研究領域のホ・アン・ヴァン教授、英・キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のShan Luo准教授、JAISTのNguyen Tai Tuan博士研究員、KCLのXuyang Zhang大学院生、米・パデュー大学のLuu Khanh Quan博士研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、IEEEが刊行する、制御・機械・情報などの学際的なアプローチからロボット工学の基礎研究を扱う論文誌「IEEE Transactions on Robotics」に掲載された。

“ゾウの鼻先”から着想を得た新発想のグリッパ

従来の金属やプラスチックなどの硬質な素材でできたロボットハンドは、形状が一定で掴んでも変形しない部品の把持が得意な一方で、形状が不均一で柔らかく、強い力で掴むと変形してしまう食材などの把持は苦手としていた。そのため、食品産業などにおけるロボットハンド導入の障壁となっていた。

そこで近年、食品や壊れやすい物体を扱う用途に向け、柔軟な素材や構造、駆動機構を利用した新しいロボットハンドとして、「ソフトグリッパ」の開発が進められている。従来の硬質なロボットハンドと比べ、周囲の環境や人と接触しても安全な点もメリットの1つであり、注目を集めている。

食品や壊れやすい物体などを扱う場合、対象を潰さずに確実に保持するためには、「どこに触れているのか」「どのくらいの力が加わっているのか」「物体の形状はどうなっているのか」といった情報を取得する優れた触覚センシング機能が不可欠となる。しかし、グリッパ全体に触覚センサを組み込み、同時に高い把持性能も発揮する必要があるため、その開発は容易ではなかった。そこで研究チームは今回、この課題を解決するためのソフトグリッパを開発したという。

今回の研究では、ゾウの鼻に着想を得た柔軟な構造が採用された。空気圧によって閉じることで多様な形状の物体を優しく把持できる機能を有し、同時に視覚ベースの触覚センシング機能を搭載した空気圧駆動型ソフトグリッパ「EleTac」が開発された。

EleTacは、視覚ベース触覚スキンで全面を覆い、「自己受容感覚」と「外受容感覚」、さらに把持機能を統合したソフトロボットグリッパである点が特徴だ。ここでいう自己受容感覚とはロボットが自分自身の形状や位置、動きなどを把握する能力であり、外受容感覚とはロボットが外部の物体との接触や相互作用を通じて周囲の環境を把握する能力を意味する。具体的には、内部に配置された単一のカメラが、エラストマー製のグリッパ全体の変形を捉え、接触位置やその度合い、物体形状、自身の姿勢など、複数の触覚情報を同時に取得できるよう設計された。

包括的な把持・知覚実験の結果、EleTacは物体操作と触覚センシングを1つの設計において高レベルで両立できることが確認された。また、柔軟な物体操作と触覚知覚の両方が求められるさまざまな場面においても、その有効性が示されたとした。

  • EleTacの応用例

    EleTacの応用例。柔軟なソフトグリッパにより壊れやすい物体を安全に把持できるほか、統合されたセンシング機能によって自動食器洗いや視覚情報が限られる環境での探索作業を支援することが期待される。(出所:JAIST Webサイト)

EleTacは柔軟な構造により、豆腐や果物などの壊れやすい物体を傷つけることなく安全に把持することが可能だ。また、触覚フィードバックを活用することで、食器との接触状態を確認しながら行う食器洗いなどの家庭内作業や、視覚情報を得にくい砂の中から物体を探し出す作業などへの応用も可能だという。

今後は、家庭、病院、公共空間など、人と近い距離で安全に協働するロボットへのEleTacの応用が期待されるとする。接触を感じながら適切な力で作業できる特性を活かし、高齢者支援や介護、サービスロボットのほか、これまで自動化が難しかった繊細な作業への活用も見込まれるとした。また、今回の研究ではCADデータやシミュレーション環境、開発パイプライン、データサンプル、学習済みモデルを公開しており、研究コミュニティ全体での技術発展や再現性向上にも貢献していくとしている。