第36回 IHSディスプレイ産業フォーラムの模様をお届けする本連載だが、最終回となる今回は、大型FPDを搭載する主要な最終製品であるテレビ市場の動向をお伝えしたいと思う。

パネル面積をもっとも消費するテレビ市場

FPDパネルを面積的にもっとも消費するテレビ市場について、IHS Markitのコンシューマエレクトロニクス部門エグゼクティブディレクターである鳥居寿一氏が語ったことを以下にまとめる。

  • 2018年、大型(55型/65型)4Kテレビは完全にコモディティ化した。そして、パネル価格の下落に後押しされセット価格も下落。そのため、プレミアム製品との格差が縮小し、差異化しにくい時代へ突入した。8K化や有機ELなど次の目玉が急速に立ち上がらないと今後数年に渡り価格勝負が続くことになる。
  • 液晶テレビではSamsungが、有機ELではLG Electronics(LGE)がそれぞれダントツのシェアを握っている。液晶テレビでは、日本ならびに韓国勢は、今後、出荷数量については微減傾向だが、中国勢(特にTCL、Hisense、Xiaoumi)は強気の計画で増加傾向である。有機ELテレビは、LGEがさらに大きくシェアを伸ばし、他社を引き離しにかかる。
  • 中国ブランドは続々と立ち上がるG10.5(第10.5世代)からの大量のパネル供給に後押しされ、エントリレベル向けに大型(当然4K)テレビの低価格化を図っていく。この傾向は65型(2018末~)、75型(2019年末~)まで押し寄せてくるのは間違いない。
  • 韓国ブランドであるSamsungは、従来の台数およびシェア重視から金額・利益重視へと方向転換している。大型(65型、75型、82型)およびQD(量子ドット)により北米での高価格帯ゾーンで好調、LGEは有機ELが欧州で好調である。
  • 日本ブランドは、プレミアム製品を中心に自社の強みを生かし差別化。自社のブランドを訴求することで自社の強い地域・国・販売店で販売している。しかしウルトラプレミアムにのみ特化すると数が望めない(数が大きく減る)懸念がある
  • 北米では少なくとも55型~65型までがエントリモデル、日本では50型までがエントリモデルとなっている。49型は価格競争力がなく50型に対し不利であり、32型/43型と55型の間でポジションが見つからない。
  • 2017年、中国での超低価格により大躍進したシャープは天虎計画(シャープの中国での販売計画名)の方針転換により2018年の数量は大幅減となった。その一方で、Xiaomiが躍進し、インド・ASEAN市場にも参入を果たした。
  • 2019年にHuaweiとOppoがテレビ分野への参入を計画している。中国ブランド・市場を取り巻く競合環境は今後もめまぐるしい変化するため目が離せない。
  • 液晶パネルによる大型化(65型の次は75型)ならびに8K化の行く末は従来の延長線上から抜けきれない。普及を急ぐと低価格化が進み価格破壊となってしまう。80~100型の画面サイズへとステップアップするには、搬入・設置の観点から次世代ディスプレイが軽量で壁掛けが可能になる必要がある。唯一8Kコンテンツを有する日本市場で辛抱強く、息長く8Kの良さを訴求できるかが重要であり、2020年の東京五輪が最大のチャンスとなろう。
  • 米中の貿易戦争のさらなる長期化、中国から生産地を移管する動き、各国での税制(関税)・規制・補助成策・賃上げの動き、為替の変動、そして政治の動きにも注意を要する。
  • 液晶テレビおよび有機ELテレビの出荷数量ランキング

    液晶テレビ(左)および有機ELテレビ(右)の出荷数量ランキング(単位:百万台) (出所:IHS Markit)

  • テレビ用ディスプレイ技術の変遷と今後の動向

    テレビ用ディスプレイ技術の変遷と今後の動向(最適サイズと解像度) (出所:IHS Markit)

デジタルサイネージおよびモニタ市場の動向

デジタルサイネージおよびモニタ市場についてIHS Markitコンシューマエレクトロニクス部門ディレクターの氷室英利氏が語ったことを以下にまとめる。

  • サイネージ&情報ディスプレイは市場拡大している。多用途であるが、テレビパネル多数採用の影響で価格下落は速い。
  • IFP(電子黒板)は、新興国地域(特に中国)で出荷が急増している。ICT化のトレンドに合わせ、文教向け、企業向けとも新規導入段階であり上振れが期待されている。
  • 液晶ビデオウォールは狭額縁競争も限界にちかづいている。今後はLEDビデオウォールとの直接勝負となる。一方、LEDビデオウォールは、中国ブランドを中心に狭ピクセルピッチで市場規模急拡大している。LEDの急激な低価格化で、モジュール価格も下落している。
  • アプリケーションは店舗設置のサイネージが主な市場。今後は付加価値モデルにシフトしていく。交通(耐久性、保守性)、文教(低価格IFP)、企業の会議室(高機能IFP)などの用途の需要拡大が期待される。
  • 大競争時代に入ったパブリックディスプレイ市場ではあるが、年間400万台規模と、年間2億台のテレビなどに比較しても小さく若い市場である。今後の生き残りには、通常の購入後の設置保守サービスのみならず、顧客に合わせた柔軟なサービス体制や、AIやセンサ、IoTを駆使した自動化提案、統合サービスの提供がカギとなる。
  • デスクトップモニタ市場に関しては、ノートPCやタブレットでは実現できない「大画面、高解像度、高画質」というモニタに対する需要は依然として存在する。足元では、ゲーミングモニタやウルトラワイド・カーブドモニタに代表される付加価値モデルの増加が続き、モニタ需要の下支えとなっていくだろう。
  • 一体型PCは上位4社の寡占化が進む。今後は「ローコストデスクトップ」から「ハイエンド志向、プロフェッショナルの作業用」になるだろう。
  • 2020年1月にWindows 7のサポートが終了するが、これに伴い、2019年いっぱい(日本市場では消費税増税が実施される第3四半期まで)OSのアップグレードに合わせたPC(およびモニタ)の駆け込み需要の行方がカギをにぎるだろう。

ノートPCとタブレット市場の動向

IHS Markitコンシューマエレクトロニクス部門アソシエートディレクターのJeff Lin氏は、ノートPC出荷について、「2018年は前年比1.6%減の1億6610万台となったもようである。2019年も出荷はやや下振れする見込みである。IntelからのMPU出荷不足や米中貿易摩擦による不明確な世界経済の先行きの影響が出ている。ゲーム用ノートPCに限れば、2019年に需要が前年比で12.8%増えるが、PC全体ではややマイナス成長と予測している」と述べた。

また、タブレットについても、2018年の出荷数量は、前年比18%減の1億4470万台で、2019年はさらに減少するだろうとしている。

なお、Lin氏は「ゲーム用ノートPCの出荷は2017年から2022年に向けて年平均成長率16.4%で成長し、2022年には1370万台に達するだろう。e-スポーツファンの数は、2020年に6億人に達し、e-スポーツプレーヤ育成に各国のスポーツ組織が力を入れるようになるだろう。将来、e-スポーツがディスプレイ需要を伸ばすことに期待がかかる」とe-スポーツが一大産業になる可能性があると述べている。