国立天文台(NAOJ)は6月9日、日本と台湾が共同開発した新型受信機「extended Q-band」(eQ受信機)を野辺山45m電波望遠鏡に搭載し、「炭素星」の中では全天で2番目に強い電波を発している「CIT 6」(しし座RW星)の広帯域電波スペクトルサーベイを行った結果、同星を取り巻くガス層の化学プロセスに関する新たな知見を得たと発表した。
同成果は、ベトナム宇宙量子通信・天文学研究所のQuang Nguyen Luong所長/博士、ベトナム科学技術アカデミー物理学研究所のDinh Van Trung所長/教授、NAOJ 科学研究部の中村文隆准教授、NAOJ アルマプロジェクトの谷口琴美助教らの研究チームによるもの。詳細は、欧州各国の主要機関が共同で運営する、天文学・天体物理学を扱う論文誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載された。
太陽質量の約0.08~約8倍の小・中質量星は、恒星としての生涯を終えると白色矮星となる。そのうち太陽質量の約0.5倍から約8倍までの星は、生涯の終盤に赤色巨星となった後、白色矮星へと至る途中段階で「漸近巨星分枝(AGB)星」と呼ばれる段階を経る。
AGB星は、「s過程」と呼ばれる元素合成により、コバルトよりも重い元素の多くを生成する。さらに、これら多種多様な元素を宇宙空間に放出し、その周囲の適温環境の領域にて複雑な分子を合成する役割も担うことから、「宇宙の化学工場」とも称される天体だ。元素を宇宙空間に放出するといえば超新星爆発のイメージが強いが、AGB星も極めて重要な役割を担っている。
このAGB星のうち、内部の核融合で生成された炭素が対流で表面へと運ばれ、恒星大気中の炭素量が酸素を上回る天体が「炭素星」だ。これまで、炭素星における詳細な化学組成の調査は、ミリ波・赤外線域を用いて、全天で最も明るい炭素星である「IRC+10216」(しし座CW星)に対してのみ行われてきた。そのため、化学進化のプロセスが他の炭素星にも共通するのかは、まだ確認されていなかった。
そこで研究チームは今回、新開発の高感度なeQ受信機を用い、炭素星として全天で2番目に明るいCIT 6を対象として、周波数30~50GHz(波長6~10mm)帯で初めて偏りのない分子検出を行い、分子存在量の比較を行ったという。
eQ受信機は、電波望遠鏡として世界最高性能を有するアルマ望遠鏡のBand1(周波数35~50GHz)受信機に匹敵する高感度を備えつつ、より広い周波数帯域を観測できるという特徴を持つ。この優れた「広帯域性」を活かすことで、多数の分子からの信号を極めて効率的に、かつ網羅的に捉えることに成功した。
観測の結果、CIT 6の周囲において多様な分子の電波放射が検出され、分子の存在量や同位体比、温度などが明らかにされた。さらにIRC+10216との比較が行われ、(1)物理的進化に伴う化学組成の変化、(2)ケイ素・硫黄分子の欠乏、(3)炭素鎖分子の維持、(4)星の内部情報を抽出できたことという、4点の主要な知見が得られたとした。
まず(1)に関して、CIT 6の分子存在量はIRC+10216よりも全体的に約10分の1と低く、これはCIT 6がより進んだ進化段階にあることを物語っている。星の進化が進むと放出されたガスが周囲へ広がって希薄になるため、中心星からの紫外線が遮られることなく届くため、広範囲の分子を破壊してしまい、結果として分子存在量が低く抑えられることが考えられるとする。次に(2)については、硫化ケイ素や硫化炭素といったケイ素や硫黄を含む分子の著しい減少が判明。これは、これらの分子が塵に取り込まれたり、星の周囲の衝撃波によって破壊されたりしている可能性が示唆されるという。
さらに(3)については、(2)とは対照的に、HC5NやHC7Nといった長い炭素鎖分子(炭素原子が数珠つなぎに結合した鎖状分子)が比較的豊富に残留しており、進化した環境下でも炭素鎖化学が効率的に機能していることが確認された。最後の(4)については、炭素同位体比(12C/13C)およびケイ素同位体比(28Si/29Si)が、ともに太陽系より低い値を示すことが確認された。これらは星の内部で起こっている核融合プロセスの特徴を反映しており、星の進化の歴史を知る手がかりとなるとしている。
例えば、核融合で生成された元素では13Cの比率が高く、CIT 6でも内部から汲み上げられたガスが多いことが確認でき、炭素星の進化の特性を明瞭に示しているという。また、ケイ素の同位体比は、星が誕生した場所(銀河系内の位置)や、その星の親となった世代の星々による銀河化学進化の歴史を反映している可能性があるとした。
今回の観測により、異なる進化段階にある2つの炭素星が類似した分子存在量比が示された。このことから、炭素星における分子形成プロセスには共通性があり、かつ中心星からの紫外線がその形成過程において決定的な役割を果たしていることが確認された。
研究チームは今後、eQ受信機の高感度・広帯域特性を最大限に活かし、進化段階の異なる多くの炭素星を調査することで、この化学的特徴が普遍的なものか、星本体からの紫外線や星周ガスの構造など、他の要因が関与するのかを解明し、炭素星を通じた宇宙の元素供給プロセスの解明を目指すとした。
今回の研究では、eQ受信機が恒星周囲の外層の化学組成を包括的に調査する上で、非常に強力なツールであることを証明することに成功した。また、新規に設立されたベトナムの研究機関である宇宙量子通信・天文学研究所(IAS)と国立天文台の間で深まりつつある科学的パートナーシップにおける重要なマイルストーンになったとする。
国立天文台とIASは今後も協力し、ベトナムで計画されている「広帯域低周波天文学検出実験(BLADEプロジェクト)」などを通じて、星間化学や宇宙構造の解明に向けたさらなる研究を展開していくとしている。
