ロッキード・マーティンが2026年2月3日に、「台湾空軍のF-16Vに搭載するレギオンES(Embedded System)ポッドを3億2,850万ドルで受注した」と発表した。これは、IRST(Infrared Search and Tracker)の機能を統合したセンサー・ポッドで、空中の脅威を捕捉追尾する際に使用するというのが、ロッキード・マーティンの説明。

過去記事のデータを調べてみたら、意外にもIRSTの話をしていなかったので、これはいい機会とばかりに書いてみることにした。

  • 米空軍のF-16に搭載したレギオンIRSTポッド(空気取入口の手前側) Photo : USAF

    米空軍のF-16に搭載したレギオンIRSTポッド(空気取入口の手前側) Photo : USAF

IRSTとは何か

IRSTを逐語訳すると、「赤外線(の発生点)を追尾する機器」という意味になる。読んで字のごとくである。

「それならFLIR(Forward Looking Infrared)と同じじゃないの?」と思われそうだが、FLIRが主として対地・対艦用途で用いられるのに対して、IRSTは主として対空用途という違いがある。

飛行場の近くで飛んでいる飛行機を見ていると分かるが、遠くにいる飛行機は単なる「点」である。それは、Mk.1アイボール(すなわち人間の目玉)で見ている場合でも、赤外線センサーで見ている場合でも変わらない。

対地・対艦攻撃あるいは低高度飛行といった場面でFLIRを使用する場合、センサー映像を見て前方の状況を把握したり、映っている映像の中からターゲットを見つけ出したり、といった使い方をする。だから、なるべく鮮明な、分解能が高い映像が欲しい。といっても、赤外線と可視光線の波長の違いがあるので、可視光線映像ほど鮮明にするのは難しいのだが。

  • 赤外線センサー映像の例。道路上を撮影したもので、そこを歩いている人物の存在も分かる Photo : US Navy

    赤外線センサー映像の例。道路上を撮影したもので、そこを歩いている人物の存在も分かる Photo : US Navy

IRSTが持つ戦術的メリット

一方、対空用途でIRSTを使用する場合、もちろん鮮明であるに越したことはないが、前述したように、遠くにいる飛行機はそもそも「点」である。すると、精細な映像でもって相手の外形・外観まで知るのは無理がある。かなり接近しなければ分かりようがない。

むしろ対空用IRSTの場合、捕捉した赤外線発生源の方位を精確に知るとか、確実に捕捉追尾し続けるとかいうことの方が重要ではないか。なにしろ飛びものは移動速度が速い。見ているこちらも飛行機ならば尚更で、相対速度が高くなるほどに位置関係の変化が速くなる。つまり捕捉追尾の継続が難しい。

そうした課題をクリアできれば、IRSTには戦術上のメリットがある。レーダーは、こちらから電波を出さなければ探知ができないから、その電波を逆探知されて「レーダー捜索を実施している誰かさんの存在」を敵に覚られる。IRSTはパッシブ探知だから、そんなことにはならない。

そしてIRSTは赤外線放射を捉えるから、昼夜に関係なく使用できる。これはMk.1アイボールにはない強みとなる。ただ、赤外線の発信源を捉えるだけでは敵味方の区別や機種の区別ができないから、「IRSTで捕捉した機体は、すなわち敵機である」とはいかない。

米軍の戦闘機はポッド式で搭載

IRSTを標準装備している戦闘機はいくつもある。いわゆる西側の機体だとユーロファイター・タイフーンがそうだし、いわゆる東側の機体だとロシアのMiG-29やSu-27フランカー一族がそれである。赤外線による前方の捜索を行うわけだから、IRSTは機首正面、キャノピーの前方に設置することが多い。

  • ユーロファイターの機首クローズアップ。キャノピーの手前に付いているのがIRST Photo : USMC

    ユーロファイターの機首クローズアップ。キャノピーの手前に付いているのがIRST Photo : USMC

ところが米海空軍は、IRSTに対して冷淡(?)であったようにも見える。実際、アメリカ製の戦闘機を見ると、IRSTを標準装備する事例はあまり多くない。ところが最近になって事情が変わってきた。

例えば米海軍は、F/A-18E/Fスーパーホーネットに後付けでIRSTを搭載する作業を進めている。ただし機内設置ではなく、胴体下面・センターラインに吊したポッドの先端にIRSTのセンサーを取り付けるという手法。これだと前上方の視界が妨げられてしまうが、機体構造に手を加えずにIRSTを後付けするには、わりと低リスクのソリューションではある。

  • IRSTポッドを胴体下面、センターラインに搭載したF/A-18Fスーパーホーネット。ポッドの先端にセンサー窓があるのが分かる Photo : US Navy

    IRSTポッドを胴体下面、センターラインに搭載したF/A-18Fスーパーホーネット。ポッドの先端にセンサー窓があるのが分かる Photo : US Navy

米空軍も同様のアプローチをとった。そこで出てきたのがレギオンIRSTポッド。先行していたのはF-15で、米空軍のF-15Cとレギオン・ポッドの組み合わせが初度運用能力(IOC : Initial Operational Capability)を達成したのは2022年1月のこと。また、F-16との組み合わせについても試験を実施している。

開発の過程では、レギオン・ポッドを搭載したF-15でAIM-9X空対空ミサイルを撃つ試験を実施した。また、2021年に実施した試験では、IRSTにAN/APG-63(V)3レーダーを併用して、AIM-120 AMRAAM(Advanced Medium Range Air-to-Air Missile)を発射した。

長射程のAMRAAMを撃てるということは、使用したIRSTが相応に長い探知可能距離を備えていることの傍証、という解釈も成立し得る。もっとも、距離が遠くなれば精度は落ちるだろうから、そこでレーダーを援用した可能性も考えられそうではある。

そのレギオンの改良型が、冒頭で名前が出たレギオンESで、F-16Vへの搭載を想定している。使用する赤外線センサーは、米海軍のF/A-18E/Fが搭載するIRST21のセンサーを活用しており、全長77in(1,956mm)、直径9.75in(248mm)、重量300lb(136kg)のポッドにまとめた。

そして空軍向けの初期型レギオンについては、海軍向けのブロックIIと同等仕様にアップグレードする計画が走っている。赤外線受信機と赤外線プロセッサを新しくするのだという。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。