ビル街の空は狭い。しかし、例外があります。それは、道路の向こうです。うまくすると、それは水平線まで突き抜け、サンセット/サンライズが見られる場合もございます。

  • マンハッタンの夕焼け

大都会のビル群の隙間、通りの向こうに沈む真っ赤な夕陽、あるいは昇る朝陽。それを「シティヘンジ」といいましょう(いまワタクシ東明がそう名付けました)。これ、英国の遺跡ストーンヘンジにちなんでおります。で、今回は、そんなシティヘンジを見てみましょうってな話です。実はこれ、太陽が昇りを真東。真西に沈み、空が澄んでいる、秋分のチョイ前、つまり今がいい時期なんでございますよ。

英国に「ストーンヘンジ」という古代遺跡がございます。なんもない野原のど真ん中に、巨大な柱状の石が円形に並んでいるものです。写真を見ると「ああ、あれかー」な、1986年ユネスコの世界遺産でございますな。4000年ほど前に建造されたものらしいです。古代人が重機もなく、どうやって作ったんかねーなものでございますな。

  • ストーンヘンジ

    夕方のストーンヘンジ (出典:Wikipedia

このストーンヘンジ、毎年夏至の日に、中心の石(祭壇石)と、100m離れた石(ヒールストーン)を結んだ線上から日が昇ります。巨大建造物と太陽の組み合わせの見事なマッチングございます。また、それにちなんで、ストーンヘンジの隙間に太陽が昇る&沈む写真は、よく撮影されております。天文学的に作られたとする説もありますが、なんらかの祭祀、宗教的な意味合いでこの配置が探られたのでは? と考えられているようですなー。

ところで、ストーンヘンジのような巨大な建造物と太陽のマッチングは、実は現在のそれにもあります。別に天文台とか日時計とか、そういうものじゃありません。祭祀や宗教のためとかでもなく、まーっすぐ道路を伸ばす、碁盤目状の都市計画の結果、そうなってしまうのです。

都市の発展により、道路の両脇に巨石ならぬ巨大なビル群が林立し、一定方向だけに抜けた空を作るのですね。そして、その先が海や湖、ストーンヘンジのような平原であり、地平線や水平線まで見通せると、ビル群の向こうに日が昇ったり、沈んだりというインスタ映えな光景が見られるのです。

こうした様子はなかなかインスタ映えするのですが、ニューヨークでのそれは、マンハッタンヘンジと呼ばれています。シカゴヘンジとか、サッポロヘンジとかいうのも言われているようです。こうした街のビル群の向こうに、絶景サンセット&サンライズが見られるのを、まとめてシティヘンジと言いましょう。はい、いまそう名付けました。

シティヘンジの代表例は、ニューヨークの中心部マンハッタン島で見られる、マンハッタンヘンジでございます。マンハッタン島は19世紀の都市計画で、東西南北から29度傾いて碁盤目状に道路が走っています。そして島なのでその先は海と川。まさに絶景サンセットのための都市です。2001年にニューヨークのヘイデン・プラネタリウムの館長になった天文学者でサイエンスライターの、ニール・ド・グラス・タイソン氏が広めて、いまや観光資源になっています。太陽の沈む方位は年を通じて変化しますが、毎年5月31日と7月12日ごろに見られます。サマータイム時期なので、日が沈むは9時前! でございますな

このマンハッタンヘンジと同様なのが、シカゴヘンジでございます。シカゴはほぼ、東西南北に通りがあります。真東。真西に太陽が昇り沈むのは、春分と秋分ころになります。3月20日とか9月23日とかですな。

日本でもサッポロヘンジというのを言っている人がいます。HBCのアナウンサーの近藤さんですな。理系&北大大学院卒&気象予報士なアナウンサーでございます。札幌も碁盤目状ですが、マンハッタンと同じく、少し通りに傾き(9度と5度)があります。ので、9度傾きの札幌中心部で、朝日だと4月11日と9月1日ごろ、夕陽だと3月7日と10月3日ごろ、5度傾きの札幌南部(南3条・4条より南)だと少しかわり、夕陽では3月14日と9月28日ごろになりますな。

さて、あなたの街ではどうでしょうか? 見込みがあるのは「碁盤目状に通りがならび、ビルが林立する大都市」で、その先を、「高速道路の高架などが邪魔しない」ところでございます。

大都市というと、まずは東京ですが、ここは皇居を中心に放射状に町が広がり、しかも丘陵に街がかかっているで、イマイチなんですよね。なので、遠くの富士山に日がかさなる、ダイヤモンド富士は流行しますが、トーキョーヘンジという言い方は、まあ聞いたことがありません。しかし、グーグルマップで見渡しても、見事にまっすぐな道がないですな。東京!

強引にみると、新宿都庁のあたりです、西は新宿中央公園だし。車道レベルからだと歩道橋が邪魔しますが人工地盤からなら。で。東西より道路がざっと12度に傾いていますね。で、計算してみると、サンセットだと2月26日と10月15日あたりですかね。ただ、そういう夕陽を撮っている人、いませんね。

東京駅の丸の内中央口から、皇居方面はどうでしょう。そんなに通りは長くないですが、たしか歩道橋とかなかったはず。まあ抜けているのでOK、道路は、東西より16度傾いています、東京駅から皇居方向だとサンセットになります。6月1日と8月15日くらいですね。逆方向だとサンライズです。2月18日と10月24日。

まっすぐな道路で、東西方向が案外ないのが東京ですね、角度は30度まではOKですので、ぜひさがしてみてくださいませ。

さて、碁盤目状で東西道路といえば、名古屋と京都が思う浮かびますな。名古屋の中心部は…おっと意外と道路がまっすぐじゃないのですが、東西より5度傾いていて距離が取れるのは、栄駅などがある錦通ですね。繁華街なのでグッドですな。新栄駅から名古屋駅方向でサンセット。伏見駅から栄駅方向でサンライズです。しらべてみると、サンセットが9月30日、サンライズが9月10日ですな。

京都はどうでしょう。中心部といえば、四条通り。祇園祭の鉾巡航を行うおかけで歩道橋がない区間がかなりあります。四条堀川の交差点の横断歩道あたりからねらうと、向こうは大文字山ですな。東西からの傾きはほぼなしです。となると、サンセットもサンライズも春分と秋分のころになりますので、3月20日と9月23日くらいになりますな。

あ、あと、大阪も結構通りが東西です。夕陽丘なんて場所もあって(天王寺のちょっと北です)なかなかよさげなんですが…どこもかしこも、高速道路の高架橋が邪魔をしてくれます。それを気にしなければ、道頓堀川がほぼ東西ですので、サンセットなら日本橋北詰の橋のあたり、サンライズなら西よりの道頓堀橋のあたりですかね。日付はやはり3月20日と9月23日でございます。

さてさて、これを調べるのに、グーグルマップで方位角を調べるサイト。みんなの知識 ちょっと便利帳を利用しました。測定が1度きざみなのですが、2日以内の誤差と思ったらよいと思います。あとは、どの方位角に日が沈むかということは、ステラナビゲータという有料ソフト(1万5000円)を使っています。調べるのが楽だからですね。ただ、日の入りの方位角は、カシオのWebサイトでも調べられます。こちらを利用されるのも手かと思います。

シティヘンジ、日本で流行る日はくるのでしょうか。絶景サンセットというと雄大な自然とセットでというイメージですが、ビルの谷間から狙うスナイプショットの日の入りも萌えそうでございます。私も東西道路をさがしてチャレンジしたく思っておりますよ。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。