大阪公立大学(大阪公大)は5月27日、3世代のクォークとレプトン(軽粒子)が1つの物質粒子に統一されるだけでなく、ヒッグス粒子が力を媒介する「ゲージ粒子」に統一される「6次元SO(20)ゲージ・ヒッグス大統一理論」を構築することに成功したと発表した。
同成果は、大阪公大大学院 理学研究科の丸信人教授、同・名古竜二朗大学院生の研究チームによるもの。詳細は、日本物理学会が刊行する、理論物理と実験物理を扱う英文のオープンアクセスジャーナル「Progress of Theoretical and Experimental Physics」に掲載された。
すべての物質粒子を統一する新理論を確立へ
物質を構成する原子は、原子核とその周囲の電子からなる。天然に存在する元素の原子核は水素を除けば陽子と中性子からなり、それらの内部では、3つのクォークが、強い力を媒介するゲージ粒子「グルーオン」によってつなぎ止められている。クォークは分割不可能な素粒子の1つであり、アップ/ダウン、チャーム/ストレンジ、トップ/ボトムという3つの世代、計6種類が存在する。
電子もまた分割不可能な素粒子であり、クォークと比べて質量が小さく、レプトンに分類される。電子は荷電レプトンの第1世代であり、ほかにもミューオン(ミュー粒子)とタウオン(タウ粒子)が存在し、計3世代がある。また電荷を持たない中性レプトンとしてニュートリノがあり、こちらも電子型、ミュー型、タウ型の3世代が存在する。
現在の素粒子物理学の「標準模型」では、自然界に存在する4つの相互作用のうち、重力を除いた電磁気力、強い力、弱い力の3つを記述することが可能だ。同模型には、物質を構成する素粒子として、6種類のクォークと6種類のレプトンに加え、電磁気力を媒介する光子、強い力を媒介するグルーオン、弱い力を媒介するW/Zボソン、さらにクォークやレプトンなどに質量を与えるヒッグス粒子が含まれる。
これらを合わせた標準模型は、実験結果と極めて高い精度で一致する一方、素粒子の種類やパラメータが多いため、より統一的な理論から導かれるべきだという指摘もある。このため、より根本的な理論として、4つの相互作用や素粒子の構造を1つの枠組みで説明する「万物の理論」が模索されているが、現時点では電磁気力と弱い力を統一した電弱理論の完成にとどまっている。
現在は、電弱理論に強い力を統合し、3つの相互作用と、クォークおよびレプトンを統一的に記述する「大統一理論」の完成に向けた段階にある。しかし多くの大統一理論では、ヒッグス粒子は統一の主役ではなく、別枠として扱ってきた。種類を減らすという観点からは、同じ「ボソン(ボース粒子)」に分類されるゲージ粒子とヒッグス粒子を統一的に扱うことができれば、理論構造はよりシンプルになることが期待される。これを、五次元以上の高次元空間へと理論を拡張することで実現しようとするのが、「ゲージ・ヒッグス大統一理論」(GHU)だ。
また、標準模型にはいくつかの未解決問題が存在するが、その1つにクォークとレプトンの「世代の謎」がある。どちらも質量の違いにより3世代構造を持つが、なぜそうなのかは、その起源は解明されていない。世代の謎を解明する考え方の1つに「世代統一」と呼ばれるものがある。これは、素粒子標準模型を含む拡張理論において、3世代のクォーク・レプトンが1つの物質粒子としてまとまっている(統一されている)と考えるものだ。そこで研究チームは今回、ゲージ・ヒッグス大統一理論の枠組みで、クォークとレプトンの世代統一を試みたという。
研究チームが以前に構築した「6次元ゲージ・ヒッグス大統一理論」では、複数の物質粒子に統一される点が課題だったとする。それに対して今回の研究では、ゲージ対称性を変更することによりその点が改善され、3世代のクォーク・レプトンを1つの物質粒子に統一するという、極めてシンプルな構造への集約に成功したという。それに加え、ヒッグス粒子をゲージ粒子に統一することにも成功。その結果、「6次元SO(20)ゲージ・ヒッグス大統一理論」が構築された。SO(20)とは「20次元特殊直交群」のことで、これは20次元空間のベクトルの長さを変えない回転対称性を表す。
今回の成果により、自然界の4つの力のうちで唯一残された重力を含めたさらなる「万物の理論」の構築へのヒントを提供することが期待されるとした。また、今回の理論が究極理論の最有力候補である「超弦理論」から導かれる可能性に新たな道筋を開いたことになるという。
研究チームは今後、今回の理論を用いて、素粒子標準模型には見られないクォーク・レプトンの質量に関する特徴的なパターンの導出、3つ相互作用を統一するエネルギースケールの解析、大統一理論の予言である「陽子崩壊の主崩壊モード」についての研究を進めていくとしている。
