2018年のノーベル生理学・医学賞は、京都大学の本庶佑先生がジェームス・アリソン先生さんとともに受賞されました。めでたい! 新型のがん治療薬「オプシーボ」の開発につながる画期的な研究でですなー。納得の受賞ですが、そこではて、過去のノーベル賞はやはり不治の病、難病治療にでているものなのか? ちょっと調べてみましたよ。

さて、ということで前回にひきつづきノーベル賞ネタでお送りいたします。前回予測(!?)した中には本庶先生は入っていませんでしたが、予想のキーになる表彰としては2016年の京都賞、2013年の文化勲章の授章者でございます。そしてクラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞については2016年受賞、朝日賞などは1981年に受賞ってことで、大本命だったのでございますな。

  • ノーベル賞メダルの公式レプリカ

    ノーベル賞メダルのレプリカ

さて、本庶先生らの受賞理由は「がん細胞が免疫を阻害するしくみ」を発見し「がんの治療に応用した」ことです。

ようは、がん細胞が人間の異物を排除する免疫機能から「透明マント」をかぶっているのを見つけたんですな。で、「透明マント」を剥いで、免疫機能が働くようにする薬、オプシーボはこの発見を手掛かりに開発された、免疫療法のがん治療薬でございます。なお、一方でこれにのっかっている「インチキな免疫療法」がはびこっていることを、本庶先生も大変懸念しておられるようですな。まあ、インチキにひっかかったら、治らないわけですからね。そりゃそうだ。

ところで、今回、まあ、何しろ、人類の敵、がんを征圧する新しい方法を編み出したわけですから、さしもの意地悪な記者も本庶先生に「それ、何の役にたつんですか?」とは言えなかったわけでございます。一方、ノーベル賞は「人類のために最大たる貢献をした人々」に贈られるわけですが、この貢献は、すぐに役に立つたたないではなく、科学の進歩に貢献するような発見かどうかがポイントではあります。

でも、まあ、やっぱり「何かの治療ができるようになる」「不治の病を克服」というと、シロウトにはポイント高いわけですな。で、実際、そういうものも受賞しています。

たとえば、2015年に大村智先生がキャンベル先生とともに受賞したのは、線虫の駆除薬イベルメクチンの開発によってです。これは犬だけでなく、1億人が感染するといわれる人間のフィラリアなどにも有効なんですな(現在はDECという別の薬も使われる)。また同年には中国の屠呦呦さんも受賞されていますが、こちらもまた人類の敵マラリアの新しい治療法を発見したことによります。

2011年、受賞発表直前に亡くなったラルフ・スタインマンさんも、また、がんの免疫療法に関わる細胞の研究で送られました。彼は自分が開発した方法で自分のがんと闘っていたのですが、力尽きたということでも話題を呼びましたね。

2008年にはエイズを引き起こすHIVの発見と、これまた話題になっている子宮頸がんを引き起こすヒトパピローマウィルスの発見が受賞になっています。ハラルド・ツア・ハウゼンさんが発見したウィルスはワクチンが開発されており、これを投与すると子宮頸がんを予防できることが知られています。日本では一時社会問題になって投与が進んでいません。

2005年のバリー・マーシャルさんとロビン・ウォレンさんのオーストラリアコンビは、ピロリ菌が胃潰瘍を引き起こすことを突き止めました。胃がんの原因になることもあるピロリ菌の退治なんていまやよくきくわけですが、このお二人のおかげなんですな。

さて、こうみると3年に1度くらいは治す系のノーベル賞です。ちょっと多いのですが、これより前はだいぶまれにはなります。ただ、ノーベル賞は1901年からあるわけで、膨大になっちゃうので、がんに絞ってみていきましょー。

1966年と1975年の受賞は、がんがウィルスによって引き起こされることがあることの発見でございますな。腫瘍ウィルスというのがあるそうなのです。ウィルスなのでワクチンが開発可能ですから、のちのヒトパピローマウィルスのワクチンなどにつながるわけです。

しかし、ウィルスによるとは…がんと風邪が似たようなものに見えてしまいますな。

ところで同じ1966年には、がんのホルモン療法がノーベル賞の対象になっています。ホルモンががんを育てることがあるということで、有名なのは乳がんに女性ホルモンのエストロゲン。前立腺がんは、男性ホルモンが作用するのだそうです。これらホルモンをおさえることで、がんの増殖を抑制できるってな研究ですな。まあ、それでがんの治療まではいかないのだそうですが。

さて、それより前だと1926年にヨハネス・フィビゲルが、寄生虫によりがんが引き起こされるということで受賞しています。後にこれは<まちがい=寄生虫だけでがんが発生したのじゃなかった>とわかるのですが、彼は人工的にがんを発生させることに成功した初めての人ではあったのです。

さて、がんの関係の受賞はまちがいだった1926年をのぞくと、1966年であり、今年まで続くわけです。それ以前は、黄熱病や結核などが人類が戦うべき病気であり、そちらのほうで受賞がでております。

ところで、がんで受賞しそこなったといわれる日本人研究者がいます。東京帝大(現 東京大学)の山極勝三郎がそうで、彼は化学物質ががんを引き起こすという仮説に基づき、うさぎの耳にコールタールを塗り続け、人工的にがんを発生させることに成功しています。この仕事は、1926年にヨハネス・フィビゲルが受賞した研究と数年しかちがわず、重要な候補にあがっていたそうですが、一説によると「東洋人にノーベル賞はまだ早い」というトホホな理由で受賞できなかったとか。もしできたら、湯川秀樹よりも20年以上よりも先んじて日本人がノーベル賞を受賞していたことになりますな。

さて、生理学・医学賞では、ほかにもCTスキャナやNMRの発明などでも受賞があったり、結構身近なものが受賞のベースになっています。まあ、そんなこといったらレントゲン写真は1901年に第一号の物理学賞を受賞しておりますけどね。

ところでよく聞く話に「風邪の治療薬を発明したらノーベル賞」というのがあります。ウィルス性の風邪(まあほとんどそうだそうですが)、は有効な治療法がなく、症状をおさえ、人間の免疫にまかせるしか、いまのところないんだそうですね。風邪は死に至ることもあり、非常に多くの人がかかる病気ですから、たしかに風邪の治療薬(風邪の症状をおさえる風邪薬ではなく)はノーベル賞の価値があるのかもしれませんなー。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。